「うしおととら」や「からくりサーカス」などの長大な作品で、高い構成力を見せつけた作者ですので、数話で終わる短編なんて朝飯前といったところでしょうか。隙のない構成で、高い完成度を持った短編に仕上がっています。長年少年誌をホームグラウンドにしてきた作者ですが、本作は青年誌に掲載された作品。ですが、根底にある、読者を決して裏切らないエンターテイメント性、少年誌の王道的な展開は健在。藤田作品として変わらない良さがあると思います。
「黒博物館 スプリンガルド」(計6話)「スプリンガルド異聞 マザア・グウス」(計3話)の2編が収録されています。
黒博物館 スプリンガルド
バネでできた手足、鋭い爪を持ち、口からは青い炎を吐く怪物「バネ足ジャック」。ロンドン各所で女性を驚かしてまわったバネ足ジャックは、半年の後姿を消す。しかしその3年後、バネ足ジャックは再び姿をあらわし、今度は殺人を行い始める。というストーリー。バネ足ジャックを追う警官、ロッケンフィールドと、彼に疑いをかけられる、ストレイド侯爵が物語の中心になります。
「バネ足ジャックの正体」「3年前と現在のバネ足ジャックは同一人物か」という謎があるものの、それらは序盤で明かされます。意外性や謎解きなどを重視しない、ストレートなストーリーが展開されていく。と、思いきや、ラストにサプライズが用意されていて、こういう展開のさせかたはさすがです。
人間ドラマが優れていて、かつて傍若無人に振舞っていたストレイド侯爵と、彼を変えるきっかけになった女性マーガレットは良いキャラ。特にストレイドの心情の変化と、それにともなう行動には感動させられます。クール、スタイリッシュといった表現とは別の種類の、熱い血の通ったセリフが、この作者の特徴の一つだと思うのですが、やはり本作にもあって
「きれいな花を咲かせる人は孤独な時を耐えなければいけない」(p.145より)は名セリフだと思う。
スプリンガルド異聞 マザア・グウス
アーサーという少年の住むお屋敷に、ジュリエットという少女が忍び込んできた。ジュリエットは、その屋敷の中にある「バネ足ジャック」の手足を探す為にやってきて、それを使って、自分をひどい目に合わせた写真家に復讐を果たそうとしていた。というお話。強い女の子、弱い男の子、という構図が、窮地にて逆転し、男の子が頼りがいを発揮するという展開は、王道的で面白い。ピンチにヒーローが登場する、というまさに王道なシーンもありますが、こちらはちょっと都合のよさが気になります。ですが、
「人間にとっての『最高』ってヤツは『変わっていく』ってコトだろうからな」(p.230より)といういかしたセリフを吐きながらの登場シーンは、絵の迫力もあり、やはり王道的なカタルシスがあるもので、確実に良いシーンではあります。
「黒博物館 スプリンガルド」の後のストーリーなので、「黒博物館 スプリンガルド」とのリンクを楽しむ、といった楽しみもあります。
この作者は、長編作品も良いですが、こういった短編作品も面白い。あとがきによると、黒博物館を題材にした話を今後も描くみたいですので、楽しみにしています。


