「征途」の日本民主主義人民共和国の人口に関する勝手な考察 (1998.7.28 執筆 2004.7.4修正)
日本が南北に分裂してしまう「征途」において、資本主義を奉ずる南日本は、現実世界の日本が多少変化したにすぎませんが、もう一つの北日本こと日本民主主義人民共和国は、極めて興味深い存在です。
国旗は、白地に赤い星という格好いいデザイン。領土は、北海道の北半分と、南樺太。ソヴィエト型の軍事システムとしては、ほぼ完成の域に達した強大な軍事力。
ただ作中で、北日本の人口が2000万近くと説明されていることに「?」と感じる人は結構居るのでは無いでしょうか? どう考えても多すぎますからね。”近く”と表現されているからには、少なくとも1700万はいないと変です。
というわけで、個人的に北日本の人口を考察してみようと思います。
北日本の基幹国民となったのは、第二次世界大戦終結時にソ連が捕まえた日本人と、冷戦が激化する前に、留萌−釧路分割線から北日本に入国した共産主義者達です。
おおざっぱですが、試しに人数を数えてみましょう。
1945年8月現在の、関東軍の兵力が約70万。在満日本人の人数が約155万、関東州在住の日本人が約30万、北朝鮮で捕虜にした日本軍及び民間人がざっと10万、北海道で捕虜にした日本軍をざっと20万、1945年当時には41市町村を数えた樺太の日本人口が約40万人、北と南の国境線が確定する前に越境してきた共産主義者とその家族をざっと25万として、北海道戦争時に、純粋な日本人は最大でも350万人という計算が出ました。
避難民や死者を勘定していないのでかなり多めの見積りですが、もしソ連が北日本を創るために出来るだけ命を奪わずに「日本人狩り」を行ったのであれば、史実の在満邦人155万人のうち死亡者17万6千人等の大きな人的損害は被らないものと思われます。
(もっとも、史実通り暴行、強姦等の被害は受けるでしょうけど)
ただ、この北日本の「基幹日本人」は、元軍人や開拓労働者が中心のため、男性の方が比率が高く、国を存続させるために女性が必要です。
仕方ないので女性は、戦争で若い男性が大量に死亡してしまったソ連本国(1920年代生まれの男性で80%が戦死した場合もありました)から、日本に強制移住させるか、さまざまな良い条件を付けて移住してもらうしかありません。
まあ、それが奇跡的にうまくいったと仮定しても、戦争未亡人が前の夫の子供を連れてくる例も多いでしょうし、一旗揚げることを見込んで家族ごと移住してくるのもあるでしょうから、ソ連人の男性も一緒に多数流入してくるのは確実です。
そんなこんなで、日本人約350万人分にロシア系や各種少数民族の女性等を加えて、北海道戦争直前の北日本の人口は約500万と考えられます。
北海道戦争で20万から30万人の損害は出るでしょうが、北日本がソ連から核を供与されたこと(事実上、ソ連の運用でしょうけど)によって、戦線が膠着状態になったことと、ソ連からの「補充国民」で、人口は戦前と同じレベルを保つことが出来ると思われます。
WW2後、次々と独立したアフリカの国家の中には、25年で人口が4倍以上になったところが幾つかあるので、避妊の絶対禁止などの処置を取ったり、手厚い育児保障を充実すれば、北日本でも1994年ぐらいには、2000万人近くは何とかなりそうです。
一例を示すと、北朝鮮の人口は朝鮮戦争勃発当時850万人で、1970年に1300万人、1984年には1963万人、1999年に2370万人となっており、建国時から約4倍の人口増となっています。ソ連崩壊後の飢饉が無ければもっと増えていたでしょう。
そのかわり、同じように避妊禁止政策を取っていたチャウシェスク政権のルーマニアと同じように、避妊具の不足によりAIDSが大量蔓延するのは、まず避けられないでしょうけど。
あと、ルーマニアのチャウシェスク政権では人口を増やすために避妊は禁じられ、その結果子供を育てられない親による捨て子が蔓延することになり、その捨て子が秘密警察(セキュリタテ)やチャウシェスク一家の親衛隊として人民を弾圧する側に回ったように、北日本でも同じように、そういう孤児が首相警護部隊や戦略打撃軍など川宮親子に忠誠を誓う組織の構成人員となったんでしょうね。
作中でも、戦略打撃軍の本郷がそういう人間ですし。
