鬼頭莫宏

現在感想とレビューを掲載している作品

・ぼくらの

・殻都市の夢

・彼の殺人計画(読み切り)

ぼくらの

作者
鬼頭莫宏
ジャンル
ロボットアクション
掲載誌
IKKI
出版社
小学館
刊行
1〜6巻
オススメ度
★★★★☆
ぼくらの 1 (1) (IKKI COMICS)
感想とレビュー
夏休みの自然学校に参加した15人の中学生達が、洞窟の中でココペリという人物に出会ったことをきっかけに、巨大ロボットに乗り込んで敵と戦う運命を背負う。という物語。

あらすじだけ見れば子供向けのアニメの様ですが、実際には大人でも目を背けたくなるような残酷な漫画です。視覚的な描写がではなく、ストーリーが。

ロボットの名前はZearth(ジアース)。15人の中学生達は、このZearthを操縦して、地球に襲来する敵と戦います。Zearthには全員が乗り込みますが、操縦するのは一人。1戦終わると、次の戦いで誰が操縦するかが予告されます。

次戦のパイロットが決まると、

そのキャラの戦闘の日までの日常や過去等が描かれる。
    ↓
戦闘が始まる。
    ↓
戦闘終了後次のパイロットが決定する。

というサイクルで物語が進んでいきますが、戦闘シーンよりもパイロットになるキャラの心理描写がメインになっています。戦闘開始までの日常、過去の話には、多くページが割かれ、登場人物の思想や性格、抱えている問題等が深く描かれていきます。

15人の中学生達は、ただでさえ一般とは違う境遇にいて、重く辛い問題を抱えているキャラも多いのですが、1〜2巻で明らかになる一つの残酷な事実が、彼らに悲壮な決意を持たせることになります。

残酷な事実。この他にもあります。生々しく、ひたすら重い登場人物の日常でも、鬼頭先生らしさは見られるのですが、この残酷な事実の部分の、読者と登場人物への容赦の無さはものすごい。鬼頭先生の本領発揮といった感じで、この漫画の売りにもなっている部分だと思います。複線は結構張られているので、作者的には、「予告はしといたからね」といった感じでしょうか。明るく楽しい漫画が読みたい、という人には絶対にあいません。

以下ネタバレになりますが、この残酷な事実について触れたいと思います。

ネタバレ




1.Zearthは1戦闘駆動すると、操縦者の命を奪う。

戦闘に負けると地球は滅ぶという縛りもあるので、パイロット達は結局、自分の死から逃れない運命にあります。残酷すぎます。この設定によって、パイロット達の、自身の問題と戦闘への悲壮な決意を演出できると思いますが、普通は思いついてもやらないでしょうね。
Zearthの目の光が複線になっています。

2.敵の正体は、いくつか存在する平行世界の地球を代表するロボ。敵を倒すと、彼らの属す宇宙は消滅する。

6巻で明かされる真実。この為、敵を1体倒すということは、その背景の100億の人命を奪うということになる。自分達の地球を救う為とはいえ過酷すぎます。1の設定だけでも十分なのに。よくこんなの思いつくなと思います。以下のように、結構以前から多くの複線が張られていました。気付きませんでしたが。

・敵にもZearthと同じく、搭乗者の命を表す目が有る。
・敵が、住民の避難を待ってくれたりと、人間の意志で動いてることがほのめかされる。
・Zearthのコクピットと敵の核の形状が同じ。
・「ぼくらの」というタイトルが、”ぼくらの”地球ということで、”彼らの”地球も存在することをほのめかしている?

