福本伸行

作者紹介
「賭博黙示録カイジ」では、その圧倒的なギャンブルの描写と面白さにに、まったくギャンブルをやらない僕でも魅せられ「この漫画に出会えて良かった」と思わされたものです。
それだけに、「賭博堕天録カイジ」「アカギ」における、現在の極端な話の引き伸ばしは残念に感じます。

「最強伝説黒沢」は、ギャンブル漫画ではなくこの作者にはめずらしい作品ですが、だれることなくスムーズに進むストーリーは面白く、かなりの秀作で密かにオススメです。
現在感想とレビューを掲載している作品

・賭博黙示録カイジ

・最強伝説黒沢

賭博黙示録カイジ

作者
福本伸行
ジャンル
ギャンブル漫画
掲載誌
ヤングマガジン
出版社
講談社
刊行
全13巻
オススメ度
★★★★★
カイジ―賭博黙示録 (1)
感想とレビュー(2007/09/16作成)
賭博黙示録という大業なタイトルを冠していますが、誰もそれを大げさとは言えないほど圧倒的に面白いギャンブル漫画。一見して上手いとは言えない絵を見て敬遠される人もいるかと思いますが、読んでみればそんなことはなんのマイナスにもなっていない事に気付き、はまってしまえばこの絵しかこの漫画にはありえないと思うようになります。

作中登場するオリジナルのギャンブルは戦略性に富み、繰り広げられる勝負の描写は当然のように緊迫していて面白いのですが、特筆すべきはキャラクター達の心理描写。

主人公のカイジは、ギャンブルにおける非凡さを見せるものの、決して天才ではなく人間的には駄目人間です。ギャンブルでは100%勝てる戦略などなく、それゆえ、カイジが試行錯誤しながら少しでも勝率を上げるよう苦心する様子は、ときに自分の人生に対してまで言及され、人生訓やある種の真理のような熱いセリフも多く登場します。

カイジは、保証人になったのをきっかけに莫大な借金を背負う事になります。その借金を一晩で返せるようなギャンブルの場に誘われ、そこから、欲望、裏切り、非道などにまみれた異常なギャンブルの世界に巻き込まれていくというお話。

以下に各ギャンブルの感想を書きます。

■限定じゃんけん(1〜4巻)

勝負内容
・集められた103人全員で行うギャンブル。
・始めに軍資金として100万〜1000万円の軍資金を主催者から貸し付けられる。
・参加者には最初に、グー、チョキ、パーの3種類の絵柄のカードをそれぞれ4枚ずつ計12枚と、星型のバッジ3個が配られる。
・各々が対戦相手を決め、手札の中から1枚を選びじゃんけんの勝負をする。敗者は勝者に星を一つ奪われ、引き分けでは星の移動はない。勝敗に関わらず使った手札は没収される。
・星はライフポイントのようなもので、星の数が0になると敗退となる。ゲーム終了時に星を3個以上確保しているものが勝者となるが、手札は全て使い切っていなければならない。
・場に残っている手札の総数は常に電光掲示板に表示され、これを戦略の参考にする。


一見すれば、じゃんけんという公平で単純な勝負を用いた運任せの勝負のように見えますが、その実は資金を使った手札、星の買収、譲渡が前提となっているなど、裏に隠されたルールがあり、冒頭カイジが「この勝負は愚図が落ちていき、知略を駆使したものが勝ち残る」と直感した通り単純ではない展開が繰り広げられます。

他の漫画家や、現在の「賭博堕天禄」「アカギ」を描いている福本先生本人であれば、10倍に薄めて使いそうなほどの膨大なネタが一つの勝負に詰め込まれている。複線の巧妙さ、勝負の緊迫感、緻密な心理描写、どれをとっても最高のギャンブル描写です。

■人間競馬(4〜8巻)

勝負内容
・12人で、高所に渡された靴幅程度の鉄筋で出来た橋を渡り、先着順を競う。下にはマットがしかれ、落下すれば大怪我はするが死ぬ事はない。
・1位に2千万、2位に1千万が賞金として渡される。
・この勝負を観戦している人達がいて、競馬のように誰が勝つかを賭けている。


上記のような勝負があるのですが、これは余興にしか過ぎず、勝者に手渡されるのは賞金の引換券でしかなく、現金を受け取るには、落ちたら即死という高層ビル間に渡された鉄骨の橋を、もう一度渡らなければならないという残酷な現実が告げられます。

当然参加者からは反発が起こるのですが、これを押さえつける主催者側の人間、利根川の力説が凄い。要約すれば「普通の人間は、受験戦争、就職戦争を経て勤勉なサラリーマン生活を送り、30代半ば、40代になってようやく1000、2000万円という額を手にできるのだ。お前らこんなギャンブルに参加しているようなクズが、十数分の余興でそんな大金を手に入れようなどと図に乗るな。」と語るのです。(要約しても伝わらないと思いますが。)現実の過酷さが突きつけられ、その迫力に圧倒され、直前の「金は命より重い」というセリフが重くのしかかってくるのです。