でも、作中の「雷鳥」作戦に見られるように南日本への亡命者も結構いて、旧東ドイツのように亡命者による人口減も大きいと思われるので、出来る限り子供が産みやすい社会を創るしかありません。
そのためには、他の社会主義諸国よりも豊かな暮らし&自由な雰囲気(少なくともイメージは)が必要で、軍事費を可能な限り削減して、民需方面に回すことが必須。
リビアやイランやシベリア相手に、製品とのバーターで原油を入手している旨の描写がありますが、そういうバーターに耐えられる製品を作るためにも、民需方面に資源及び及び人材を回すことは必須です。
そもそも、北朝鮮のように「適切に政治を行えば食糧自給可能」という土地柄ではなく、「食糧自給は絶対に不可能」という土地柄ですから、ひたすら加工貿易を行うしかないでしょう。
結局、史実の日本と同じように、防衛は同盟国に任せきって、ひたすら商売にいとしむしか道は無いような気がしてきました。
「1970年代まで、戦車師団二個、機動歩兵師団三個が基幹であった北海道駐留兵力、第一統一方面軍」(3巻 P170)
との記述のとおり、北海道に展開する北日本赤軍の兵力を5個師団に抑えていたことが、それを証明してます。1982年の段階でも、
「北海道の北側に配置されている七個師団」(ノベルズ版2巻 P234)
と、1992年の22個師団よりは遙かに少ないです。
北海道戦争時でも、
「北海道制圧を目指す敵軍は約七個師団」(ノベルズ版2巻 P39)
の兵力を動員してますし。
多分、北日本は、社会主義国家の中では一番豊かな暮らしをおくれたでしょう。少なくともソ連崩壊までは。
あと、こうなってしまうと南日本人とは、人種的には全く違った民族ですね。第一、国の公用語だって、日本語の他にロシア語も制定しとかないと、何かと差し支えが生じます。
「<向こう側>の”日本人”の大半がロシア人やシベリア少数民族と混ざっていてもな」(ノベルズ版3巻 P225)
と、後藤田正晴元SRI長官の台詞も、北日本人が広く混血してることを示してます。
ただ、こうしてみると、川宮勝次政権って凄まじく有能だと思います。
日本の文化なんて、まったく馴染みも無いような人たちにも、「自分たちは日本人」という意識を植え付けて一つにまとめてしまったのですから。
ユーゴスラビアのチトーと同じく、川宮勝次のカリスマを最大限に利用した政治だったのかもしれません。それでもって、他の社会主義国よりも暮らしぶりが豊かなら、大抵文句は言わないでしょう。
あと心配なのが、南北統一された後ですね。
旧北日本の住人は、3巻で鹿内が言っているように、南からは『2級市民』扱いされるでしょうし、内部でも、日本人やシベリア少数民族などアジア系の血を引く人たちと、ロシア系の血を引く人たちの間には深刻な軋轢が起こりそうです。それも逼塞している雰囲気の中で、ロシア系の人たちの方が、一方的に悪玉に仕立て上げられて、迫害を受けそうな感じですし。
もう一つ、ソ連崩壊後、問題となったように北朝鮮&ベトナムからの出稼ぎ労働者も、北日本に沢山いるでしょうから、そちらでもトラブルが起こるでしょう。
あと、問題は統一戦争直後の1994年10月に奥尻島沖での大地震、1995年5月に北サハリンのネフチェゴルスク市等で死者2000人を出した大地震が起こっていて、北日本の人はかなり踏んだり蹴ったりの目を見そうな気がします。
その他、1995年1月には阪神大震災が起きて、1995年3月には地下鉄サリン事件が起きてオウム真理教が摘発されますから大騒ぎです。
オウム真理教も各種兵器を手に入れるべく、北日本で大々的な布教を行うでしょうから、北日本でもかなりの騒ぎを巻き起こすでしょう。
史実のオウム真理教は、日本で1万人の信者しかいないのに、ロシアで3万人の信者を得てますから、北日本ではそれ以上の信者を得ている可能性も高いです。北日本人はそういうのに免疫が薄いでしょうし。
オウムに限らず、様々な新興宗教や詐欺商法グループが北日本人をカモとすべく乗り込んで、その対応だけでも大変なことになるでしょう。
史実でも旧社会主義国のアルバニアがネズミ講が原因で国が崩壊してたりしますし。
なお、この考察をまとめるにあたり、森川和基さんの助言が非常に参考になりました。どうもありがとうございます。