合衆国復活の日(上・下) (2002.9.1 追加)

 著者 ブレンダン・デュボイズ 訳者 野口百合子  扶桑社ミステリー 
 初版発行 2002年8月30日  定価 本体848円+税(上・下 共に)
 ISBN4-594-03656-2(上)
 ISBN4-594-03657-0(下)


 1962年、キューバ危機が大規模核戦争に発展。
 アメリカ各地をソ連の核の劫火が襲い、主要都市は消滅。
 ケネディ大統領を初めとする国家指導部も全滅する。

 それから10年後の1972年、繁栄を誇ったアメリカ合衆国は二流国家に落ちぶれ、宗主国の立場に返り咲いた大英帝国などの人道援助を受けて生き延びていた。
 政治的にはキューバ危機の直後からの連邦軍の戒厳政治がそのまま続き、国内主要メディアには検閲が課せられている状態。

 主人公は、ボストンの新聞記者カール・ランドリー。
 ランドリーはマール・ソーソンという謎の老人から、大きなネタを提供すると言われ、接触しようとしたところで老人が殺害されてしまう。

 その事件の謎を追うランドリーの前に立ちふさがる国家の干渉。
 ランドリーの書いた記事は検閲によって消され、その他有形無形の妨害を受ける。
 諦めずに調査を続けるランドリーは、特殊部隊<ゼータ・フォース>、核汚染立ち入り禁止地帯「ニューヨーク」「ワシントンD.C.」、そこかしこで囁かれる「ケネディは生きている」という噂、そして「もう一つのアメリカ」など、未だ核戦争からの立ち直りが出来ないアメリカ合衆国で様々なモノと出会う。
 調査の果てに彼が見たものは何か?
 そして、アメリカ駐留の大英帝国軍が実行しようとしている<転回>作戦とは?

 

 キューバ危機が核戦争に発展し、アメリカ合衆国が大きな被害を受けた世界でのミステリーです。

 この世界のアメリカ合衆国、キューバ危機の10年後になっても、その被害に苦しみ、国連から援助を受けて日々を生きており、さらに世界の破滅の淵に追い込んだ核戦争を始めた国家として、世界中から白眼視されています。
 もう一方の相手だったソ連はアメリカの核攻撃で完全に消滅しており、旧国境沿いに国連が設けた難民キャンプの他には、内部では何が起こっているのか判らない暗黒地帯と化してます。
 核戦争が米ソ及びキューバで止まっているうちにアメリカ戦略空軍司令官と、ソ連戦略ロケット軍司令官の間で休戦が成立したために、旧西側同盟国はほとんど被害を受けず、核戦争後はイギリス、フランス、ドイツ、日本が大国として、世界に大きな影響力を持ってます。
 共産中国も1973年までには消滅し、南ベトナムは、核戦争のためにアメリカ軍事顧問団が引き揚げた翌年には北ベトナムに吸収され、今ではフランスと日本がお互いに勢力圏に組み入れようと経済進出を繰り広げてます。

 アメリカ合衆国はキューバ危機の末期に権力を握った空軍大将ラムジー・カーティスの支配下にあり、大統領も彼の傀儡にすぎません。
 未だ核戦争で廃墟になった都市は復興できず、治安も極めて悪いです。
 ただ軍の権力により、クー・クラックス・クランなどの人種差別集団は撲滅されており、国の上層部にかなりの黒人がいます。

 この作品のアメリカは極めて暗い世界になってますが、その陰惨な世界を、史実で起こった事件と組み合わせて、かなりの説得力で描いています。 
 主人公のランドリーが出会っていく事件と、徐々に解き明かされていく真実、という展開も丁寧に作られていて、かなり燃えます。読んでいくうちに何回か引っかけがあって、読者の興味をそちらに逸らしつつ、突然の展開を見せるという作り方で非常に読んでて面白いです。

 こういう暗い世界観にも関わらず、読後感も爽やかで気持ち良いですし。 

 「架空世界でのミステリー」として、かなり上級の作品で良かったです。

 

 

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