第二次大戦駆逐艦総覧 (2000.3.11 追加)
M.J.ホイットレー 著 岩重多四郎 訳 大日本絵画
初版発行 2000年5月 定価 本体4,200円+税
ISBN4-499-22710-0
第二次世界大戦時に在籍していた、世界中の全ての「駆逐艦」について,網羅した本です。
国別に分けると、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、デンマーク、フランス、ドイツ、イギリス、ギリシャ、イタリア、日本、オランダ、ノルウェイ、ペルー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、タイ、ソビエト連邦、スペイン、スウェーデン、トルコ、アメリカ合衆国、ユーゴスラヴィアの26ヶ国です。
その全ての駆逐艦について、級別に艦名、建造所、起工日、進水日、就役日、結末日が全て、記載されています。級別の解説については、性能諸元、デザイン、変遷、戦歴の項目に分かれて構成されています。
この本を読むと、国ごとに様々な特徴がありますね。
・イギリス
1戦隊8隻単位で、いちいち「級」を分けているので、一番紹介されている「級」の数が多いです。
第二次大戦の戦訓として、
「駆逐艦の後部主砲は不要」
という経験を導き出し、前にしか主砲塔が無かったり、後部砲塔なのに方向が前を向いていて、後方射界が制限された駆逐艦を建造しています。
こんな戦訓が出てくるってことは、大戦中、イギリスの駆逐艦はひたすら前方に主砲を乱射しつつ、突撃していく戦い方しかしなかったんでしょうね。
ソロモン諸島等の狭隘な島嶼地域で、夜間、敵味方入り乱れての乱戦を繰り広げたアメリカ&日本の場合,後部砲塔も大事ですから、こういう考え方は出てこないでしょう。
日本の駆逐艦の場合は、敵制海権下の島に強行輸送を行った後、追撃してくる敵艦隊から、全速力で逃げつつ、後部砲塔で応戦することが多かったですから、後部砲塔の方が早く弾薬を撃ち尽くしてしまったぐらいですし。
・ドイツ
ドイツ製の正規の艦隊型駆逐艦は大戦初めのノルウェー侵攻作戦で、ほぼ全滅(イギリスの戦艦ウォースパイト1隻のために10隻の駆逐艦が全滅したりしてますし)。その後は大型水雷艇および敵国からの捕獲駆逐艦で戦い抜いてます。実戦では、自国製の駆逐艦より、旧敵国の捕獲駆逐艦の方が活躍してます。
・イタリア
大型艦艇が燃料不足で活躍できない分、駆逐艦がイギリス軍との戦闘を一手に引き受けています。損害も、イギリスとの水上戦闘によるものが多いです。
・アメリカ
ソロモン諸島での水上戦闘でも、大損害を受けてますが、一番の損害は1945年の神風攻撃で生じてます。
巻末に、「特攻作戦による米海軍駆逐艦系艦種の被害一覧」という表があって、その多さに驚かされます。これほどの損害、アメリカ以外では耐えられそうも無いです。
・ペルー
駆逐艦をアマゾン河を3000マイル遡って、南米奥地に常駐させたのは、この国ぐらいです。
・日本
竣工してから、3〜4ヶ月で沈んでしまった駆逐艦が珍しくありません。まさに大消耗戦です。
その大消耗の中、終戦まで日本軍の駆逐艦部隊は実戦能力を保ちつづけるのですけど、よく乗せる人材の方も育成できたなあ、という感じを受けました。
さて、各国の駆逐艦を比べてみると、日本の駆逐艦って実はハード的に、一番バランスが取れた性能なのではなのかと思えてきました。
対空能力の低さを悪く言われることが多い12.7cm主砲ですけど、実は水平射撃&対空射撃を両方こなせる両用砲を駆逐艦に採用したのは、日本が始めてで、他の国では大戦中も、アメリカを除いて、平射砲と高角砲を別々に装備する艦ばかりだったりしますし。
特にイギリスでは、駆逐艦の主砲では4タイプが試行錯誤されながら、別々に装備される始末で、大戦末期の「バトル」級になるまで、まともな駆逐艦両用砲は装備されなかったことを思えば、かなりの進歩。
排水量の割には、かなり重武装で、最初は第4艦隊事件に見られるように、復元性等に難が有りましたが、改修後はそれも無くなりましたし。
この本に掲載されている喪失理由で、大戦中、主要海軍国の駆逐艦で「悪天候で難破」が幾つかありますけど、日本はそれが無いだけでも凄いかと。
排水量の割には重武装という国には,他にイタリアがありますけど、ここは日本以上に悪天候には弱いですし、航続距離も短いです。
そんなこんなで、当時の世界の駆逐艦では,日本の「秋月」級が一番性能のバランスが取れて優れている感じを受けました。
建造期間が2年近くかかって(ただし、最短では10ヶ月)、量産向きではないという意見もあるでしょうが、「秋月」級よりサイズが小さい、アメリカの艦隊型駆逐艦「フレッチャー」級の建造期間が1年数ヶ月、イギリスの「バトル」級1942年計画艦が、2〜3年かかっているのを考えれば、充分立派でしょう。
ただ、「フレッチャー」級の次のクラスの「アレン・M・サムナー」級、「ギアリング」級が、6〜7ヶ月に建造期間が短縮されているあたりは、さすがアメリカの工業力を感じさせます。
しかし、この本に書かれている各駆逐艦の建造期間を見てると、その国の造船能力がよく判りますね。
もちろん、アメリカが造船所の能力的にも、数的にも一番優れているのは、もちろんですが、日本もイギリスと並んで、その次ぐらいには充分、位置していると思います。日本の一番の難点は、大規模造船所の数の不足ですけど。
この本は、第二次大戦時の艦船が好きな人にとっては、絶対に買いです。これだけの内容で4200円は安い、とまで言ってもいいでしょう。
ヒマなときにパラパラと、各艦艇のスペックを見るだけでも楽しめる本ですね。
私的に、一番性能が気に入ったのは,1943年に建造されたイタリアの「アリエーテ」級です。基準排水量745tで、10センチ砲2門、20ミリ機銃10門、魚雷発射管6門、速力31ノットの性能は立派でしょう。
ただ、イタリア降伏までにイタリア軍に加わったのは、第一艦の「アリエーテ」だけで、他の13隻は建造中にドイツに捕獲されて、ドイツ駆逐艦として完成してますけど(^^;。