新井英樹

作者紹介
読者を不快にさせることなんていとわずに、媚びてないというか、人気取りなんてまるで考えてないように見えます。 ”俺が描きたいのはこれだ”という作者の声が聞こえてきそうな感じです。

この人の漫画を読むと色々な感情を揺さぶられる。大好きな漫画家。
ですが、こういうのはまったく受け付けられないという人も多いと思います。
「ザ・ワールド・イズ・マイン」とか「キーチ!!」とかは特に。

「SUGAR」はこの作者の著作の中で少し特別で、誰でも普通に楽しんで読めると思います。

真説ザ・ワールドイズ・マイン

作者
新井英樹
ジャンル
人間ドラマ
掲載誌
出版社
エンタ―ブレイン
刊行
全5巻
オススメ度
★★★★★
真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻
感想とレビュー(2007/09/07作成)
この漫画は、以前ヤングサンデーで掲載されていて単行本が現在廃刊になっている「ザ・ワールド・イズ・マイン」(全14巻)に、大幅な加筆修正を加えて「真説ザ・ワールドイズ・マイン」(全5巻)として、エンターブレインから発売されたものです。 タイトルに「真説」とあるからか、ラストが変更されるという噂を購入前に聞いていましたが、デマだったようで、
「9.11前の物語を9.11以降にいじるのは反則行為なんじゃないかと。」

と作者が語っている通りストーリーに変更はありません。

加筆修正については、旧作と比較しながら読んだわけではないので、気付かなかった個所も多数ありそうですが、気付いた個所で印象に残っているのは次のような場面です。

・1巻1話、モンちゃんが力士の指に噛み付くシーンに見開きで2ページ加筆
・1巻1話、ヒグマドンが牛を襲うシーンに見開きで2ページ加筆
・2巻34話、飯島が、からんできた若者を、手をかざしただけで屈服させるシーンに見開きで2ページ加筆
・5巻155話、トシに関するあるシーン、6ページの加筆
・5巻最終話、作者のモノローグのようなものと一緒に描かれるラストシーン、8ページを加え、加筆修正

これらの加筆修正は、印象的だったシーンをより印象的に見せています。

絶版になっていたものが普通に買えるようになった事と、大幅な加筆修正が売りになっていると思いますが、冒頭に3ページずつ、計15ページにわたり掲載されている作者へのインタビューも面白いです。

・「神」を意識して描き始めたので、生死を扱うことになった。
・作者がアメリカ嫌いで、「命は平等に価値がない」「俺は俺を肯定する」「力は絶対だ」といった一連のモンちゃんのセリフは、アメリカ的価値観の 行き着いた先。
・モンちゃんとは違って、ヒグマドンは作者の代弁者。

等と語られている所は特に興味深かったです。また、主役はもちろん、魅力的な脇役についても作者が語っているところも興味深い。
本作のファンなら、読んでみて損はないと思います。

個人的に大好きな作品だったので、復刊によってまた多くの人に読まれると思うとうれしいです。

RIN リン THE MOST ELEGANT OFCHAMPIONS

作者
新井英樹
ジャンル
ボクシング漫画
掲載誌
別冊ヤングマガジン
出版社
講談社
刊行
1〜2巻
オススメ度
★★★★★
RIN 1 (1) (ヤングマガジンコミックス)
感想とレビュー(2007/09/07作成)
ヤングマガジンアッパーズの廃刊とともに連載終了となった、SUGARの続編にあたり、別冊ヤングマガジンにて連載中。

圧倒的なボクシングの才能を持つ主人公、石川凛が、タイトルマッチで、まさに圧倒的な実力差を見せ付けて、チャンピオンを倒し、王座を奪取する場面から本作は始まります。

その誰もが認める才能にも関わらず、試合会場には、アンチ石川を掲げる集団が現れる等、凛は、嫌われ者の悪役になっていて、その原因は人間性にあるようです。

凛は、自分の才能を謙遜して見せることをしません。敗者を労わるよなこともしません。努力や人情話等、実力以外のものをリングに持ち込むことを、極端に嫌い、それら全て無駄なものと思っているようで、それを隠さない辛辣な発言が多いです。よく試合前に、選手の家庭環境等の紹介VTRを流すK-1なんて、凛は大嫌いなのでしょう。

