天翔けるバカ We Are The Champion  (2000.9.19 追加)

 著者 須賀しのぶ イラスト 梶原にき コバルト文庫

 初版発行 2000年9月10日  定価 本体495円+税

 ISBN4-08-614758-0


 天翔けるバカの2巻目です。ストーリー的には完全に前巻の続きで、第一次世界大戦の終了までを描いてます。

 相変わらず軍事的描写が巧いです。普通の架空戦記や軍事系書物では、兵器のカタログデータだけで、その強さを表そうとしているのに、感覚的な文章描写だけで、その兵器の強さや恐ろしさを見事に表しているのには凄いとしか言いようが有りません。

 もちろん、読み物としても非常に面白いです。かなり悲惨なことを書いている筈なのに、かなりマイルドに処理されていて、それでいて、心理的には何か残る物があるという、普通の作家にはなかなか出来ないことをやってます。

 話の主題的な「最後の古典的な騎士達の戦い」としての空戦も、時代が下っていくにつれ、そんなモノは無くなっていき、それどころか、それまで存在した「古き良き時代」が終わり、新しい時代を迎えていく、というのが表されていて哀しさを感じましたし。

 しかし、これ読んでて、個人的に感情移入したというか感じ入ったのは、”レッドバロン”マンフレート・フォン・リヒトホーフェン、彼の戦死後はヘルマン・ゲーリングが率いるドイツ帝国の最精鋭戦闘機隊JG1のメンツですね。

 特に、後に彼らがどういう運命を辿ったか知っていると、複雑な気持ちになります。

 ウーデットはいかにも気弱そうに描かれていて、ナチスドイツ空軍では高官の地位に就いたけど、色々とごたごたに巻き込まれて、1941年にピストル自殺しちゃうのが納得できますし、”レッドバロン”の弟、ロタール・フォン・リヒトホーフェンは、この巻の終盤で、かなり屈折した性格になっていきますが、後にナチスドイツで空軍元帥にまで出世しますけど、偉大な兄の影にとらわれたのか、いまいちパッとしない人生を送る、というのを彷彿とさせます。

 ヘルマン・ゲーリングは、最初の頃は出世欲に燃えた俗物だけど、イヤな奴では無かったのが、ストーリーが進むうちにだんだん壊れていき、ドイツ敗北の時点では、完全に「権力への冥府魔道に堕ちた」という感じになってます。

 この人、第一次世界大戦が終わった後、政治運動に参加して、ついには総統アドルフ・ヒトラーに次ぐナチスドイツNo.2として権勢を振るうことになります。ヒトラーがどっちかというと質素な暮らしぶりをしていたのに対し、こちらは豪華三昧な暮らしをして、第2次世界大戦が起こると、フランスなど占領した国々から美術品を大量略奪するなど色んなことをやらかしましたが、最後はニュルンベルグ裁判で、戦犯として処刑される寸前に自殺という最期を遂げます。

 第2次世界大戦を中心として描かれた歴史で見る限り、かなり権力で好き放題やった風にしか思えないゲーリングですが、この本を読むと、果たしてそこまで出世したゲーリングですが、その内的心理は幸せだったのだろうか? という思いを受けますね。

 第2次大戦を舞台とした架空戦記や冒険小説では、単なる「無能なデブ」として描かれてばかりのゲーリングですが、この本のように「人間的な」ゲーリングが描かれているのも珍しいです。しかも、まだ後のように太ってなくて、痩せていてハンサムな時期のゲーリングですし(^^;。

 この話の続編は、もう出ないようですが、個人的にはそれで正解だと思います。この本は、あくまで「古き時代の終わりと、新しき時代のはじまり」を描いた本であり、既に「新しい時代」な世界で描かれるお話は「天翔けるバカ」では無くなってしまう気がしますから。

 スペイン内戦にリック達が参加するとか、第2次大戦末期にナチスドイツに存在した「ジェット機に乗りたい奴らだけを集めた」JV44戦闘航空隊と、イギリスのジェット戦闘機「ミーティア」に乗ったリック達が戦うとか、考えれば考えるほど色々と妄想は浮かんでくるのですが(笑)、残念です。

 

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