暗愚の共和国 北朝鮮工業の奇怪
李 佑泓 著 亜紀書房
現代の日本において、アスファルトで舗装された自動車道路、ビルの一番上から一番下まで普通に動くエレベータ、これらは全て当たり前のことである。しかしこれには様々な技術や工業インフラが完備しているからこそ出来ることなのだ。この「どん底の共和国」は金王朝の独裁体制下でまともな工業インフラが育たなかった北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で前述のような「あって当たり前」の文明の利器を稼働させた場合に起こる悲喜劇を描いている。
例えば北朝鮮の首都平壌には様々な高層建築が立ち並んでいるがきちんと上の階まで水道水が通っているところは数少ないらしい。
なぜならば普通の国の高層建築では水道水はいったん屋上の貯水タンクに貯められてから階下の各水道口に流しているのだが、北朝鮮では水道管を下から直接通しているからなのだ。水道管を通る水の水圧が充分高ければこれでも問題ないのだが、そうではないためビルの途中で水が通らなくなってしまうのだという(^^;;;;。
その他、在日朝鮮人が醤油自動製造器を持ち込んだら、北朝鮮では醤油のガラスビンでさえ均一な形に作れないので、同じ形のガラスビンを使用することを前提とする(そりゃそうだ(笑))機械が全く役に立たなかった等、まるで19世紀の世界に、20世紀後半のインフラで使用することを前提にした現在の最新機械を持ち込んだらどうなるか、壮大なSF的実験をやっているような凄いトホホな話ばかりだ。
しかもただ単に技術が遅れていて、それを埋めるために一生懸命努力しているのならまだ良いのだが、原因のほとんどはこの国の体制によるものがほとんどで、良くなる傾向は見えず悪化するばかりというのが泣かせる。
筆者は在日朝鮮人の技術者で、祖国の工業を向上させるという夢を抱いて様々な機材とともに北朝鮮に入国したのだが、現地のあまりの無茶苦茶さに挫折した人物だ。最近、北朝鮮からの亡命者による暴露物が多いが、工業&農業インフラ的な点から詳細に描かれたルポタージュは恐らくこれしかないだろう。
こういうのに興味が無い人にも、現在の工業機械は現在のインフラ上でしか使えないことを見せつけてくれる本なのでお勧めだ。あと安っぽい架空戦記でよくやることだが、現在の兵器を過去に持ち込んでも運用することが難しいのがよくわかる。