竹中 俊峯 銀河出版 WAR NOVELS
初版発行 1995年1月15日 定価 本体873円+税
ISBN4-906436-55-2
「佐藤大輔ML」で存在を教えていただいた凄い架空戦記です。
石原莞爾の世界最終戦争論に基づいて「戦略攻撃軍」という3番目の軍が存在していたら、太平洋戦争はどうなったかを描いている架空戦記で、著者の方は大正14年生まれの方で、薬剤師の仕事の傍ら執筆活動を行ったそうです。巻末には、登場する架空兵器の解説が懇切丁寧に27ページも割かれている点もポイント(何の?)高いですね。
「はじめに」で、石原莞爾のことを、
「彼は、単なる戦争殺戮屋ではなく、国軍一〇万余の将兵から慈父のごとく尊崇され、隣国・中国との友好の裡に東亜有色人類の解放を目指した人間愛、人類愛にみちた世紀の英傑であった。」
とぶちあげていることを見ると、相当な信奉者な方のようです。個人的には「じゃあ何で満州事変起こしたんだ?」と突っ込みたくなりますが(^^;;;。
さらに「プロローグ」・・・。読んでて頭が痛くなってきました(笑)。何でも、この本に登場する兵器は全て現実に旧陸・海軍が有して戦場に投入したノンフィクションで、それをさらに、
「これらの延長線上に改装強力巨大化されたフィクション武力が、すなわち本書の登場兵器なのである。」
だそうです。作者の言い分はほっといて(^^;、まさにこの超兵器群がこの本の白眉です。どういう風に改装されたかを巻末の兵器表で、いくつか見てみただけで以下のようなものがあります。もちろん、これだけではありません、念のため(^^;。
・戦艦 扶桑、山城
大対空・水上機航空母艦へ大改造。搭載機は一隻あたり78機、搭載兵器は、最大射高一万八〇〇〇メートルで、半ロケット推進弾を使用すると二〇〇万メートル(東京−大阪間)の射程を持つ70口径15センチ大高角砲、7.5センチ短高射砲より、常時、間歇長距離威嚇投射される遠投射用小型爆雷三万発、陸軍九二式重機関銃33挺(ちなみに対空用)、乗員とは別に、陸戦隊員九〇〇名と装甲車や上陸用の大発等一式など、多彩な武装を誇ります。
ちなみに、有名な旧ソ連製の「スカッド・ミサイル」(無改造)の射程が約300キロですから、200万メートル=2000キロの射程を持つ15センチ大高角砲は、下手な弾道ミサイルよりも射程が上と言うことになりますね。
・伊号四〇〇型超大型潜水艦
魚雷発射管を全廃した代わりに、扶桑及び山城にも搭載されている15センチ大高角砲一門とお馴染み60口径10センチ高角砲一門、25ミリ対空機銃3連装5基、そして対空用九二式重機関銃四門も積んでいます。搭載航空機は「晴嵐改」「強風改」「紫雲改」3〜5機です。
・一〇〇式新司令部偵察機
超高空超遠超高速に改造して、海軍・高等司令部大型水上偵察機「高司偵」に。超が付けば良いってものではないでしょう(笑)。
・九五式大型陸上攻撃機
地域一周世界無着陸、超々高度用に改造して、九八式3号大型陸上攻撃機に。亜成層圏での上昇用に「H2O2」噴射を併用したオートジャイロ機能付き。胴体下面は飛行艇型で着水及び海上からの発進が可能です。
・八八式7.5cm高射砲
短砲身速射型に改造して、短身目視手動高角砲とする。大砲を長砲身にする架空戦記はいくつかありますが、短くするというのは珍しいです。しかもわざわざ目視照準にしてるし。人員は一門につき12名だったのを4名に減らしたそうです(笑)。
・大探照灯
えー、説明は巻末の説明を写したここを読んでください。この架空戦記の主役でしょう(爆)。これも東京−大阪間と同じ二〇〇万メートル届くそうです。
