田中 光二 学研 歴史群像新書
1巻 異説バトル・オブ・ブリテン (1999.2.3追加)
初版発行 1997年2月4日 定価 本体800円+税
ISBN4-05-401047-4
1巻 異説バトル・オブ・ブリテン (1999.2.3追加)
時は1940年6月30日、第2次世界大戦でフランスが降伏した直後。この本は、いきなり予言者ノストラダムスの亡霊の自己紹介から始まります。6ページほど、自分の自己紹介にあてたあと、ノストラダムスはイギリスの首相チャーチルと、ドイツの総統ヒトラーの紹介をします。
チャーチルは、イギリスのドルイド僧たちがヒトラーに、
「ダンケルクの敵は見逃すように」
というテレパシーを送ったので、ヒトラーの判断を誤らせ、ダンケルクから連合軍が無事に脱出できたことを知り、さらにノストラダムスの予言の的中度に驚き、心霊作戦局を設立します。
一方、ドイツでは総統のヒトラー自身が、霊媒的素質を持っており、さらに、親衛隊長官のヒムラーは高レベルの魔術師であり、自分の居城ヴェーヴェルスブルク城の地下で。オカルト問題を担当する「国家保安本部第7局」のメンバーと共に、しょっちゅう黒ミサを開くなどの手練れであることなどを、ノストラダムスの亡霊が解説してくれました。
ノストラダムスの亡霊は、他にも大活躍で、ヒトラーのことを自分が予言した「ヒスラー」に違いないと、一人で勝手に納得したり、
「ノストラダムスの詩と同じように行動したのに、バトル・オブ・ブリテンに破れたのは何故だ」
と一人で悩むヒトラーの前に突然現れ、
「尊敬するノストラダムス。何故あなたの予言は外れたのでしょう」
と、かしこまって尋ねるヒトラーに対して、
「わしのかいまみた来るべき世界は、人間が辿りうる時系列の一つの世界に過ぎず、イギリスは霊界の力を借りて努力したので、歴史が変わった」
と、予言が外れたことへの言い訳までしてくれるほどです。
そして、いよいよイギリス航空撃滅戦「バトル・オブ・ブリテン」の開始です。イギリスはストーンヘンジなどの遺跡の力なども使用、イギリス本土の周りに霊的防御線(レイライン)を張り巡らします。そして、そこに近寄ったドイツのパイロットは、全員頭痛や、吐き気を覚えたりして体調が悪くなったので、イギリスは有利に戦闘を進めていきます。
それに対抗して、ドイツはヒムラー率いる魔術師集団が呪術を用いて、レイラインの効力を弱めたので、何とかドイツ機は無事にイギリス本土に進入できるようになりました。
ちなみに大規模な魔術を行使するには、人身御供が必要なので、ドイツは強制収容所の囚人や、レーベンスボルン(純粋なゲルマン民族の子孫を残すための、ナチスドイツの生殖センター)所属のゲルマン民族の乙女を生け贄に。イギリスもイギリスで、密かに戦争捕虜や死刑囚を生け贄にしてます。
イギリスとドイツの霊的戦闘が激化するにつれて、謎の飛行物体を目撃したなどの話がパイロットの間で飛び交うようになりました。
ちなみにドイツでは、親衛隊の外郭団体で、かつ秘密結社であるヴリル協会にて、異星の優れたテクノロジーを教えてもらうためにアルデバラン星人とチャネリングを行っています。その目的は、電磁波の力で時速数千キロを叩きだす円盤形飛行機を製作することですが、まだ実用に耐えるモノは完成していないので、単なる両軍の魔術合戦の余波だと思われます。
度重なる霊的戦闘の末、ドイツはついに「ウォータン作戦」を実行。それは、ヒムラー&魔術師の魔術で古のゲルマン民族の戦神「ウォータン」を召還、無人のJu88爆撃機50機にウォータン神を憑依させてコントロールするというものでした。
50機の爆撃機の周りには黒雲と共にエネルギー・シールドが発生、接近するイギリスの戦闘機は全て、その黒雲に食べられるようにして消滅していきます。
これに対して、イギリスは、戦死したパイロットの亡霊を「あの世」から呼び出して戦わせる魔道的秘技で対抗。約100機の撃墜されたはずの戦闘機が光をまといつつ出現、ドイツの幽霊爆撃機を次々と叩き落とした後、消えていきました。ヒムラー&配下の魔術師も、それによって「呪い返し」を食らうことになり、何人かの死亡者が出るなど、大ダメージを受けて、ここにバトル・オブ・ブリテンでの、イギリスの勝利が確定したのでした。
ただし、当然のごとく、怪現象の目撃者も大量に出ましたが、表向きには単なる集団幻覚として片づけられたのはいうまでも、ありません。
あとがきを見る限り、作者はこれが荒唐無稽な作品であることを認識して、「オカルト的要素をからめた世界大戦記」を書こうとしており、その試みは成功しているでしょう。史実通りの戦争展開の裏に繰り広げられる魔術戦争という話としては、なかなかの出来だと思いますし。
それに「アッチ系統の知識」について、かなりの調査をしたことは充分に伺えます。
ただ、私が驚いたのは、作者がこの本を書いた理由が、あとがきを読む限り、「インディ・ジョーンズのような話を書きたかった」ということとしか思えないことです。失われた聖櫃(アーク)という単語が出てきたり、あとがきの最後に、
「インディ・ジョーンズとジェームス・ボンドを足して2で割ったようなヒーローがさっそうと登場する予定だ」
って、断言してます。まあ、お手並み拝見ですね。