第三帝国の要塞―第二次世界大戦におけるドイツの防御施設および防衛体制 (2006.7.13 追加)amazon

 著 J・E・カウフマン&H・W・カウフマン イラスト ロベルト・M・ユルガ 訳 平田光夫 大日本絵画
 初版発行 2006年8月3日  定価 本体4,300円+税

 ISBN4-499-22913-8


 ナチス第三帝国が戦時中に使用した「要塞施設」について書かれた本です。

 第一次大戦敗北直後から第二次大戦勃発直前まで徐々に発展していく国境要塞の各種施設、ポーランド消滅後に国境を接することになった独ソ国境の防御陣地、ドイツ・フランス国境の「西方防壁」、大都市での空襲防御用シェルターや高射砲塔、ヒトラーの「総統大本営」、フランスでの「大西洋要塞」、フランス沿岸のUボートブンカー、ノルウェーの重防御沿岸要塞、極北のフィンランド北方の防衛ライン、要塞化されたV1、V2の発射施設、イタリアの「ゴシックライン」などの野戦防御陣地、東部戦線後半での「パンターライン」などの防御陣地、大戦末期にヒトラーが宣言しまくった名前だけの「要塞都市」「要塞地域」……etc、と、およそナチス第三帝国が使用した恒久的防御施設とその運用体制について、当時の写真や構成図、現在の実地調査における写真等を使用して解説しています。
 
 前書きにもあるように、世界各国の「要塞マニア」とでも言うべき人たちが集まって作った感じの本でもあります(謝辞によると、大元はここみたいですね)
 ある意味、インターネット時代だからこそ生まれた本かと。
 それと資料元として上げられている本が、「大西洋防壁における類型学」「外洋要塞ヘルゴラント」「第919擲弾兵連隊、カイル戦闘集団(ノルマンディー戦で最初に連合軍の攻撃を受けた第709師団第919擲弾兵連隊長ギュンター・カイル中佐の回想録)」「ドイツ軍のコンクリート製防御施設に関する報告書」など、題名からだけでも「何だ、それは?」と思うようなのが多いです。

 読んでみて一番思ったのは、大陸国での国境防御ってひたすら大変だなあと。
 国境地帯の要塞施設に必要な装甲版とかコンクリートの量とか半端じゃ無いことが、物凄くよく判ります。
 日本みたいな周りを海で囲まれている島国の場合、こういう国境防御施設を作らなくても良いだけ、防御面では非常に楽なコトが良く実感できました。
 国境要塞を作るのと同じだけの資源を軍艦に回すだけで、戦略的柔軟性も物凄く広がりますし。

 それと硫黄島や沖縄などの島嶼死守用の大戦中の日本軍要塞施設を知っていると、かなり違和感も感じます。
 そもそも「思想」が違いますから。
 この本で紹介されている防御施設は主に「線」を守るもので、日本軍の島嶼防御施設は「点」を守るものという感じですか。
 「見つかったら破壊される」のを前提としてひたすら隠蔽しまくりの日本軍防御陣地と比べて、ドイツの方は隠蔽にはそれほど気を使っていない感じも受けます。
 確かに、非常に分厚いコンクリートでほとんどの攻撃を跳ね返すだけの防御力がドイツの要塞施設にはある訳ですが、それでも見つかりやすいというのは難点であるわけで。
 実際、大戦末期になると、どんな重防御施設もイギリスのランカスター爆撃機から投下される「トールボーイ」爆弾を食らって、破壊されまくってます。

 その他思ったことはこんな感じで。

・1944年9月にアメリカ軍が、フランスのブレスト要塞を攻略したときの戦死者は約一万人ですか。
 硫黄島戦並みの損害ですね。
 フランスにある他の要塞地帯を包囲だけに留めたのも納得できます。

・結局、フランスのロリアンなどの要塞地帯に終戦まで取り残されたドイツ軍は約12万人。
 西部戦線に初めてやってきた連合軍地上部隊はまず最初にここに配備され、実戦を経験してから他の最前線に回されているので、もはや連合軍の訓練施設扱いされてたり。

・要塞内のトイレ施設やポータブルトイレなどについても解説されています。

・実戦でドイツの要塞が発揮した防御力も書かれていますが、かなり強いですねえ。まあその分鉄筋コンクリートとかの材料も大量に使用しているのですが。

・要塞用装甲版とか一人用野戦防御施設などがきちんと細かく規格されているのは、流石ドイツ軍と思ったり。

・ドイツでの大都市の防空壕って地下に掘るのではなく、地上に設置された分厚いコンクリート製(壁の厚さ2〜3メートル)の巨大タワーなのですね。
 ちゃんと内部に男女別トイレとか水道管とか電気も備え付けられている等、設備も充実しているので、日本の粗末な防空壕とは雲泥の差がありすぎて悲しくなってきます。
 けど、普通の破片をまき散らす通常爆弾に対しては無敵の防御を誇りますが(恐らく核爆弾にもかなり耐えるでしょう)、焼夷弾攻撃による大火災では内部の避難民が窒息死することもあったようで、主に焼夷弾攻撃を食らった日本の大都市に同様のものがあったとしても大して役に立たなかったかもしれません。


 とりあえず、類書がこれまで存在しなかったある意味非常に狂った本です。
 よくぞまあここまで偏執狂的に「防御施設」について、まとめたもんですね。
 昔のお城の防御施設や要塞の防御施設などの解説図などに、胸躍らされた経験のある方になら問答無用でお薦めですが、それ以外の属性を持つ軍事マニアにはお薦め出来ない本かと。
 むしろ、歴史マニア系の「城マニア」の方にお薦めな本かもしれません。


 

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