戦略攻撃軍、略して戦攻軍の戦略としては、伊勢&日向や伊号400型でアメリカ沿岸200万メートルまで近づき、搭載機を発進してアメリカを爆撃し、艦船も射程200万メートルの15センチ大高角砲と520センチ大探照灯で攻撃を行います。半ロケット推進の15センチ砲弾の炸裂は、「海底火山群の連続爆発」、オーロラを発生させる520センチ大探照灯は「日本軍の殺人光線」or「日本軍の怪力光線」と判断してアメリカ人は逃げまどいます。大探照灯が投射された地域には、「24時間の間、地上光を遮るところに隠れて生水は飲まないように」と指示する念の入れようです。
高度一万八〇〇〇メートルから爆撃を行う、九五式大型陸上攻撃機の爆弾は最初航空機からの爆撃とはアメリカにはわからず、「隕石爆弾」と思われてアメリカを恐怖に陥れましたが、「ウィルソン天文台」の120センチ反射望遠鏡により正体がばれてしまい、機体の太陽反射光のスペクトル輝線まで分析されてしまいます。
戦攻軍は戦地の自給自足にも気を使っています。策源地農耕班を作り、日本式農業を行って、陸稲、大麦、いも、ばなな、砂糖黍、パイナップルなどを収穫し、動物性タンパク源はトロール船で捕獲した魚を当ててます。大規模な事業を行うのですから、原住民への影響も計り知れないモノがあると思われますが、そこも抜かりはありません。ちゃんとヤシの実と野豚の捕獲は厳禁されています。これは原住民の主食であり、そのために確保しなければならないからです。これで「原住民をいたわる」ことは完璧らしいです。私にはえらい人種差別の気がします(笑)。
旧陸・海軍は航空機のエンジン不調に悩まされましたが、戦攻軍は問題ありません。何故なら戦攻軍の航空機エンジンは全て中島飛行機製2450馬力の「誉」エンジンで統一されているからです。あの〜〜、旧陸・海軍機のエンジンが不調だったのは、何でもかんでも新型機に「誉」エンジンを積んだのが、かなり大きな原因なんですけど(--;;;。
あと笑えたのが、作中で戦略攻撃軍用の航空機量産は関西地区に限定されているのですが、そのことを「実に賢明であった」と述べ、理由として「関東地方の人口が多く、東京を中心とする関東人の性格が何事もことさら大げさにしてしまうことをおもんぱかったからである」。
作者の方は関西人のようですが、関東が嫌いなようですね(笑)。戦略攻撃軍の飛行機が飛んでいるのを見て勇気づけられる一般人は関西の人間ばかりで、「兵庫県甲南の地の住民に無言の頼もしさをあたえていたのである」とかばっかりだし。少しは関東にも分けてください(^^;;;。よく考えてみたら、15センチ大高角砲と大探照灯の射程が「東京−大阪間」と強調しているのも意味があるのかも(爆)。
そういえば、この作品「東京−大阪間」の距離を「200万メートル」つまり2000キロメートルと何回もいってますけど、「東京−大阪間」の実際の距離は、だいたい500キロぐらいじゃありませんでしたっけ? 関西人である著者には、東京を中心とする関東地方が「天外魔境」か「世界の果て」のように感じられるのかもしれません。
ただ、ホントに噴飯モノの本だったのですが、私にはこの本を素直に笑い飛ばすことが出来ませんでした。著者の人は大正生まれで相当な年輩の方ですが、この本は著者が若い頃に出回っていた昔の戦争モノの読み物のノリで書かれているからです。つまり作者が若い頃にはこれが一般的な「リアル(?)」だったのでしょう。私たちが今読んでいる架空戦記も何十年かしたら、若い人の笑いの的になっていると思い、少し気分が暗くなりました。でもせめて日本地理ぐらいは正確にして欲しかったです。(笑)