6月24日 映画「花はどこへいった」と新谷のり子さん
静かだが怖くて強烈な映画だ。ベトナム戦争中に米軍が南北ベトナムで散布した枯葉剤に
含まれた猛毒のダイオキシンが、三世代目の子どもたちに異常な数の奇形を引き起こしている
映像の連続に圧倒される。この映画に下半身が結合したままで生まれ、分離手術が行われた
ベトちゃんドクちゃんは登場しない。その必要がないからだ。
監督の坂田雅子さんは、2003年5月4日、フォトジャーナリストだった夫のグレック・デイビス氏
を肝臓ガンで失った。入院からまもない急死だった。夫の友人だったマグナムのフィリップ・
ジョーンズ・グリフィス氏(故人、2008年3月病死)から言われたことがきっかけで枯葉剤=
エージェント・オレンジが夫の死と関係があると思うようになる。夫のグレッグは18歳でベトナム
戦争に米軍兵士として駆り出され、枯葉剤を浴び、結婚した際に坂田さんは、「子どもはできない
かもしれない」と夫からいわれていた。
今年亡くなったフィリップ・ジョーンズ・グリフィス氏は、ベトナム戦争のドキュメンタリー写真で
世界的に知られ、最近は枯葉剤の毒性で先天的に障害を持って生まれた子どもたちを撮影
した写真集「Agent Orange」を2003年に刊行している。坂田さんはグリフィス氏を伴いベトナム
各地でダイオキシンによる猛毒で奇形児として生まれてきた数多くの子どもたちを取材
しはじめた。
ホーチミン市の北にあるビエンホアのロンタンは、グレッグ・デイビス氏が米兵の時に長くいた
場所だという。いまロンタンでは、人口23万人中、1000人が枯葉剤の後遺症に苦しんでいる
という。
南北ベトナムの境界線である北緯17度線一帯は、とくに枯葉剤散布が重点的に実施された
場所だという。その南側にあるカム・ニア村は人口5673人。このうち0歳から18歳までの
障害児は158人。何と35人に1人の割合で子どもたちに後遺症が出ている。最後に奇形児が
生まれたのが2000年だというが、何と恐ろしい数字だろうか。
ベトナム戦争が終わって30年以上の歳月が過ぎた。しかし、次々に登場する子どもは誰もが
能に異常があり、寝たきりであるとか、腕や手がなかったり、眼球があっても目が見えなかった
りで、生まれてからずっと両親や兄弟が面倒を見ないと生きることができない子どもばかりだ。
こうした子どもの親の世代は、ベトナム戦争中は少年や少女だった。
グリフィス氏のことについては3月26日の雑記帳に書いたが、この映画の主人公である
故グレッグ・デイビス氏も、80年代に何度かアシスタントをしたことがあり、エディトリアル写真の
基本を学ばせてもらった。一番記憶にあるのが、真珠湾攻撃をした生き残りの元日本兵を靖国
神社の大鳥居の前でLIFE誌用に撮影した時のものだ。日本語の堪能なグレッグは大型カメラで
7〜8人の元日本兵を大きな日章旗の前で撮影したことを覚えている。グレッグが生きていれば
60歳だ。彼の遺作となった写真集「群馬」は素晴らしいモノクロ写真のドキュメンタリーだ。
彼の死後、FCCJ(日本外国特派員協会)で「群馬」の追悼写真展があったが、彼がモノクロ
写真にこだわっていたことを初めて知り、時間をかけた内容に感銘したことを思いだす。
それにしてもこんなに恐ろしい映画はめったにない。ドラム缶に塗られた一本のオレンジ色の
線。中身は枯葉剤として使用されたエージェント・オレンジ。この映画は、ベトナムのジャングル
を砂漠化し、ゲリラ勢力が潜むことができないようにとの狙いで大量に空から散布されたが、
劣化ウラン弾や原爆に等しい破壊力で世代を越えて人間の細胞や遺伝子を破壊し続ける狂気
を深く静かに伝えている。まるで誰も知りたくはない事実をこれでもかと突きつけられている
ような怖さがある。
22日、国分寺で新谷のり子さんの歌とトークを聞いたが、「花はどこへいった」の試写を新谷
のり子さんも観たとコメントしていた。「フランシーヌの場合は」(1969年)の大ヒットで一躍有名に
なった伝説的なフォークシンガーの新谷のり子さんだが、ベトナム戦争の被害をわかったつもり
で反戦活動をしてきたけれども、全くそうではなかったと話した。
映像も構成もとても初監督作品とは思えない洗練されたものを感じる。何よりも映画の根底に
あるのは、坂田監督の亡くなった夫への深い愛情だ。岩波ホールで7月4日まで上映している。
最終日はアメリカの独立記念日だ。
アメリカ政府は、元米兵がハノイ郊外に枯葉剤被害者のために建てたフレンドシップ村に
援助しない。グリフィス氏は「アメリカ政府こそがベトナムでダイオキシンの汚染の調査と治療
方法を解明するために取り組むべきだ」と批判するが、アメリカは取り組まない。
ベトナム人被害者がアメリカの裁判所に枯葉剤を供給した化学会社を訴えたが、3年前に却下
されている。米国防省に枯葉剤を大量に売りつけ莫大な利益を上げた化学会社は、
ダウ・ケミカル、ハーキュリーズ、モンサントなどである。
日本モンサント社のホームページを見ると、「遺伝子組み替え技術の可能性を最大限に活用」
したトウモロコシや大豆をスローガン的にPRしていた。さらには強力な除草剤を使っても
枯れない遺伝子組み換え作物まで売り出している。企業の利潤追求の代償がどんな結果を
招こうと構わない怖ろしい思考が見え隠れする。
戻る