その態度はボクシングに対する純粋さの現われでもあり、その天才性によって、好きなボクシングで好き勝手に振舞う様子には、努力や精神論を前面に出した漫画にはない清清しさが、確かにあります。

饒舌なキャラとして描かれていて、やろうと思えば、周囲に好かれるキャラも演じられるはずですが、ボクシングに対して嘘をつくようなことはできないといったところでしょうか。その為に、周囲との摩擦が起こり、いら立ち、攻撃的な発言が多くなり、摩擦が大きくなるという、完璧な悪循環に陥っています。
「...仕っ方ねえべさ。人としてよかボクサーの方選んじゃったんだから...オレ」
という凛のセリフがありますが、このセリフが、この作品のテーマを表しているような気がします。この作品では、ボクサーとしての自分を変えられない為に、周囲と相容れなくなっていく、凛のジレンマ、天才の孤独が大きく取り上げられていて、そこが前作「SUGAR」とは違っているように思います。

凛には、好意を寄せている千代という幼なじみがいて、彼女の存在が、ボクシングに傾倒していく凛の唯一の未練となっているようですが、それを断ち切らせる為にか、作者は、読んでいて軽く鬱になりそうな展開に話を持っていきます。

この作者、「宮本から君へ」という作品で、それまでさわやかなサラリーマン漫画を書いていながら、突然ヒロインがレイプされる話を書いた(しかも連載100回記念の回に)という実績がありますが、その事を思い出させられました。

色々あって、凛が自称50代(実は62歳)のオバサンを相手に、童貞を捨てる事になるのですが、オバサンの裸を汚らしく、その行為をリアルに描写しているところに、この作者の意地の悪さを感じました。こんなシーンは他の誰も描けない(描かない)でしょう。トラウマになりそうです。

「宮本から君へ」では、レイプの回でかなり読者の反感を買い、人気も落ちたらしいですが、その後の宮本の復讐シーンでは、人気も戻ってきたらしく、確かに爽快はありました。

本作でも、鬱展開を読まされたフラストレーションを、一気に発散できるよな展開が、この先にある事を期待しています。

この作者の作品には、名言が多いですが、本作でも同様で、特に次のは奮っています。ニュース番組に出演した凛は、松岡修造を模した熱血ニュースキャスターからの、「世界を舞台に活躍する人は、真摯に自分と向き合い、自身に問いかけ、自分との戦いを重ね研鑚を積んで来ているはずだ。君はどう?」という趣旨の質問にこう答えるのです。
「ね、自分を探すだの磨くだの大忙しだとさ、こういうこと言っちゃうんだ。
〜中略〜
本当に一番好きなことやってたら、自分眺めてるヒマなんかねえだろ。
〜中略〜
普通なら、なにかに...映った自分観て『あ..オレ』だろ」
自分探しの旅なんて言葉をよく耳にする最近では、このセリフを言える凛をうらやましく感じる人も多いでしょう。自分自身を省みることもなく、好きなことに打ち込んでいて、さらにそれを普通だと思っている凛には、やはり僕もうらやましさを感じてしまいます。

ザ・ワールド・イズ・マイン

作者
新井英樹
ジャンル
人間ドラマ
掲載誌
ヤングサンデー
出版社
小学館
刊行
全14巻
オススメ度
★★★★★
The World Is Mine 1 (1) (ヤングサンデーコミックス)
感想とレビュー(2007/09/07更新)
トシモン、ヒグマドンという2つの巨大な力を描いた物語。

トシモンというのが、モンちゃん、トシという2人のテロリストの通称であり、ヒグマドンというのが、ヒグマを大きく越える巨大な生物で、怪獣のような存在です。
トシモンが、殺人、爆破等のテロ行為を開始するのと、ヒグマドンが出現して大量に人を殺していくのが同時期に起こり、まるで競い合うかのように人を殺していく両者に、影響を受けていく世界が描かれます。

少し前の作品で、9.11テロ以前に、テロの脅威、それに影響される世界を描いているところが興味深い。もうこのような漫画が連載されることはないのかもしれません。


メインキャラであるトシモンのうち、モンちゃんは、巨大な暴力を持ち、本能のままに行動していくというキャラであり、畏敬の念というものがどういうものかまったく分からないというシーンが象徴するように、人間を超越したかのような圧倒的な存在として描かれます。

