連合艦隊秘史 覇龍の戦録 

 著者 林 譲治     ワニ・ノベルズ 

1巻 帝国海軍の切り札

 初版発行 1998年2月1日  定価 本体781円+税

 ISBN4-584-17821-6

2巻 智将の手練手管 (1998.10.13追加)

 初版発行 1998年10月15日  定価 本体800円+税

 ISBN4-584-17832-1

3巻 一流の政治工作 (1999.2.7追加)

 初版発行 1999年2月15日  定価 本体800円+税

 ISBN4-584-17842-9

4巻 南海の駆け引き (1999.6.22追加)

 初版発行 1999年6月15日  定価 本体829円+税

 ISBN4-584-17853-4

5巻 大団円の計略 (1999.10.6追加)

 初版発行 1999年10月25日  定価 本体829円+税

 ISBN4-584-17861-5

(全5巻)


 

 1939年春、山本五十六海軍次官が石油問題について、頭を悩ましたあげく、「水から石油を合成できる」と主張する詐欺師に引っかかります。

 しかし、何も起こるはずの無いはずの実験から、偶然にも未知の物理現象が!!

 その現象は、常温核融合と名付けられ、日本艦隊の燃料問題を一気に解決していくのでした。

 秘匿名称は、”第二石油”。

 残念ながら、駆逐艦より小さいプラットフォーム、例えば戦車や飛行機には積めませんが、それでも画期的な発明であることは間違いはありません。

 もちろん、その存在は超極秘であり、特に同じ日本の陸軍に知られることの無いように、厳しい処置が取られています(笑)。

 

 ・・・こんな架空戦記有りですか。明らかに確信犯だし、”常温核融合”以外のところはまともなんですけどね。そこらへんは、他の妄想系架空戦記を書いているメンツとは全く違ってます。さすが林 譲治。  

 

1巻 帝国海軍の切り札

 1941年12月、日米は開戦することに。ただし日本の真珠湾攻撃は中止です。

 ”第二石油”機関の搭載によって、日本の潜水艦は、水中で23ノットもの高速を出せることが出来るようになりました(ただし騒音酷いですが(^^;)。アメリカ艦隊などちょちょいのちょいです(笑)。

 というわけで、フィリピンを救援すべく、来襲したアメリカ軍は潜水艦による迎撃で大損害を受けた後に、連合艦隊主力との戦闘で潰滅しました。

 常温核融合炉なんて物を持ってたら、当然の結果と言えるかも知れません(^^;。

 もっとも、日本軍の悪い体質は全く変わっていないし、アメリカ軍の増強も進むでしょうから、このまま済むはずは無いでしょう。

 現在のところ、海上護衛などに、これっぽちも日本軍は注意を払ってませんし。 

 

2巻 智将の手練手管

 この巻の章の名前は、「第一段作戦・戦の始末」「第二段作戦・戦の支度」「嗤う五十六」「鉄底海峡の檻」「海軍官衙の理」・・・等々、全て京極夏彦の著作のパロディで占められてますね。ついに出ましたか、新本格ネタ(^^;。

 ということなら、当然のように、優柔不断で情けない関口少尉と、その部下で怒りっぽい木場軍曹も登場します。多分、切れ者の青年海軍士官な榎木津と、研究所で妖しげな研究をしている中禅寺少尉も、この世界にいるんでしょう。

 あとは、西原&鴨志田という、どこかで聞いたようなコンビも出てきます。

 アメリカ軍にも、新兵器が登場。それは水中高速潜水艦「ネオ・アトランチス」で、シュノーケルと大量の蓄電池を装備することによって、水中速度20ノットを叩き出します。試験時には真っ赤な塗装でした。ちなみに、艦名の由来は「眠れる予言者」エドガー・ケーシーが、アトランチス大陸が半世紀後に必ず浮上すると予言してるからです。

 まあ、こういうパロディだけでは無くて、いつものように肝心の歴史改変はしっかりしてますね。

 戦闘記録のまとめ方&回覧方法を変えて、戦訓が素早く全軍に伝わるようにしたり、雷撃ばかりに偏っていた駆逐艦装備の汎用化等々、細かいことに手が着けられてます。

 

