レヴァイアサン戦記 (1999.9.7追加)
夏見 正隆 徳間文庫
1巻 「帝都東京分裂」
初版発行 1994年9月15日 定価 本体466円+税
ISBN4-19-890191-0
2巻 「東日本共和国侵攻」
初版発行 1995年1月15日 定価 本体466円+税
ISBN4-19-890254-2
3巻 「激突!西日本帝国」
初版発行 1995年7月15日 定価 本体621円+税
ISBN4-19-890349-2
4巻 「女王蜂出撃!」
初版発行 1995年11月15日 定価 本体505円+税
ISBN4-19-890427-8
5巻 「レヴァイアサン殲滅」
初版発行 1996年11月15日 定価 本体602円+税
ISBN4-19-890593-2
ミッドウェー海戦等で大勝して、有利な条件で連合国と講和できたが、その後発生したソ連の後押しによる共産主義者の反乱から始まった内戦で、茨城、埼玉のあたりで東西に分裂してしまった日本。
20世紀末のある日、東日本を影から操るネオ・ソビエトの宇宙軍が外宇宙から来た「黒い球体」を大気圏外で撃墜してしまう。それは地球外星間文明が木星の衛星エウロパを開拓するために送られたが、不良で放棄された生体惑星改造ユニット。
「レヴァイアサン」と名付けられたその怪獣は東日本の阿武隈近くに襲来、立ちふさがる村の住人などを全て補食しながら、一路、人口密集地帯の東京に向かう。
おバカな対応で、民衆の避難を促進するどころか反対に遅らせまくる西日本の官僚組織、そして、表では怪獣を倒すために西日本と手を結びつつ、裏では、この機に乗じて一気に西日本解放を目指すべく行動する東日本軍によって、大混乱状態に陥る日本。
だが、この危機を救うべく、西日本は星間知性体の助力を得て、<究極戦機>UFC1001を開発、レヴァイアサンに戦闘を挑む!
……と、まあ簡単なあらすじ説明から判るとおり、この作品は、「架空戦記」のように見える作品てが、5巻のあとがきで作者自身が言っているように「架空戦記の名を借りた怪獣小説」です。ただ売れ行きのために「架空戦記色」を強くしていただけで。
と学会の「トンデモ本の世界」などで指摘があったように、「架空戦記」としてはかなり変な作品ですね。細かい軍事考証がてんでなってません。
西日本帝国に、戦艦大和が生き残っているのはまあ良いとして、ろくすっぽ改造もせずに空母赤城(もちろん第2次世界大戦で活躍したのと同じ)がF/A−18ホーネットを運用していたり、T80戦車は本来は3人乗りで125ミリ砲を装備しているはずなのに、何故か4人乗りで120ミリ砲装備になっていたりとか、全然ダメですね。
ただ、リアルさが無いかというと、そうでも有りません。この作品世界自体が現実世界の痛烈なパロディになっているので、かなりのリアル感を感じさせてくれます。
西日本が「西日本帝国」と称して、大日本帝国の路線を引き継ぐ資本主義国家、東日本が「東日本共和国」と称し、「世界で一番正しくて偉くて偉大な指導者」山多田大三に率いられた平等党が統治する共産主義国家。
いや、この2つの国家ともに、資本主義(特に今の日本)、共産主義という名の独裁(近いのは北朝鮮)のもの凄いブラックジョークになっているのがナイスです。
西日本はバブル真っ盛り期の日本と同じとしておけば、間違いないですね。
まあ、木谷首相という、かなりまともな指導者がいる点は違いますが。
ただ、今の日本より悪いところも多々あって、大蔵省は独自の武装組織「特別武装徴収隊」を持っていて、今の日本の大蔵省なんて目じゃないほどの権力を持っています。
その力は、怪獣から逃げようとする民衆に対して、道路を封鎖、特別確定申告事務所を設営して、避難民から無理矢理税金の取り立てを行えるほど。もちろん、その場で税金を払わなければ、即座に銃殺です。軍がその暴挙を止めようとしても、予算を握っているのは大蔵省ですから、逆らえません。
一方、東日本。
「世界で一番正しくて偉くて偉大な指導者」こと山多田大三が治める独裁国家。ちょうど、今の北朝鮮と敗戦直前の日本のあいの子のような国家です。いや、それより酷いか。
東日本の人口は6200万人、国政を握る平等党の役員とその家族が200万人、残りの国民6000万人は、全て農民、工員、兵士に分類され、一般国民もしくは<番号国民>と呼ばれています。
一般国民は6歳から農場や工場での労働につくことになりますが、学校には行かせず、農場や工場の教室で1日2時間、2年間だけひらがな、カタカナ、足し算、引き算を教えるだけです。漢字は教えません、西日本の出版物が読めてしまうからです。割り算も教えません、一人当たりの農産物分配率や、一人当たり国民総生産を計算する人間が出てくるからです。そのかわり、かけ算の九九だけは徹底的に教え込まれているので、『東日本国民は世界に類を見ない優秀な国民』ということになってます。
あとは、宣伝に満ちた「山多田大三先生が東日本共和国を建国されたときの勇壮な物語」を、これでもかこれでもかと覚えさせられることは当然!