対照的にトシのほうは、人間らしい人間として描かれています。人間なら誰でも大なり小なり持つであろう、巨大な力への憧れによって、モンちゃんと行動を共にしていくことになり、だからこそ、その結果としてトシが凶行に手を染めてゆく様は、おそろしい。
押し入った電気屋でトシが一線を越える場面は鳥肌が立ちました。

「ボク弱い人間やから強い力を持ったらあかんのや」
「使いたくなるやろ」

と、チャットでトシが語るシーンや、

「ボク チカラ欲しかった」

というメッセージを書いたトシが、それを後ろから見ていたモンちゃんに小声で笑われたことで、胸に痛みが走り後ろを振り返ることができなかったというシーン等、トシの弱者としての立場と、それを自身がよく理解している事を強調するエピソードが多いので、殺人鬼であるトシに嫌悪感を感じると同時に、どこかせつなさも感じてしまいます。

もう一つの巨大な力、ヒグマドンは、序盤はあまりその姿を見せずにその被害だけが報道されていきますが、7巻から始まる大館での話で、その姿を現し大暴れを繰り広げます。この大館でのシーンは、怪獣が実際に現れたらどうなるのかということがリアルに描かれていて、ヒグマドンによって建物が破壊され、人間が当然のように虐殺されて行く様は圧巻の一言。ここまでリアルな怪獣の描写は他にないのではないでしょうか。


トシモン、ヒグマドンを中心に話は進みますが、総理大臣のユリカン、熊撃ち名人の飯島、新聞記者の星野、警察官の塩見等の、関係者の目線からストーリーが描かれることもあり、その分量も多く、この漫画は群像劇のような側面も持っています。
彼らを含めて、脇役までがみんな魅力的で、キャラが立っているところがこの作者のすごいところ。

ユリカン、飯島等は特に良いキャラだと思います。

青森県警襲撃の際に、「命の人種別、国別による重さと値段」「人を殺してはいけない理由」「理想郷の要求」の3つについて、総理大臣に回答させろと、トシが要求する場面があるのですが、これに対してユリカンが回答するシーンは、かなりの名シーンです。
答えの出ないような無理難題ですが、現実の総理大臣では、立場上絶対に言えないような、本音でのユリカンの回答と、私人として語られる、それに続く演説には納得させられるところがあります。

飯島というキャラは、戦争で殺人を経験し、狩りで動物の命を奪うことを生業としている性質上、モンちゃんとまではいかなくても、人間を超越したようなところを持っていて、作中で、飯島語録として繰り返されるように、名言の多いキャラです。
「命を奪う行為は神に預けてた命を取り戻す戦いだ、
時として至福!!俺は貪欲にそいつを味わうつもりさ」
等は一例ですが、生き様や振る舞いが本当にかっこいいじいちゃんなのです。

トシモンを追う警察側から描かれる話もありますが、これ単体で警察物のストーリーとして成立するくらい面白い。トシモンによる青森県警襲撃事件の際に、指揮をとった捜査一課(元)課長の塩見、塩見と共にトシモンを追うことになる、警察庁の薬師寺、秋田駅前から始まる殺戮の際に捜査の指揮をとる、秋田県警本部長の須賀原、この3人が警察側の中心人物になります。

塩見は常に手旗信号をしている、薬師寺は常にヨダレをだしている、須賀原は異常な掃除好き、という風に、3者が個性的な癖を持っていますが、漫画にありがちな、癖や口癖で無理矢理キャラに個性を持たせるという感じには決してなっておらず、内面からくる個性によって、3者ともよくキャラが立っています。

トシモンが人質を連れていて、一人の人質の命を気にしていては大勢の命が失われるという状況にあって、「人質があなたの娘でも殺すのか?(いや誰であれ人質は殺すべきではない)」と問う塩見に対して、「娘なら殺すわけはないが、幸い人質は娘ではない(だから殺せる)」と薬師寺が答え、「須賀原なら娘でも殺せと即答するだろう」と語られるシーンが3者の思想を象徴している。

ヒューマニズムを捨てきれない塩見、別の場面での「善悪に非ず、体制と反体制だ」というセリフが示すように、それぞれが置かれた状況、立場というものを冷静に見つめる薬師寺、社会の為には個としての命は犠牲にするべきだとする須賀原。3者の、それぞれが持つ正義がぶつかり合う様は、面白い。