本番となる命を賭した鉄骨渡りでは、競争ではなく渡ればOKというものでギャンブル性はほとんどないですが、それだけに、この作者がギャンブル描写だけでなく心理描写に秀でているということが良く分かります。この勝負中に描かれる、人の死、孤独に関する描写が秀逸。

■Eカード(8〜12巻)

勝負内容
・2人での対戦形式のゲーム。お互いが交互に、皇帝側、奴隷側の立場に立って勝負する。
・皇帝側には1枚の皇帝カードと4枚の市民カードが配られる。
・奴隷側には1枚の奴隷カードと4枚の市民カードが配られる。
・お互いが手札から一枚ずつを選び、その優劣で勝敗を決める。
・皇帝は市民に勝ち、市民は奴隷に勝ち、奴隷は皇帝に勝つ。市民同士は引き分け。


鉄骨渡りをクリアしながら、難癖をつけられ賞金を得られなかったカイジが、主催者である帝愛グループの幹部、利根川とこのゲームで一騎打ちをすることになります。

仲間と共にそれまで非道な目に合わされてきたカイジが、狂気をも感じさせる戦術で、「どうしようもない奴隷だからこそ...皇帝を撃つ...」という自身の状況とこの勝負を重ね合わせたかのようなセリフと共に反撃するシーンには、大きな感動があります。

■ティッシュ箱くじ引き(12〜13巻)

勝負内容
・2人で交互にティッシュ箱の中のくじを引いて、当たりを引いた方が勝ち。


帝愛グループ会長の兵藤こそが真の敵だと感じたカイジが、巧妙に仕組んだイカサマを用いて兵藤に挑みます。
おそらくカイジシリーズのラスボスになるであろう兵藤会長の、実力と性格の悪さの一端がうかがえます。


最強伝説黒沢 The Legend of A Storongest Man

作者
福本伸行
ジャンル
人間ドラマ
掲載誌
ビッグコミック
出版社
小学館
刊行
全11巻
オススメ度
★★★★★
最強伝説黒沢 1 (1)
感想とレビュー(2007/09/16作成)
44歳の土木作業員が主人公という珍しい漫画。主人公の黒沢は、2002年のサッカーワールドカップを見て大騒ぎしながらも、そういった他人事の感動ではない自身の人生における感動がまったくないことに気付き、このままでは駄目だと奮起するといったお話。奮起するといっても、転職等の大きな事をするわけではなく、まずは職場の人望を集めるところから始めようとするのですが、それでも44歳のおっさんが急に変わろうとしてもなかなか上手くいかず、空回りしながら悪戦苦闘していくことになります。

ギャンブル漫画が有名な作者ですが、本作はギャンブルがないだけでなく、ギャグ漫画的な要素が強い事が特徴的。44歳という切羽詰った年齢の黒沢の空回りっぷりとその人生の悲惨さには、笑っちゃ悪いと思いながらも爆笑させられてしまい、この作者はギャグも上手いんだということが分かりました。ですがそれだけではなく、大きな感動もあるのがこの漫画のすごいところ。

それまで漫然と生きてきたいい大人の主人公が、急に思い立ってなにかを始めるというのは他の漫画でもわりとあると思いますが、それでも普通は30代前半位が限界だと思います。44歳ともなると、ちょっとしゃれにならないところもあり、黒沢自身が普通の人より悲惨な境遇にいるので、なんともいえないどうしようもなさが漂っています。ほぼ素人童貞の黒沢が、瀕死の状況で見た走馬灯の中に、テレビの中のアイドルしか登場せず生身の女性がまったく出てこないというエピソード等に至っては、どう反応すれば良いかわからなくなってしまいます。ですが、だからこそ、空回りしながらも頑張り続けている黒沢の姿には、切迫感ゆえに心を動かされるところがあり、その魂から絞りだしたような熱いセリフの数々にはこの漫画にしかない種類の感動があります。

物語の展開としては、ある程度の人望を築いた黒沢が、中学生にひどい目に合わされたことをきっかけに、喧嘩などの危険なことにも巻き込まれていったりして、最終的にはホームレスと暴走族の争いに参加することになります。連載開始当初の黒沢に似て自分に自身の持てないホームレス達に、黒沢が奮起を促すシーンの感動は圧倒的。「太古の昔から、男は自分以外の誰かの為に、犠牲をかえりみず勇敢に戦ってきたはずだ。その大損こく姿に女は惚れてきたはずだ。」といったようなことを黒沢は語ります。そして、その後に続く。
「優しさなんかじゃねぇっ・・・・・・!」
という叫びには、がつんとやられました。

よほど成功した人でもなければ、程度の差はあれ、黒沢のように今の自分に満足できない部分は持っていると思います。そういった人全員に読んで欲しいオススメの漫画です。