藤田和日朗

作者紹介
「迫力のある絵」「豊富なアイデア」等、優れているところは色々あると思いますが、「ずばぬけて高い構成力」がこの作者の一番の特徴だと思います。「うしおととら」(全33巻)、「からくりサーカス」(全43巻)などのけっこうな長編で、物語の途中にばらまかれた複線が、回収され、ひとつにつながっていく構成の上手さは、他の漫画家と比べ一歩抜きん出ていると思います。

黒博物館 スプリンガルド

作者
藤田和日朗
ジャンル
歴史物/フィクション
掲載誌
モーニング
出版社
講談社
刊行
全1巻
オススメ度
★★★★☆
黒博物館スプリンガルド (モーニングKC)
感想とレビュー(2007/10/11作成)
タイトルにある「黒博物館」とは、ロンドン警視庁にある、今まで捜査された犯罪のすべての証拠品が展示されている博物館。そこに左足が展示されている、「バネ足ジャック」に関する2編の短編物語です。「バネ足ジャック」は実際にあった昔の都市伝説のようで、本作はそれをモチーフにしたフィクションになっています。

「うしおととら」や「からくりサーカス」などの長大な作品で、高い構成力を見せつけた作者ですので、数話で終わる短編なんて朝飯前といったところでしょうか。隙のない構成で、高い完成度を持った短編に仕上がっています。長年少年誌をホームグラウンドにしてきた作者ですが、本作は青年誌に掲載された作品。ですが、根底にある、読者を決して裏切らないエンターテイメント性、少年誌の王道的な展開は健在。藤田作品として変わらない良さがあると思います。

「黒博物館 スプリンガルド」(計6話)「スプリンガルド異聞 マザア・グウス」(計3話)の2編が収録されています。

黒博物館 スプリンガルド

バネでできた手足、鋭い爪を持ち、口からは青い炎を吐く怪物「バネ足ジャック」。ロンドン各所で女性を驚かしてまわったバネ足ジャックは、半年の後姿を消す。しかしその3年後、バネ足ジャックは再び姿をあらわし、今度は殺人を行い始める。というストーリー。バネ足ジャックを追う警官、ロッケンフィールドと、彼に疑いをかけられる、ストレイド侯爵が物語の中心になります。

「バネ足ジャックの正体」「3年前と現在のバネ足ジャックは同一人物か」という謎があるものの、それらは序盤で明かされます。意外性や謎解きなどを重視しない、ストレートなストーリーが展開されていく。と、思いきや、ラストにサプライズが用意されていて、こういう展開のさせかたはさすがです。

人間ドラマが優れていて、かつて傍若無人に振舞っていたストレイド侯爵と、彼を変えるきっかけになった女性マーガレットは良いキャラ。特にストレイドの心情の変化と、それにともなう行動には感動させられます。クール、スタイリッシュといった表現とは別の種類の、熱い血の通ったセリフが、この作者の特徴の一つだと思うのですが、やはり本作にもあって
「きれいな花を咲かせる人は孤独な時を耐えなければいけない」(p.145より)
は名セリフだと思う。

スプリンガルド異聞 マザア・グウス
アーサーという少年の住むお屋敷に、ジュリエットという少女が忍び込んできた。ジュリエットは、その屋敷の中にある「バネ足ジャック」の手足を探す為にやってきて、それを使って、自分をひどい目に合わせた写真家に復讐を果たそうとしていた。というお話。

強い女の子、弱い男の子、という構図が、窮地にて逆転し、男の子が頼りがいを発揮するという展開は、王道的で面白い。ピンチにヒーローが登場する、というまさに王道なシーンもありますが、こちらはちょっと都合のよさが気になります。ですが、
「人間にとっての『最高』ってヤツは『変わっていく』ってコトだろうからな」(p.230より)
といういかしたセリフを吐きながらの登場シーンは、絵の迫力もあり、やはり王道的なカタルシスがあるもので、確実に良いシーンではあります。

「黒博物館 スプリンガルド」の後のストーリーなので、「黒博物館 スプリンガルド」とのリンクを楽しむ、といった楽しみもあります。



この作者は、長編作品も良いですが、こういった短編作品も面白い。あとがきによると、黒博物館を題材にした話を今後も描くみたいですので、楽しみにしています。

作者
藤田和日朗
ジャンル
アクション
掲載誌
スピリッツ
出版社
小学館
刊行
全1巻
オススメ度
★★★★☆
邪眼は月輪に飛ぶ
感想とレビュー(2007/10/12作成)
月輪(がちりん)と聞くと、光覇明宗最強単独降魔捨法を使うあの天才を思い出しますが、本作は、「うしをととら」とは別世界のお話。直接、間接関わらず、テレビ越しでさえ、その眼を見た者を呪い殺してしまう恐ろしいふくろう、「ミネルヴァ」を巡った物語であり、タイトルの邪眼とはこのミネルヴァのことを指します。

ミネルヴァはアメリカの保護下にあったのですが、空母での移送中に逃亡してしまい、ミネルヴァがやってきた東京はかってない恐怖に包まれる。ミネルヴァを捕えるべくやってきたアメリカのデルタフォースとCIAは、最初の捕獲時にミネルヴァを撃ち落とした猟師、ウヘイに協力を求めます。かつての捕獲時に、妻や大事な猟犬を失っていたウヘイは、再びミネルヴァとの戦いに望み・・・ といったお話で、このウヘイが主人公になります。

