作中登場するオリジナルのギャンブルは戦略性に富み、繰り広げられる勝負の描写は当然のように緊迫していて面白いのですが、特筆すべきはキャラクター達の心理描写。
主人公のカイジは、ギャンブルにおける非凡さを見せるものの、決して天才ではなく人間的には駄目人間です。ギャンブルでは100%勝てる戦略などなく、それゆえ、カイジが試行錯誤しながら少しでも勝率を上げるよう苦心する様子は、ときに自分の人生に対してまで言及され、人生訓やある種の真理のような熱いセリフも多く登場します。
カイジは、保証人になったのをきっかけに莫大な借金を背負う事になります。その借金を一晩で返せるようなギャンブルの場に誘われ、そこから、欲望、裏切り、非道などにまみれた異常なギャンブルの世界に巻き込まれていくというお話。
以下に各ギャンブルの感想を書きます。
■限定じゃんけん(1〜4巻)
勝負内容・集められた103人全員で行うギャンブル。
・始めに軍資金として100万〜1000万円の軍資金を主催者から貸し付けられる。
・参加者には最初に、グー、チョキ、パーの3種類の絵柄のカードをそれぞれ4枚ずつ計12枚と、星型のバッジ3個が配られる。
・各々が対戦相手を決め、手札の中から1枚を選びじゃんけんの勝負をする。敗者は勝者に星を一つ奪われ、引き分けでは星の移動はない。勝敗に関わらず使った手札は没収される。
・星はライフポイントのようなもので、星の数が0になると敗退となる。ゲーム終了時に星を3個以上確保しているものが勝者となるが、手札は全て使い切っていなければならない。
・場に残っている手札の総数は常に電光掲示板に表示され、これを戦略の参考にする。
一見すれば、じゃんけんという公平で単純な勝負を用いた運任せの勝負のように見えますが、その実は資金を使った手札、星の買収、譲渡が前提となっているなど、裏に隠されたルールがあり、冒頭カイジが「この勝負は愚図が落ちていき、知略を駆使したものが勝ち残る」と直感した通り単純ではない展開が繰り広げられます。
他の漫画家や、現在の「賭博堕天禄」「アカギ」を描いている福本先生本人であれば、10倍に薄めて使いそうなほどの膨大なネタが一つの勝負に詰め込まれている。複線の巧妙さ、勝負の緊迫感、緻密な心理描写、どれをとっても最高のギャンブル描写です。
■人間競馬(4〜8巻)
勝負内容・12人で、高所に渡された靴幅程度の鉄筋で出来た橋を渡り、先着順を競う。下にはマットがしかれ、落下すれば大怪我はするが死ぬ事はない。
・1位に2千万、2位に1千万が賞金として渡される。
・この勝負を観戦している人達がいて、競馬のように誰が勝つかを賭けている。
上記のような勝負があるのですが、これは余興にしか過ぎず、勝者に手渡されるのは賞金の引換券でしかなく、現金を受け取るには、落ちたら即死という高層ビル間に渡された鉄骨の橋を、もう一度渡らなければならないという残酷な現実が告げられます。
当然参加者からは反発が起こるのですが、これを押さえつける主催者側の人間、利根川の力説が凄い。要約すれば「普通の人間は、受験戦争、就職戦争を経て勤勉なサラリーマン生活を送り、30代半ば、40代になってようやく1000、2000万円という額を手にできるのだ。お前らこんなギャンブルに参加しているようなクズが、十数分の余興でそんな大金を手に入れようなどと図に乗るな。」と語るのです。(要約しても伝わらないと思いますが。)現実の過酷さが突きつけられ、その迫力に圧倒され、直前の「金は命より重い」というセリフが重くのしかかってくるのです。
本番となる命を賭した鉄骨渡りでは、競争ではなく渡ればOKというものでギャンブル性はほとんどないですが、それだけに、この作者がギャンブル描写だけでなく心理描写に秀でているということが良く分かります。この勝負中に描かれる、人の死、孤独に関する描写が秀逸。
■Eカード(8〜12巻)
勝負内容・2人での対戦形式のゲーム。お互いが交互に、皇帝側、奴隷側の立場に立って勝負する。
・皇帝側には1枚の皇帝カードと4枚の市民カードが配られる。
・奴隷側には1枚の奴隷カードと4枚の市民カードが配られる。
・お互いが手札から一枚ずつを選び、その優劣で勝敗を決める。
・皇帝は市民に勝ち、市民は奴隷に勝ち、奴隷は皇帝に勝つ。市民同士は引き分け。
鉄骨渡りをクリアしながら、難癖をつけられ賞金を得られなかったカイジが、主催者である帝愛グループの幹部、利根川とこのゲームで一騎打ちをすることになります。
仲間と共にそれまで非道な目に合わされてきたカイジが、狂気をも感じさせる戦術で、「どうしようもない奴隷だからこそ...皇帝を撃つ...」という自身の状況とこの勝負を重ね合わせたかのようなセリフと共に反撃するシーンには、大きな感動があります。
■ティッシュ箱くじ引き(12〜13巻)
勝負内容・2人で交互にティッシュ箱の中のくじを引いて、当たりを引いた方が勝ち。
帝愛グループ会長の兵藤こそが真の敵だと感じたカイジが、巧妙に仕組んだイカサマを用いて兵藤に挑みます。
おそらくカイジシリーズのラスボスになるであろう兵藤会長の、実力と性格の悪さの一端がうかがえます。