殻都市の夢

作者
鬼頭莫宏
ジャンル
人間ドラマ
掲載誌
マンガ・エロティックスF
出版社
太田出版
刊行
全1巻
オススメ度
★★★☆☆
殻都市の夢 (F×comics)
感想とレビュー(2008/04/23 文書作成)
「なるたる」「ぼくらの」の鬼頭莫宏先生による、外殻都市という架空の世界を舞台にした連作短編集。都市の上に都市を重ね成長し続けてきた外殻都市、という設定は魅力的ですが、それがストーリーに直接的に関係するのは第5話くらい。クローン人間とか、丙種遺体(ゾンビ)とか、生きた書庫とか、SF的かつ荒廃した世界設定を活かした色々な短編が収められています。例によって、鬱展開もあって後味の悪さが残ったりする。

以下はエピソードごとの感想です。



■第1話 誕生日の棺

「私が殺されているんです 助けてください」
というサイコチックで興味を惹かれる導入で始まるお話。

ネタバレになりますが、結局冒頭のセリフは真実で、夫が妻のクローンを作っては殺し、年齢ごとにコレクションしていた、というオチ。後は12歳になるクローンと、オリジナルである妻自身を殺して水槽に浮かべればコレクション完成、というところで夫は捕まってコレクションは完成せず。

クローンの死体入り水槽がずらりと並ぶシーンが一番の見せ場になるんでしょうけど、その後の男管理官と女管理官のやりとりが強く印象に残っています。
男管理官 「俺なんとなくわかるな あの男(※夫の事)の気持ち」

女管理官 「私はあの女(※妻の事)の気持ちがわかる
       でもあの少女(※12歳になる妻のクローンの事)は何を思ったのだろう」
作者の意図とは違うかもしれませんが、被害者と加害者について考えさせられた。

法的にも常識的にも、夫が加害者で、妻が被害者ということになるのでしょう。でも、妻は何一つ悪い所の無い100%の被害者と言えるだろうか?夫は100%の加害者と言えるだろうか?夫が罪を犯したにしても、それに至るまでの生活の中で妻との関わりがあって、それによって良い影響も悪い影響も受けただろうし、それは見ようによっては夫が妻から害を受けた、とも取れるかもしれない。

例えば現実に怨恨による殺人があったとして、当然殺した方が加害者になるんでしょうけど、被害者は怨恨を持たれるに至る行為をしていたのかもしれないし、それは加害行為と言えるかもしれない。そんな事を考えていくと、極論すれば世の中にある犯罪では100%の被害者とか加害者はいなくて、当事者同士において加害の割合が多い方が加害者で、その逆が被害者とかそういう事になるのかなあと思ったりしたわけです。

まあさすがに極論過ぎるかなとも思って、例えば万引きとかはどうかとか考えると、店側に非は無くて盗んだ奴は100%の加害者という事になりそうですけど、それにしたって、その犯人に万引きをさせるに至った社会の一員としての責任が、店が属する会社にも無い事も無いとか屁理屈を言い出せば、0.0000000000001%位は店も加害者と言えるのかも。

何が言いたいかと言うと、この話における殺される為に作られたクローンこそは、屁理屈が入り込む余地も無いほどの100%の被害者と言えるのではないかということです。

彼女(達)は、夫がクローン殺人という犯罪行為を思い立ったに、その犯罪行為を実現する為に作られた存在。刺殺を企てた人殺しが店で買うナイフと同義の存在。それが感情を持っているという事が悲劇なのかなあ。

自分の存在意義を知った時のクローンの少女が、一体どんな気持ちだったかは想像もできないですけど、だからこそ切ない気分になる。

「でもあの少女は何を思ったのだろう」

最後のセリフがなんとも言えず心に残っています。



■第2話 3年間の神

餓死寸前のホームレス少女の前に男が現れて言う。

「ここで死ぬか俺のもとに来て3年間生きるか選べ」

で、少女は生きる事を選ぶ。

男は3年で死に至る性病を患っていて、残りの人生における生活のパートナーを探していて、そこには性行為も含まれる。だから拾われた少女も性病に感染して結局3年しか生きれなくなるというお話。

読む人によってはというか、ほとんどの人は生理的な嫌悪感を抱く話なんじゃないかと思う。餓死寸前の、骨の浮き出た状態での行為とかもあるのでなおさらに。

男を神のように思っている少女について、当然と思うか、憐れと思うか、健気と思うか、どう捕らえるかで感じ方も変わってくるのかも。

僕は「死ぬはずだった命が3年も長らえたんだから良いんじゃない?性行為を強要されるにしてもしょうがないよ」っていう考えなんですけど、ちょっと現実的過ぎるかな?男は金持ってるみたいだし、無償で少女を助けなかったところが非難されるのかもしれませんが、そこまでひどい奴だとも思えないのです。

