虚構戦記研究読本 戦術・作戦編 (1999.9.2追加)
著者 北村賢志 光文社
初版発行 1999年8月27日 定価 本体1800円+税
ISBN4-7698-0932-8
「兵器・戦略編」とセットになって同時出版された本の片割れです。
この本は題名からして、一見「架空戦記」というジャンルの批判本に見えますが、実際には「まえがき」に書かれているとおり、「『歴史のIF』と『戦史の常識』の検証本」といった方が正しいでしょう。ジャンルとしては「軍事関係」に入れるのが正しいのかも知れません。かと言って、他にふさわしい題名も私には思いつかないので、この題名で問題ないかな?
内容としては、「真珠湾攻撃」「珊瑚海海戦」「ミッドウェー海戦」「第一次ソロモン海戦」「ガダルカナル攻防戦」「ラバウル航空戦」「マリアナ沖海戦」「台湾沖航空戦」「レイテ沖海戦」といった太平洋戦争の代表的な戦いを取り上げ、それぞれに幾つかの「IF」を取り上げつつ、それを否定するという形です。
いくつか取り上げられている「IF」を上げると、「なぜ第二撃を加えなかったのか(真珠湾攻撃)」、「最初からガ島奪還に全力を挙げていたら(ガダルカナル攻防戦)」、「空母艦載機の陸上基地投入がなかったら(ラバウル航空戦)」、「栗田艦隊がレイテ湾に突入していたら(レイテ沖海戦)」などです。
一つ一つの説明は、非常に細かいことを除けば、文句の付けようが無いと思います。少なくとも私程度のレベルでは発見できませんでした。
取り上げられている戦いには、それぞれ詳細な解説が付いているので、それほど知識が無い人も読みやすいと思います。兵器ネタは姉妹編の「兵器・戦略編」にまとめていて、単体でも読めるように、そちら方面の知識が無くても読めるように書かれています。
しかし、この本の一番優れていると思ったのは、如月東のように、現実に出ている架空戦記を例にとって批判したりせず、すべて論理的な批判で押し切っていることです。文中でも「戦史研究家」などを例にとって批判することはありますが、「架空戦記」を例にとって批判はしていないです。
これは賢明な判断だと思います。何故なら、フィクションである「架空戦記」とノンフィクションである「実際の戦争」の批判というのは、似ている点もありますが所詮違いますからね。
架空戦記はフィクションである以上、
「間違っていることが判っていても、話を面白くするために嘘を押し通す」
ことがよく有ります。これに大して、ノンフィクションと同じく「それは正しくない」だけで押し通しても互いに噛み合わず、議論が平行線に終わることが有りますからね。架空戦記の内容を批判しようと思ったら、別の方面から攻めないと。
この本は、架空戦記批判を一切文中では入れず、あえて軍事的な事実関係だけから攻めることで、極めて理路整然としたまとまった本になっていると思います。
この本を、「兵器・戦略」と「戦術・作戦」と2冊に分割したのも、まとまりを良くしている一因でしょうね。あえてジャンルを分けることで、それぞれの本の完成度が高くなっています。
著者の文章力や知識も優れていると思いますが、この本をジャンルごとに2冊に分けて出版したこと、現在出ている架空戦記の実名を上げての批判は出来るだけ避けること等を決めた、この本の編集担当も良い仕事してると思いますね。内容は優れていても構成がちょっと、と言う本が多い中で、まさに完璧かも。