この漫画を読んで印象に残るのが、行き過ぎなほどの徹底されたリアルな暴力描写であり、こういうのが駄目な人には合わないのかもしれませんが、この漫画には必須のものであるように思います。暴力をふるう悪に魅せられる人の気持ちも、わからなくはないですが、それがリアルに描写されるからこそ、この漫画を読むと、不快感等の暴力に対する否定的な感情も刺激されるのだと思います。

トシがテロリストであることが世間に知れてから、トシの母親がたどる運命を描いた部分がありますが、ここ等は特に不快感をともない、読んでいて辛い気持ちにもなりますが、気に入っている部分でもあります。
ドキュメンタリー風に挿入されるナレーションがリアルで嫌すぎて、
12月12日午前0時06分
彼女は自室の窓の開閉が
わずか20センチであることを確認の後、部屋を出た。
なんていうところを読んでいると、そういうのもうやめてくれ、と思いながらも、その描写に惹きつけられて読み進めてしまうのです。


暇つぶしや、片手間に、ましてや息抜きとして読むような漫画ではないですが、読んでいると色々考えてしまい、(良い意味で)疲れる漫画です。
未読の人には是非一度読んでみてほしい漫画です。


なお、小学館刊の単行本は絶版になっていて、入手困難ですが、エンターブレイン社から、「真説ザ・ワールドイズ・マイン」として、大幅な加筆修正を加えられた、完全版のようなものが発売されています。

キーチ!!

作者
新井英樹
ジャンル
人間ドラマ
掲載誌
ビッグコミックスペリオール
出版社
小学館
刊行
9巻
オススメ度
★★★★☆
キーチ 9 (9)
感想とレビュー
タイトルにもなっている、染谷輝一という子供が主人公のお話。

1巻から5巻の初めまでが、幼児編、5〜9巻までが、小学生編という感じです。
現在(2006/7)連載はされていないようですが、最新9巻に”子供編 -完-”、とあるし、
全9集、ではなく1〜9集となってるので、そのうち大人編が始まるのかもしれません。

幼児編では、人の死に出会ったり、ホームレスと生活したり、裏切られたりと、輝一が
普通ではない色々な経験をしながら成長し、彼の思想が確立されていく様子が描かれます。

悲惨な出来事とか、大人の汚い部分だとかが、新井氏特有のエグイ描写で描かれて
いたりして、この幼児編もなかなか良いのですが、5巻からの小学生編に突入すると
俄然面白くなってきます。

輝一は世の中の汚いものが嫌いで、そういうものが存在するのが許せない。と考えています。
輝一が、物事を”善悪”でなく”好き嫌い”で判断しているという部分が良かった。
”善悪”の基準なんて個人個人で変わってくると思うので、自分は絶対に正しい、と
信じているような人間は、どうしても嘘臭く見えてしまうと思います。

輝一の、”善悪”については口にせず、あくまで”好き嫌い”で周囲を裁いていく傍若無人ぶりが
清清しいです。

一歩間違えば嫌なキャラになってしまうとは思います。ですが、小学生編で中心になっている事件は、世間の大多数が嫌悪感を抱く内容で、事件の加害者達も
自身が悪であることを認識しているので、彼らを敵とみなし、裁いていく輝一の姿には
素直に共感することができました。

敵である加害者達は、政治家、警察等の正しい立場の職業に属していて、巨大な権力を
持っています。そして、その持てる力で悪事を継続させようとし、また、邪魔をする輝一達を
黙らせようとしてきます。

この巨大な敵に輝一が、人脈とためらいのない行動で立ち向かっていく所が見所になると思います。

この話、輝一が子供であるから成立している部分があると思うのですが、大人編がもし
あるとしたらどういう展開になって行くんでしょうか。

「ワールドイズマイン」の中でヨダレを大量に垂らしている刑事が、
「親父を逮捕することが昔の夢だったが、刑事となった今では立場にしばられてしまい、
それが出来ない。」
というようなことを確か言っていたと思います。

「キーチ!!」の中でも権力に立ち向かえなかった刑事が描かれています。

大人になれば誰でも、”立場にしばられる”ということが少なからずあると思います。
輝一が普通と違うといっても、子供編と同じようにある意味好き勝手に振舞うことは、
難しいのではないでしょうか。

