1月30日  病室内Cafeのパジャマ・マスターについて

 うっかりしていたらパスポートが期限切れになりそうだったので先週更新手続きをし、月曜日
に池袋サンシャインシティにあるパスポートセンターに取りに行った。ICチップ入りという新しい
タイプになり、パスポートの中央辺りに厚紙状態のページが挟まれていた。海外では、
パスポートはいつも貴重品用腰巻きに入れ、ケツのあたりに入れて歩くので、これからは違和感
を感じそうだ。

 その足で新橋に出かけ、ガード下の近くで靴磨きをしている沢村チズさんに会ってきた。
年末に87歳になっているはずだが、相変わらず息子の世代にあたるサラリーマンの靴を背中
をかがめ熱心に磨いていた。隣では息子さんも黙々と靴磨きをしていた。真冬の寒々とした天候
にもめげず、明るく元気そうにしていた。沢村さんが今年も一年、仕事が続けられることを念じ、
激励して失礼した。りっぱな生き方だ。

 その後、新宿のデパートに立ち寄り、小田急線で1時間弱の東林間まで行き、手術で入院して
いる友人のライターをお見舞いした。落ち着いた病院で、廊下も広く迷うことのない作りが気に
入った。そういえば、昨年秋ごろに年配の作家の方をお見舞いした三鷹杏林大病院は迷路
だった。新築らしかったが、利用者には不親切この上ない案内で驚いた。初めてのお年寄りが
どこにどう行けばいいのかわかるとはとても思えない。それとも高齢者医療はしたくないのか?
病室を捜すのに随分と迷い、結局は外の守衛室で病棟地図のコピーをもらうしかなかった。
勤務する医療関係者のためのデザインなのかもしれない。そんな呆れた体験をしていたので、
ライター氏の病院にはほっとした。

 回復ぶりは順調そうで、3週間の間だからと贅沢に個室入院していたが、病室は疑似ホテルの
ような雰囲気さえあった。薄型テレビ、小型ラジカセ、ノートパソコン、ミニ本棚、コーヒーミル、
コーヒードリップ、流し付き水道、ユニットシャワートイレ室まで完備されている。この部屋は病室
かもと、現実に引き戻してくれるアイテムは、どうみてもビジネスホテルにある代物とはいえない
介護ベッドだけだ。締め切り間際の作家がカンヅメにされ、原稿をせかされているようなところが
ある。

 酒を生きがいとしコーヒー好きでもあるライター氏は、このときとばかりに実名から取った
Cafe Forestを数日前から開業し(主治医と看護師さんたちの許可なく)、千葉県から取り寄せる
コーヒー豆を挽き、その場でコーヒーを入れてくれた。パジャマ姿でcafeのマスターになりすました
ライター氏は、コーヒーには小うるさいカメラマンの要望どおり二杯入れてくれた。お代は取らない
というのでありがたい。

 初めて他人様の病室で味わうコーヒーは、格別の味だった。50代で仕事に乗っているライター
氏の病気入院中という証拠写真も撮らせてもらったが、後で「老いの肖像」リストに入れるのか
とメールで牽制されたので、後が怖いから写真は公開するのは控えようと思う。そこでどんな
写真かだけは解説しておこう。”Bagdad Burning”を手に取るライター氏の晴れやかな表情の
写真だ。肩からは術後の体液を排出するドレーンを入れる袋を掛けている。

 治療と快復が順調であれば、一緒に仕事をする機会もまもなく来そうだ。帰りはライター氏が
エレベーターの近くまで見送ってくれ、柱に展示してある主治医が撮った写真を見ていけと
すすめられた。飛び立とうとする白鳥の写真だった。真っ白い鳥との共通項は医師の白衣か。

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