まず本作、中心になる邪眼のふくろう、「ミネルヴァ」のデザインが抜群に優れています。どこを見ているかわからない眼は、常に血(のようなもの?)を流していて、強烈な禍禍しさを放っていて、特に、5人のガンマンによるミネルヴァの同時射撃のシーンでは、それが際立っています。殺気を読み、ふくろうの特性を生かして、容易に反撃に転じる様子は、凄まじくて圧巻。ここは一つの大きな見せ場です。

ウヘイは常に仮面を被っていて、見た者を殺すミネルヴァの特性と合わせて考えると、仮面の下は「どうせああなってるんだろう」と容易に予想がつく。というか特に隠そうと意図していないのでしょうし、実際その予想は当たるのですが、その結果に至った経緯に予想していなかった驚きがあり、納得もさせられる。「ああ、だから奥さんに余計に後ろめたさを感じていたのか」といった感じで。こういう風に、ある事実が明らかになった時に、「だからなに?」と思わせずに、驚きや納得を強く演出できる構成の上手さが、やはりさすがだと思います。

他に、ウヘイに協力を要請に来る、CIAのケビンが、空軍のアクロバットチームにいたという設定が上手いと思う。アクロバットチームでのある事故がケビンの心にトラウマとして深く残り、それが対ミネルヴァ戦での非常な決断の動機付けになっていて、さらに最終決戦においてこの設定が生かされる。といった具合に、一つの設定が、それだけで終わらず、物語の展開に有機的に絡んでいく所にも構成の上手さが感じられるのです。

あとがきを読むと、当初5回で終わる予定が、5回目のページ数が70ページくらいになってしまい、2回増やして全7回となった事がわかります。各話のサブタイトルを見ると、
  1. 狩人は森に佇む
  2. 巫女は街を目指す
  3. 軍人は絶望に沈む
  4. 情報部員(エージェント)は暗黒を孕む
  5. 疾き車は街を駆ける
  6. 塔(タワー)は決闘に震える
  7. 邪眼は月輪に飛ぶ
となっていて、形式が揃えられているものの、5.6.のサブタイトルになんとなく後付け感が・・・。5.6.を除くとサブタイトル全体がびしっと決まるような気がするんですけどねぇ。

ストーリー的に見れば、逆に、70ページになってしまったというだけあり、作者がのっているのが感じられ、無駄に感じられる部分は全然無く、全体を通して完成された物語になっていると思います。青年誌での連載でしたが、作者のこれまでの作品と変わらない高い娯楽性があり、「うしおとおら」や「からくりサーカス」を読みたいけど長いからなぁ・・・とか思っている人にはオススメ。

作者
藤田和日朗
ジャンル
短編集
掲載誌
少年サンデー
出版社
小学館
刊行
全1巻
オススメ度
★★★☆☆
夜の歌
感想とレビュー(2007/10/18作成)
1995年発売の結構古い短編集。5編の短編が掲載されています。以下にそれぞれの短編の感想を。

からくりの君

「からくりサーカス」の原型になったと思われる作品で、多分この本のメイン。舞台は昔の日本で、戦闘用からくり人形を繰るお姫様が、偶然出会った忍とともに、仇討ちに行くというお話。お姫様が隠し持つ、人形への異様な感情が見所で、ラストの戦闘も、ややありがちなオチではあるかもしれませんが、面白い。全体的に、安心して楽しめる作品です。

掌の歌

個人的にこの本の中で1番好きな作品です。舞台は昔の中国で、試合中に人を殺めてしまったが為に投獄していた中国拳法家が、出獄した直後に、殺した相手の弟子に戦いを挑まれる、といった感じでストーリーは進んでいきます。

主人公が昔、道場に入門する前、盗み見た崩拳という一つの技だけを3年間一人で練習して、その結果入門を許されたという過去のエピソードと、手に枷をはめられた獄中での3年間であっても、絶えず修行を繰り返し新しい技を取得したという現在のエピソードを、相似形で見せているところがうまい。強さを求めてしまう武道家の性を、いろいろなものを掴みたかったけど俺の手は拳をつくっちまう、というふうに表現しているところもかっこよくて好きです。ですがなによりすごいのは、そういった面白い要素を取り込みながら、1本筋の通ったストーリーをたった24ページというページ数でまとめる構成力だと思います。

連絡船奇譚

「うしおととら」以前に描かれた作品。本作で何かの賞に入選したらしく、作者のデビュー作ということになるのでしょうか。あまり絵が上手くないです。ストーリーはまとまっていますが、ページ数の少ない「掌の歌」の方が面白いと思う。作者の昔の作品を読めたという満足感はありました。

メリーゴーランドへ!

連絡船奇譚が入選した後に、本作がサンデーに載ったらしいです。連絡船奇譚同様にまだ絵があまり上手くない。全体的にみてもちょっとイマイチな感があります。「連絡船奇譚」は、賞への投稿に向けて時間をかけて描いたけど、それが入選した後に編集者から「次もなんか描いてよ。」とか言われて急かされて、この「メリーゴーランドへ!」を急いで描いたんではないかと想像しています。

夜に散歩しないかね

この本の裏メイン。だと思う。異様な惨殺死体、血を求め、闇試合で多くの人を殺めた男など、ダークなストーリが展開されます。本作ではもう絵は安定していて、死体のおどろおどろしさには「うしおととら」の妖怪に通じる所もあり怖い。