新・戦争のテクノロジー
著者 ジェイムズ・F・ダニガン 訳 岡 芳輝 河出書房新社
ISBN4-309-24135-2
現代戦を解説した本は数あれど、ここまで徹底して分析した本は恐らく存在しないでしょう。原著は1988年に書かれたものですが全く古さを感じさせず、ソ連がまだ崩壊していないときに「ソビエト連邦という体制はいずれなくなるかもしれないが、ロシア人は末永くロシア人であり続けるだろう」という理由で、すべてソ連人ではなくロシア人の呼び方で一貫させていること等には先見の明を感じます。
構成としては、
第1部 地上戦闘
戦争の人的被害の大部分を生じる地上部隊について、歩兵部隊、戦車部隊、砲兵部隊、その他の支援部隊、準軍事部隊、非常時に召集される予備役兵員の基本的な構成、任務、使用兵器を説明しています。例えば「優秀で訓練を積み重ねた人員が必要なのに、短期間の訓練で使いものになると判断され優秀な人員は他の部隊に取られてしまう歩兵部隊」「敵の攻撃に弱くなってきており、ますます昔の騎兵部隊に近づいている戦車部隊」「技術は今世紀初頭からそれほど進歩していないが、戦争の中で最大の被害をもたらす砲兵部隊」などですね。
第2部 航空作戦
戦闘機や爆撃機など空を飛ぶ兵器と、防空についての解説を行っています。
第3部 海軍作戦
まず制海権を取るための水上艦の任務や兵器など。第2次世界大戦でのアメリカ軍による日本近海の機雷封鎖は機雷18個につき1隻の船を破壊した計算になり、潜水艦による通商破壊や原爆投下よりも効果が高かったという考察は結構ショックでした。その他、潜水艦、海上航空作戦、アメリカ海兵隊に代表される海上機動地上戦力など。
第4部 ヒューマン・ファクター
ここでは、これまで全く無視されるかもしくは極端に過大評価されることの多かった人間的な要素を解説しています。兵士達を危険な戦いに立ち向かわせる神懸かり的な信念や動機付け、兵士達を有効に指揮するリーダーシップ、スパイや偵察衛星などの情報戦、「失敗する可能性のあるものはいつか必ず失敗する、しかもその失敗はもっとも都合の悪いときに起きる」というマーフィーの法則が戦争の基本原理であること、戦争の勝利者、平時の軍隊の仕事などについて解説しています。「勝利するのはだれか」という章では、
と書かれており、この言葉ほど現代の国家間戦争について的確に述べた言葉は無いかもしれません。
第5部 特殊兵器
ECMなどの電子戦、宇宙空間での戦闘、あとは滅多に使えない兵器である化学、生物、核兵器を使用した場合の運用法。さらにICBMなどの戦略核兵器などのコーナーです。
第6部 戦争を左右する物量
ここでは戦争を完全に左右する補給や後方支援。さらに消耗戦が続いた場合の兵力の損失、戦争のコストなどです。補給のコーナーではアメリカタイプの歩兵師団及び機甲師団、旧ソ連タイプの自動車化狙撃兵師団、戦車師団がそれぞれ一日に必要とする補給物資を防御時や攻撃時などの情勢に応じて何トン必要とかいうデータが掲載されていたのには驚きました。しかし平均値をとって一個師団あたりの1日必要補給量は1,251〜1,723トン・・・。物資を運ぶための輸送手段、交通路の確保、物資の分配、必要書類作成事務とかを考えただけで気が遠くなってきます。さらに輸送手段を動かすための物資、それを護衛するための実戦部隊の物資、何らかのトラブルを見込んでの予備分も確保しなくてはならないし。
消耗戦が続いた場合の兵力の損失では、陸軍の実戦部隊を例に取ると、歩兵部隊の損失率が群を抜いて多く、戦車部隊は戦闘よりも故障で動けなくなる可能性が高く、砲兵部隊はよほどのことが無い限り損害は極めて少ないのがわかります。兵隊になって生き残りたいなら砲兵部隊を選ぶべきでしょうね。
第7部 物資輸送
物資を本国から戦場に輸送するための海上輸送手段及び航空輸送手段の解説です。
第8部 戦争の道具
戦争で使われる兵器の将来や、世界の軍隊の強さを著者の理論で数値化したりしています。これはこの本が書かれた1988年当時からは多少変わっている面があると思われます。
といった感じになっており、軍事力についてハード的な面からもソフト面的な面からも充分すぎるほどの解説をしています。
現在のマスコミにはちょっとでも軍事関係に知識を持っているものならば噴飯ものの論調がまかりとおっていますが、この本を少しでも読んで軍事力というものを学んでほしいものです。ただこの本はハードカバーで618ページで重量は1キログラムを優にオーバー、値段が消費税抜きで6602円というのはかなりのネックかも(^^;;;;;。