大人の輝一を作者がどう描くのか、スケールが小さくなったりはしないか、すごく気になります。
是非、大人編は描いて欲しい。

SUGAR

作者
新井英樹
ジャンル
ボクシング漫画
掲載誌
ヤングマガジンアッパーズ
出版社
講談社
刊行
全8巻
オススメ度
★★★★★
シュガー 1 (1)
感想とレビュー
天才ボクサーの物語です。
"プロならね!!努力が通用するボクシングなんかしちゃおしまいでしょ〜"
なんて発言できてしまう天才ボクサー、石川凛が主人公。
必死の努力の末に必殺ブローをみにつけ、強敵を倒す。というようなありがちな展開は
この漫画にはありません。
デフォルトで世界王者以上の能力を持つ凛。彼の、天才の視点を体験し、華麗なボクシングに
魅了される、そういった部分がこの漫画の魅力だと思います。

ボクシング以外の人間ドラマ的な部分も多く描かれていて、実際、凛が初めてボクシングジムを
訪れるのはやっと3巻になってからだし、その後も凛の就職先の料亭(板前をやりながら
ボクシングをやることになる。)での話も描かれていきます。

ストーリー的には「ザ・ワールド・イズ・マイン」、「キーチ!!」に見られるような残酷な展開や出来事は
ありません。ですが、この作者らしい魅力的なキャラが多く登場し、笑えるシーンも結構あったり
して、明るいトーンの誰でも楽しめる内容になっていると思います。
中でも、凛の通うジムの会長、天才、中尾重光。この人がストーリーの面白さに多大な
影響を与えていると思います。
"「天は二物を・・・」じゃ表現として甘過ぎ
天は中尾をギリギリヒトとするためにボクシングのみを与えやがった!!"
と凛が中尾を評しています。このセリフかっこいいなぁ。そして、端的に中尾のキャラを表現
していると思います。

性格は破綻していて、極度の自己愛者で、ド変態。性犯罪者になっててもおかしくないような
人格。だけど、作中で"四次元ボクシング"と表現される、圧倒的な才能のおかげで。引退した
今でも尊敬を集めている。それが中尾です

才能ないやつには教える気が無い。実際に現役の天才である凛が現れたら、嫉妬してしまい、
凛の才能を認めない、ボクシングも教えない。っていうのは会長としてどうなの?という気もしますが、
その子供っぽい行動の一つ一つが可笑しい。

顔の造形も秀逸。ギザギザの変な髪形に、塗りつぶされた真っ黒な目、飛び出した唇に、
目の下の変なしわ。こんな変態的な顔今まで見たことがありません。
なんか中尾が出てきただけで笑っちゃいます。

冷静で何でもこなすっていうのが、よくある天才キャラだと思いますが、中尾も凛もそういう
キャラでは無いところが良かった。

中尾は上述の通りだし、凛にしても冷静とは程遠い。ベラベラ本当によくしゃべって面白いん
だけど、人の傷付くことでも平気で言う。
ボクサーとしては天才。だけど、人間性には大きな問題がある。
傲慢さ、身勝手さが才能があるという理由で許される。そういう部分はリアルだと思う。

普通のボクサーではなく、天才を描くということで、作者は色々凝った表現をしています。
"『ある視点』×4"という話では一つの試合が、客観⇒記者⇒中尾⇒凛、と順に視点を
変えて描かれていたりします。3者の視点があることで、天才凛の視点が効果的に演出されて
いたと思います。

それと、最後の試合の、"もっと""もっと!!""もっとよこせ"の部分がかっこいい。是非読んでみてください。

掲載誌のアッパーズの休刊で、一旦終了してしまったこの漫画ですが、その後、
"RIN THE MOST ELEGANT OF CHAMPIONS"
とタイトルを変え、ヤングマガジンで連載再開し、現在(2006/7)は別冊ヤングマガジンに
移籍して連載中です。単行本も1巻まで発売中。

"SUGAR"だけ読んでも一応きれいに終わっているので、大丈夫だと思います。

"RIN"では、自身の人間性よりもボクシングを選んだという部分が強調されているようで、
この先どう展開していくのか気になるところ。
元やくざの世界チャンピオンとか出てきますが、黒い暴力とかそういうのが凛に降りかかる
ような展開にはこの漫画はならないように祈ります。