 しかし、井上成美、あんたの言動や行動は京極堂かい(笑)。どうみても、日本海軍の「憑物落とし」してるようにしか、私には見えないんですが(^^;。

 

3巻 一流の政治工作 (1999.2.7追加)

 この巻の冒頭は、海軍の制服組のトップに立つ永野修身軍令部総長が、ソロモン諸島、ブーゲンビル島ブインの飛行場を爆撃機で前線視察しているとき、アメリカ軍の戦闘機の襲撃を受けて戦死する場面から始まります。

 実は、井上成美横須賀鎮守府司令長官が、永野軍令部総長をそそのかしまくって、元は山本五十六連合艦隊司令長官が、行くはずだったブイン視察を、変更させたことが原因でした。ただし、永野軍令部総長は、最後まで、ブイン視察が自分の意志だと思いこんでましたが。

 こういう汚い手段を使うとは、井上成美は「ダーク京極堂」というか、京極夏彦「塗仏の宴 宴の始末」に登場した堂島大佐としか言いようが無いです。

 その結果、後任の軍令部総長に山本五十六が、連合艦隊司令長官に井上成美が就任。日本海軍の実権は完全に彼らに掌握されました。

 

 アメリカの高速潜水艦も2番艦「ブロックマン」が完成、水中高速化を追求するため、司令塔はまるで魚の背鰭のようになっています。ちなみにこれまで、シュノーケルと呼ばれていた潜水しながら、エンジンの吸排気が出来る装置は、最初にこれを発明したオランダが「パテントの侵害だ」と抗議したため、「ガーゴイル」と名前だけ変更されました。アメリカの潜水艦に関しては、徹底的に「不思議の海のナディア」ネタですか(笑)

 一方、一番艦「ネオ・アトランチス」の艦長には、いかにも「冒険家」的なヒギンズ中佐が就任。彼はきっと家で冒険小説をコツコツと書き溜めているに違いありません。

 このシリーズは、事実上日米の水中高速潜水艦同士の対決が主のようですね。この巻では、日米共に音響追尾魚雷を装備して、激しい戦いを繰り広げます。

 ただし、日本の音響追尾魚雷は、最初のタイプが「窓付き」の試製九五式聴音機械水雷ですが、酸化剤として使用している液体酸素のせいで、しゅっちゅう内部機器の動作がフリーズしたり、予告もなく仕様変更がされたため、余裕が無くてドライバーすらも入らない始末、しょうがないので九八式に改修しましたが、たいして良くはならず、ますます重くなりました。そして、九八式の5000個以上の問題点を改良して、試製二式になっても、相変わらず信頼性は低いというどこかのパソコン用OSのような感じですが(笑)

 

4巻 南海の駆け引き (1999.6.22追加)

 史実の1942年後半に東部ニューギニアの要衝ポートモレスビー攻略作戦のため、道無き道のジャングルを補給を無視して進む無謀な進撃を強いられ、大部分が餓死した南海支隊という悲惨な部隊が存在しました。

 この世界でも、陸軍の海軍への対抗心や、辻政信を初めとする一部の大本営参謀の暴走によって、南海支隊が充分な補給部隊も無しに数百キロのジャングルを徒歩で進撃する無謀な作戦が決行されてしまいます。

 史実よりは幾分マシとはいえ、オーストラリア軍の遅滞戦術&補給の見通しの甘さで、まともな補給を受けることが出来ず、やせ細っていく南海支隊。悲劇は再び起こるのでしょうか?

 

 井上成美は、ますます凄いキャラになってますね。連合艦隊司令長官の癖に、そこら中で囁かれる噂が、

「彼に頭の中に何かの機具で小さなガラス玉を埋め込まれた」

「彼が牧場で牛を殺して内蔵を抜き取っていたのを見た」

とか、まるで宇宙人並の扱いです。

 ちなみに井上成美は「嘘」はつきませんが、「ついた嘘」は全て真実になったりします(笑)

