新 旭日の艦隊15 風雲カルパティア要塞  (2000.6.27追加)

  荒巻 義雄  中央公論新社 C☆NOVELS

  初版発行 2000年6月25日  定価 本体800円+税

  ISBN4-12-500660-1


 このシリーズの舞台はルーマニア及びハンガリー攻略戦です。

 この巻では、ハンガリーの首都ブダペスト攻略戦に、黒装束をまとい、痺れ薬を塗った十字手裏剣と鎖分銅を使って、敵と戦う忍者部隊「山王烏天狗隊」が登場します。

 ただ、部隊の運用方法としては、敵の要塞に忍び込んで破壊工作等を行い、すぐに引き上げるという普通の特殊部隊と同じで芸がありません。

 アメリカ大陸に数十人単位で放り込むだけで、空母や原爆を日本に持ち帰ることが可能な霧島那智の海軍忍者部隊とは、レベルが違いすぎますので、そちら方面を期待した方は買わない方が良いです。

 あと、荒巻義雄といえば、やけに長いあとがき(今巻は33ページの消費)ですが、このP207で、

「本巻を以て通巻60巻になる艦隊シリーズも実は、作者固有の感性の蜘蛛が自走して紡いだ、巨大にして重層的メタファーなのである。ポストモダンと言われる現代批評理論と臥所を共にすれば、当然、そうなるのであるが、現代思想を知らない読み手にはただの戦争SFでしかない−嗚呼。」

と、凄いことを叫んでます。

 私もポストモダンなどは良く判らない方ですけど、それでも、この「艦隊」シリーズは、そっちの傾向がある方々からは、ほとんど相手にされてないと思います。

 それでも、著者の言いたいことはよく理解できます。私に言わせれば、昔はともかくとして、現在の「艦隊」シリーズは戦争SF、つまり架空戦記ではなく、ユートピア小説ですから。

 「史実の日本とは違った日本で、もう一度太平洋戦争を戦いたい」という願望が、架空戦記を生んだとすれば、全ての架空戦記がユートピア小説と言えるのでしょうが、「艦隊」シリーズの場合、刊行当時の時事ネタを消化しつつ、著者の理想的ユートピア世界観を語るだけの出版物(小説ではなく!!)になってますからね。

 今回は続発する少年犯罪を受けて、青少年への教育ネタを、作者の分身たる大高などのキャラクタが、いつものように鼻につくぐらい朗々と語ってのけます。読んでいて頭が痛くなってくるんですけど。

 「艦隊」シリーズには、他の小説と比べても、描写が薄く、あまりにも典型的なキャラクタが多いですが、これも著者の繰り言を効率的に語るために、こうしているのでは無いかとまで思えてきます。キャラクタ描写の出来ない作家ではないですからね、この人。

 ただ、確かに政治などの資料をよく読んで調べこんでいて、決して根拠のない意見ではないことが多いのですが、はっきり言って自分の作品の中だけで自己満足的な書生論を述べているような気がして、個人的に好みに合いません。イライラしてきます。実行できそうもない正論しか述べてないことも多いです。この世の中は正論だけでは動かないというのに。

 こういう作品があるから、「世の中は筋の通らないことばかりで、絶対的な正義や悪は無い」という当たり前のことを前提にしていて、主人公達もあらゆる手段を使って生き延びようとする佐藤大輔や夏見正隆などの作品に、私は共感をさらによせるのかもしれませんね。

  

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