宮本から君へ

作者
新井英樹
ジャンル
サラリーマン漫画
掲載誌
モーニング
出版社
講談社
刊行
全12巻
オススメ度
★★★★☆
感想とレビュー(2007/12/17作成)
ずっと最終巻だけ手に入れられずにいた作品なのですが、この前あることがきっかけで、ネット上のデータ販売で買える事を知り、買ってようやく読めました。良い時代になったものです。

マルキタという文房具メーカーに勤める宮本浩という営業職のサラリーマンが主人公の漫画です。一流企業に勤めてるわけでもなく、平均的なサラリーマンの宮本が、自身の無力さや、社会人としての常識、道徳に負けずに、我を通していく様子が、暑苦しくも痛快で、それがこの漫画の魅力なのだと思います。また、我を通した結果が、必ずしも宮本の成功では終わらないという現実的な部分が個人的に好きです。

色々な人に、特に僕と同じサラリーマンに薦めたくなるような名作だと思いますが、ただしそれも7巻まで8巻以降の例のあれが有名で、それをきっかけにしてこの作品を知った人も多いとは思いますが、あれが人に薦めづらい理由になっているのも事実。

以下それも含めてストーリー順に感想を。

■甲田美紗子との恋愛話
この漫画の最初にあるのは宮本の恋愛に関するお話。朝の通勤電車で見かける甲田美紗子(その時は名前も知らない)に好意を抱いた宮本が、なんとか話し掛けようと試みるところから始まり、
「僕の!!名前は!!宮本浩です 僕と!!朝は!!話!!したいです」
といういっぱいいっぱいな告白を経て、通勤中に話が出来るようになり、そこから色々話が展開していくといった感じです。

宮本の恋愛感は、割とというかかなり硬派ですが、反対に軟派な同僚の田島というキャラを立てたりして、宮本の信念が揺らぐ様子が描かれる所なんかがいいと思う。宮本、田島、甲田美紗子を含む3対3で合コンすることになり、それを知った上司にゴムを渡された宮本が、「俺彼女とはそんなんじゃないですから」と口では言いつつも、半ダースのゴムを持参しながら悪びれずにやって来た田島を見て、「田島がまぶしかった」と独白するあたりとか、そういう人間臭い描写が好きなんです。

宮本の中には恋愛とはこうあるべきという信念があるものの、実際に事にあたった時、特にうまくいっていないときに、信念とは真逆の、こうするべきではないと思っている行動に出てしまう様子だとか、見ていて痛々しく、2人の関係の結末はそれの最たる物なんだけど、その必死さとかっこわるさに、大きく心を打たれる所があります。総じて、特にオチの着け方が良く、このパートはかなり面白かったです。

■コクヨンとの競合
恋の次は仕事といった感じで競合の話が描かれる、このパートが1番面白いと思う。

マルキタコクヨン文具メーカ
ハタダ問屋
ワカムラ文具
大東製薬エンドユーザー

上のようなルートで仕事の依頼があり、文具メーカーを、宮本が勤めるマルキタと、業界最大手のコクヨンのどちらを採用するか競合するといったお話。

大手のコクヨンの方が、納期、コスト面では有利であり、さらにコクヨンの担当者、益戸は、間に入っているワカムラ文具に取り入っていて、宮本は、営業能力が神懸かっている先輩、神保とともにこの仕事に当たるとはいえ、相当不利な戦いを強いられます。相手の汚い手もあって、もう無理してこの仕事を取りにいくのは、会社的に見て間違いであり、あきらめるべきだという所まで追い込まれるのですが、宮本だけが納得できずに、協力をつのり、周囲を発奮させながら、戦いつづけることになります。

自分の無力さを思い知らされながらも、あがき続ける宮本の不恰好さが良い。最後の最後で、ワカムラ文具の担当島貫に、見積書を書いてもらえないという段になって、宮本が300mに渡り土下座しながら島貫を追いかけるシーンはその最たるもの。プライドがどうとかはもはやどうでもよくて、サラリーマンとしての底意地を見せる宮本が清清しくて、こんなにすかっとする土下座シーンは、漫画に限らず見たことが無い。「土下座?不様だなー」みたいな、通常つきまとう感覚を吹っ切っていてかなりの名シーンだと思う。