 日本には、佐々木博士という、まるで「岸和田博士の科学的愛情」に登場する岸和田博士みたいな超マッド・サイエンティストが登場。

 どこでも常に白衣をまとい、会う人全てに単なる精神主義の「科学的必勝の信念」を焼き付けていく博士は、何と現在でも実用化されていないレールガンを大和に搭載してしまいます。まあ、常温核融合が実用化されている世界ですから、多少のことは有りでしょう(^^;。

 日本で山本五十六軍令部総長&井上成美連合艦隊司令長官が掛け合い漫才をやっていれば、同じくアメリカの太平洋艦隊司令部でも、ハルゼー長官&レイトン参謀長が掛け合い漫才をやってたりで、結構笑えるのも良いです。

 やっぱり、今一番油が乗っている架空戦記作家ですね、林譲治は(^^)。

 

5巻 大団円の計略 (1999.10.6追加)

 1943年2月11日未明、太平洋戦争停戦に反対する強硬派によって起こされるクーデター。

 一部のクーデター部隊は海軍省を襲撃することになり、襲撃直前に兵士に訓示を行おうとしたところで、響きわたるラッパの音。

 その音に、

「どこだ」「どこだ」

と声を上げて動揺するクーデター部隊。

 突如、真っ暗な海軍省の赤レンガの建物に点灯される照明。そして、その尖塔の上に立つ漆黒の怪しい怪人。

 クーデター部隊の指揮官は、怪人を指さして叫ぶ。

「貴、貴様は連合艦隊司令長官井上成美!」

 それに尖塔上の怪人が答えて曰く。

「はははは、そう、私が帝国海軍連合艦隊司令長官井上成美だ! 反乱軍の諸君、君たちの陰謀、井上がしかと見届けた。大人しく我らの縛につけ!」

「なっ、何を! ええい、撃て、やつを撃ち殺せ!」

と指揮官は叫ぶが、怪人の眼光に押されて銃を向ける事の出来る兵士は一人もいない。焦った指揮官は拳銃を向けようとするが、井上自身の拳銃によってそれを叩き落とされる。

「安心しろ、急所を外した。井上は無駄な殺生はせぬ。それより無意味な抵抗はやめたまえ! 君たちに勝ち目はない! 出でよ、横須賀鎮守府海軍特別陸戦隊の諸君!

という台詞と共にどこからともなく現れる完全武装の陸戦隊。

 かくして、クーデター部隊は難なく武装解除され、海軍省は無事守られたのであった…。

 

 これが、この巻の冒頭です。「ちょっと待てや、コラ」としか言いようがないです。初めて読んだとき、開いた口がふさがらなかった私。

 このクーデターでは、海軍側では損害ゼロでしたが、陸軍側では陸軍大臣や参謀総長をはじめとする最高幹部が全員死亡、井上成美からの知らせにより、たまたまその夜に最高幹部がクーデターへの対策で集まっていたのが、大きな原因でした。

 反乱の黒幕で、以前のニューギニア作戦の失敗で陸軍を追われていた辻中佐は自殺してクーデター自体は失敗しましたが、多数の人材を失った陸軍は海軍に対抗するどころか、組織としての存続が危ぶまれる状態に。連合国と和平を結ぶなら、国内からの邪魔が入らない今しかありません。

 紆余曲折はありつつも、何とか和平条約を結ぶところまでこぎ着け、あとは調印だけ。調印に向かう全権代表団を乗せて、ヨーロッパに向かう第二石油機関搭載水中高速潜水艦伊二二。

 しかし、途中で彼らを待ち受けていたのは、何とかして日本の単独休戦を防ごうとするドイツのワルター機関搭載UボートU2501。かくして、常温核融合機関潜水艦とワルター機関搭載潜水艦との一騎打ちが行われることに。最終巻にふさわしい見せ場でしょうね。

 このシリーズは、常温核融合という「ちょ〜」な技術がメインかと思っていましたら、いつのまにやら、井上成美&山本五十六や、ニミッツ&レイトンといった登場キャラクタたちの持ち味や掛け合いがメインの話になっていました。

 パロディなどのおふざけがかなりあるので、とても万人受けとは言い難いですが、小説で「ここまでキャラが立っている」話も珍しいと思います。いやあ、中だるみなどせずに充分に楽しませてもらいました(^^)。

 

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