虚構戦記研究読本 兵器・戦略編 (1999.10.21追加)
著者 北村賢志 光文社
初版発行 1999年8月27日 定価 本体1800円+税
ISBN4-7698-0933-8
「戦術・作戦編」とセットになって同時出版された本の片割れです。どちらかというと、こちらの方がメインに当たるのかな?
構成として、次のようになっています。
第一部 兵器編
・戦艦大和の虚像
俗に「世界最大最強」と言われ、架空戦記でも獅子奮迅の活躍を見せる(表紙が戦艦大和かどうかだけで、その架空戦記の売上げに重大な影響を及ぼすとされます)戦艦大和についての出来るだけ客観的な考察です。
・日本海軍の特殊兵器
「三式弾」「航空戦艦」「伊四〇〇型潜水空母」など、日本海軍が秘密兵器として製造したけど、実戦でほとんど役に立たなかった欠陥兵器を取り上げています。ある程度、実績のあった「酸素魚雷」についても、その問題点を上げているのはなかなかかと。
個人的には、大活躍したように見えるけど実は全然役に立っていない「三式弾」の問題点をもっと厳しく取り上げて欲しかったですね。
・幻の名機は「名機」だったのか?
間に合わなかった「名機」として知られる零戦の後継機「烈風」などの「間に合わなかった幻の名機」についての考察です。……そりゃあね、いくら新鋭機だからって積んでいるエンジンが故障だらけの誉エンジンとかじゃダメに決まってますね(笑)。戦争末期は整備員やパイロットの腕も落ちているから、新型機と言っても役に立つわけないし。
・日本は重戦車を開発できたか?
大戦中、余りに弱すぎた日本軍の戦車。それをパワーアップすることは可能か?
この本で示された結論は「そんな事は、あらゆる意味から不可能」。まあその意見自体には賛成なんですが、細かいところで多少文句をつけたいところはあります。
・もし日本の兵器体系が変わっていたら?
「重戦闘機の開発」「日本空母がアメリカ空母のように開放式格納庫だったら」など色々と細かい兵器上の改良を取り上げて、それを採用した場合の問題点などを、「何故、実際の歴史では日本がその路線を歩まなかった」など歴史上の経緯なども含めて説明しています。どんな出来事でも、それが起こってしまったのは何かしら訳が有るわけで、ただ結果だけを取り上げても意味がないですから、賢明な書き方かと。
大体、書かれていることに文句は有りませんけど、個人的に腹が立ったのは「日本陸軍の小銃がもっと進歩していたら」という項で、当時の日本軍が自動小銃を装備していても全く意味は無かった、という感じで書かれていたことです。
確かに大局的な勝利には、全く寄与しないでしょうけど、当時の日本軍の兵士達の戦場回想記を読むと、その大部分に血を吐くような感じで自軍に自動小銃(というかサブマシンガン)が無いことを悔しがる文章が書かれていることを知っている私としては、これはちょっと(--;。日本軍が自動小銃を大量に装備していたら、少なくとも白兵戦による死者は激減したでしょう。
銃剣を付けた三八式のようなボルトアクションライフルを装備した日本兵と、サブマシンガンを抱えたアメリカ兵が白兵戦やったら、連射の利くサブマシンガンを装備している方が普通は勝ちますしね。
第二部 戦略編
・もし艦隊決戦が行われていたら?
史実では太平洋戦争は「真珠湾攻撃」によって始まりましたが、それを実行せずに昔からの計画通りに中部太平洋での艦隊決戦を行っていた場合についての考察です。
・戦略を左右するIFの検証
時たま架空戦記で取り上げられる「ドイツと協力して対ソ宣戦」「独立空軍の創設」などの改変について検証しています。
・日本に連合軍との講和は可能だったのか?
字句どおりの内容です。まあ、どう考えても不可能ですね(笑)。その理由を丁寧に解説しています。
考察・日本の敗因−あとがきにかえて
作者の「日本の敗因」への考察などが書かれています。この文章だけでもこの本買う価値有りです。
「より身近なものにたとえて言えば、一つの大企業が倒産するような事態が起きたとしたら、その企業が何件かの取り引きに失敗したような末端の問題が原因ではなく、通常はもっと根本的な経営方針・構造そのものに問題があったと考えるべきであろう」
などの書き方は巧いです。
まあ、バッサバッサと架空戦記に出てくる兵器などを斬って捨ててますが、先達である如月東なんかとは、文章や知識のレベルが段違いですから、「間違い」では無く「見解の相違」て感が強く、かなりの知識を持った人にもそれほど抵抗無く読めるでしょう。
単なる「批判」だけに留まらず、当時の日本の情勢なども客観的に判断しているのも好感高いです。
あと、巻末に「主要参考資料」として、約40冊ほどの本が上げられていますけど、とても、この内容を書くのに、これだけの冊数で済むとは考えにくいです。どちらかというと「参考としたシミュレーションゲーム」という項で紹介されている戦略シミュレーション・ボードゲームの方が参考にされているかもしれません。
これから判るとおり、作者の方はバリバリのボードゲーマー(作者プロフィールを見る限り、テーブルトークRPGゲーマーでもあるらしいです)ですが、ゲームデザイナー本人曰く
「日米の商業ウォーゲーム出版を崩壊させる原因となったかもしれない」
架空戦ボードゲーム「レッドサン ブラッククロス」(デザイン佐藤大輔)について、意見を聞いてみたいところです。ついでに、現在では架空戦記の一番手と言われるまでになった小説版についても。
そういえば、この本で取り上げられていない「IF」で、一部の架空戦記で採用され、欧米でもよく言われるものとして「特攻の早期採用及び大々的な拡大」というのがありますね。さすがに書けた物ではないと思いますが。
現に、このアイデアを採用した架空戦記は、読んでて頭痛くなりますし。