とはいえ、コクヨンと同じ戦いの舞台に上がるだけでも、そんな宮本の個人プレーだけではどうにもならなくて、多くの人達に、相当な無理を言って協力してもらうことになります。後は結果の報告を待つだけという段になって、宮本がその事を思い返し、「この仕事が取れなかったら、みんなに骨を折らせただけになってしまう」と後悔したりするのですが、それに対する、先輩、神保の発言が良い。

「信じた奴が傷付くリスク背負うのは覚悟の上だろ」
「きれい事言うなよ お前を認めた人間はお前に焼かれようが食われようが文句言う筋合いどこにもねえよ」(4巻p.207より)
至言だと思う。きれいごとではない、信じるという行為の一つの側面が見えて、こういう現実的な描写が好きです。新井作品に名言が多いのは、デビュー作からそうだったんですね。

競合の結果と、その電話を受けた時の宮本の対応は、新井英樹さんらしくて最高だと思う。個人的には。

■例のあれ
コクヨンとの競合が終わってからは、中野靖子と宮本が付き合うことになったりしながら、物語は進むのですが、8巻からはかなり衝撃的な展開に突入します。以下はネタバレになりますがそのことについて。





衝撃的な展開というのは、ヒロインの中野靖子がレイプされるというもの。それまでの熱血サラリーマンストーリーからは逸脱した展開であり、泥酔して眠りこけている宮本のすぐ横でそれが行われるという最悪なシチュエーションであり、連載100回記念の回にそれを描いているのです。その後に、靖子が宮本のか元彼のか分からない子を妊娠してると判明するなど、作者の意地の悪さがこれでもかというくらいに発揮されています。レイプの回については賛否両論ではなく、否定的な反応しかなく、連載時には人気ががた落ちしたらしいです。

個人的に、バイオレンスを演出する為だけだったり、読者の目を惹く為だけに、必然性も無くレイプを描くのは不快で嫌いです。小説になりますが、伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」等は、半分しか血の繋がらない兄弟、血の繋がらない父子の連続性を描く為に、母親が強姦されたときできた子を産むという設定になっていて、こういった作品はありだと思いますし、「重力ピエロ」はかなり好きな作品です。

対してこの「宮本から君へ」におけるレイプの描写はどうなのかと言えば、正直よくわからないのですが、取り合えず、感じる不快感はかなりのものであり、インタビューなどを読むと、作者は、否定的な反応しかなく抗議の嵐だった事を指して、「それが面白いと思った」と言っているようで、少なくとも人気を得る為に描いたわけではなくて、作者の思い通りの結果にはなったようです。

レイプ犯の真淵拓馬は、元ラグビー選手で、巨体で運動神経も良く、頭も良いというキャラ。その強大な敵に、宮本は、一度はぶちのめされながらも、喧嘩で復讐を果たします。

宮本が復讐を果たす喧嘩のシーンは、確かにすごい迫力と爽快感があります。ぼこぼこにした拓馬を連れて、靖子のもとを訪れ、靖子にあきれられながらも、次の啖呵を宮本がはくシーンでは、自分しか愛せない究極のエゴイスト、宮本の、1つの到達点が見えたような気もします。
「力を合わせるなんてケチケチしたこと言わねえ 俺がいれば十分だ」
「子供は俺の子俺こそがすげえ父親ら 大盤ぶるまいお前らまとめて幸せにしてやる」(11巻p.188,189より)
この一連の流れには大きなカタルシスがあり、これを描く為にレイプの描写は必要だと言われれば、納得できないでもないです。ここで終わっていたら、良い終わり方と言えたのかもしれませんが、その後の最終12巻で、結婚する事になった宮本と靖子が、強がりながらも、実は不安を抱えているということを描写するあたり、やはり意地の悪い作者だなあと思います。まあそういった部分も含めて、新井英樹さんの作品が好きなのですが。


これから読む方は8巻の前後では、まったく別の作品と考えて、覚悟しておいた方が良いかも知れませんね。最後に、最終巻での作者のコメントが奮っていたので、その一部を引用して終わります。

そしてその後・・・
宮本は靖子と子供と幸せに暮らしました
・・・・とさ!!

な訳ねえです!!そりゃめでたいカン違いです!!
日々平穏の幸せに満足できるほど
宮本は淡白じゃねえです!!
(12巻巻末コメントより)