一応、テストのようなものもありますが、「絶対平等主義」を掲げる東日本では、どんなに頑張っても、白紙で提出しても全部、点数は100点。通信簿も全員、全教科<よくできました>の評価しかもらえません。もっとも、頑張ったところで、工員の子は工員、農民の子は農民ですから、成績なんか関係ないですし。
というわけで、この国で外国語や高等数学などを学ぶ「本当の学生」は、平等党の役員の子弟だけに限られますが、彼らは貴族階級で有るが故に、真面目に勉強しようなんてタイプは珍しいですし、何よりも数が少なすぎます。というわけで、この東日本の各種産業は潰滅状態で、未だに旧式のMig21すら国産出来ません。
国の雰囲気も、国民全体にやる気の無さがみなぎっており、農民は自分たちでこっそり作った「隠し田」以外では、真面目に働こうとせず、警察組織も思想関係を担当するエリートの特別平等警察こと「特平」を除いて、やる気ゼロで、いつも農場や工場から物資をせびることに忙しいです。
<正義と平等の使者・世界の救世主>であり、かつ「世界で一番強い」と自称している東日本軍も、実体は内部で横領が続発し、構成員は隙有れば芋ウォッカを飲んで酔っぱらっている集団ですし。ただ、気合いだけは入りまくっていて、追いつめられたとき、降伏するよりも旧日本軍がよく行った無謀な「バンザイ突撃」を行いますし、「この世界の日本」では実行していない爆装した航空機による体当たり攻撃「特攻」すら平気で行う軍隊ですが。
こんな国家でも、西日本と互角に対抗できる理由はただ一つ、ソビエト連邦が崩壊したときに、北日本に亡命してきた旧共産党の新中枢貴族こと「ネオ・ソビエト」が持ち込んだ宇宙兵器などによるものです。
彼らは宇宙空母や戦闘宇宙シャトル、「労働者の守護神」ことSS20核ミサイルなどをソ連崩壊寸前に持ち込んでおり、これらなくして東日本は、西日本帝国に対抗できません。
もっとも、旧共産党の貴族階級だけ有って、彼らが毎日、暫定首都新潟のホテルで開いているパーティに出てくるキャビア1日分だけで、東日本国民6000万人の一年の食費に相当しますが。
ちなみにネオ・ソビエトの指導者は「永代書記長」と呼ばれてたりで、彼らは完全な貴族の中の貴族です……な筈なのに、こいつらが数ある登場人物の中では、一番まともに見えるのが何とも(^^;
ネオ・ソビエトの面子を除いて、この東日本でただ一人好き放題出来るのは、独裁者である山多田大三だけです。彼は全員マインドコントロールを受けて、一部は生体改造すら受けた美少女で構成されたハーレム兼用親衛隊「議事堂警護隊」によって常に守られ、何憚るところ無く物事を進めています。
閣議では、多少諫言を言った閣僚は、即座にその場で銃殺されて、山多田の命令ならば、どんな無茶な命令でもまかりとおります。さらには、閣議の後には全国から強制的に集められた「バンザイ国民」という十数万人の民衆が議事堂下に待機させられていて、
「国民に対する給料及び食料配給の完全停止、全国民はこれから自己の責任で必要な栄養を摂ること」
なんて凄まじすぎる公布に対しても、
『東日本国民は、山多田先生の愛と勇気あふれるご決断に感動し、新たな建国の決意に燃えて、熱狂的にバンザイしている!!』
ということで強制的にバンザイをさせられます。少しでもバンザイに気合いの入っていないのがいたら、近くにいる衛兵によって、即座に自動小銃で射殺されるので、何が何だか判らなくても、必死でバンザイをしなくてはなりません。
その他、レヴァイアサンの誘導の為に、6000万人の国民のうち100万人を「いらない国民」として、100人単位でレヴァイアサンの餌にしたり、航空機に「この世界」では存在しなかった「特攻」をやらせたり、味方の陸軍部隊がいても、無視して核ミサイルを撃ち込んだり、凄まじすぎます。
いや〜、まさしく「悪」ですよ、この山多田大三というキャラは。2巻から登場するこのキャラの活躍(?)を読むためだけにこのシリーズ読んでも損は無いでしょう。私も2巻の山多田先生を見て、その凄まじさに思わずこのシリーズを買ってしまった口です(笑)。
いやあ、ここまでやられると、もはや笑うしかないですね。もし、私がこの小説をどういうジャンルに分けるかというと、やっぱりジョージ・オーウェルの「1984年」等に近い「デストピア小説」ですかね。
はっきり言って、架空戦記小説、いや怪獣小説単体として見ても、たいして面白い小説では無いかもしれませんが、こちらの政治的にブラックな描写と、それに翻弄される一人一人の平凡な名も無き登場人物の運命を丁寧に描いていることにより一級の作品になっています。よくぞまあ、ここまで「狂った」世界を作り上げてくれたものです。
この作家、この作品の続編にあたる「私のファルコン」(何故か、出版社は徳間ではなく、朝日ソノラマ。しかも「レヴァイアサン戦記が完結する前に出たのに、最初の粗筋で「レヴァイアサン戦記」のラストのネタバレをしてしまった、どうしようも無い作品)以外は、別の方面に進出していますが、はっきり言って全然面白くないので、早くこっちの方面に帰ってきて欲しいトコです。
「私のファルコン」では、すでに山多田大三先生率いる平等党は東日本を追放されて、反乱を起こしたはずのネオ・ソビエト一派の下で何とか生き延びている状況なので、その間に何が起こったかの詳細ぐらいは知りたいですし。