あと、安易に3年間の間に妊娠して子供という希望を残す、とかの展開にしないところが好感が持てます。鬼頭作品の、そういう残酷で現実的なところが好きです。



■第3話 生死者の聲

簡単に言えば、「死後ゾンビ化した夫が妻に『愛している』と言いに行く話」で、すぐには思いつきませんが、探せば似た話が色々ありそうな、王道的な話だと思います。

色々な障害を乗り越えつつ、ゾンビになった夫は妻のもとに辿り着く。ここで夫に普通に「愛してる」と言わせれば、感動的ないい話になるんだろうけど、鬼頭作品ではそんな風にはならないのか。

腐敗し続ける夫の肉体。
まさに「愛してる」と言う直前になって、夫の声帯が機能を果たさなくなる。そんな夫に妻は言います。

「大丈夫
あなたの声はいつでも私に届いていたから
だって私はあなたの妻だから」


ここで終わっていたとしても、十分に良い話だというか、こっちの方がちょと手の込んだ感動的な結末と言えそうな気もしますが、まだここでも終わらない。

妻の気持ちに打たれてか、夫は望まれながらも一度は拒んだ、腐敗した素顔を晒すという行為に出る。さらに追い討ちをかけるように、直後、夫の頭部が原型をとどめず崩れ落ちる。それを見て、「愛してる」と言おうとした妻の口が止まる。

あまりに残酷な結末な気がする。けど、その後で、男管理官が2人を代弁するかのように、「愛してる」と2回つぶやくシーンがあったりして、残酷さにもフォローが入る辺りが、作者の素晴らしいところというか、たちの悪いところというか。



■第4話 媚薬水の味

少年が、ほれ薬と噂される水を飲まされたが為に、自分の気持ちが信じられなくななる。だから、
少女は、ほれ薬と噂される水を飲ませたが為に、拒絶される。

そういう皮肉っぽいお話です。



■第5話 座敷童の印

街が少女に擬人化されてます。

都市の上に都市を重ねる外殻都市。そこだけに限定された話じゃなくて、短いか長いかの違いだけで、街には必ず終わりが来るっていう話なのかな?そういう意味で外殻都市は幼い少女に擬人化されてたのだろうか?

人を引きとめようとしながらも、その人が残ると宣言してるにも関わらず、それが終わる事を予感している、少女(=外殻都市)のせつない感じが良かったです。



■第6話 造物主の檻

マンションの中にキャラクター達を生活させて、それを観察するだけのゲームを作ったクリエーターが、建物を作り、少女達をさらってきてそこに入れ、自分の作ったゲームを現実の物にするお話。

冒頭、43人の少女が誘拐された事実が提示されて、どんな猟奇的な事件が展開されるのかと身構えてたら、意外な展開で逆に驚きました。

少女達は、誘拐されてきた当初こそ悲しむものの、次第に状況に適応して普通に生活し始める。そうするうちに、少女同士で争いが起きるようになり、犯人は警察に助けを求めた。

食糧から何から生活の世話をしている犯人は、少女達にとって絶対的な存在で、やろうと思えば犯人は少女達の争いをいくらでも静められたはず。だけど、争いを鎮めるどころか、少女達の世界に介入する事を、犯人はしなかった。自分の作ったゲームでも、プレイヤーはゲーム内の世界に介入できないからか?

自ら望んだ楽園を手放してでも、そのよくわからない自分内ルールに従う、犯人の変質的な様子が面白かったです。



■第7話 渉猟子の愛

これまであんまり関連がなかった各短編ですが、この最終話で、エピローグに向けてちょっとオーバーラップしたりする。

4話で男管理官が恋した少女は、渉猟子と呼ばれる生きた書庫だったとか。でその渉猟子が多くの発禁本も暗記していた為に、死刑になりそうになるけど、渉猟子のキャパシティ限界まで新しい物語を上書きしていけば、古い物語は消えてくからOKっていうことになる。
女管理官 「古い記憶は本当になくなっていくのかしらね」

男管理官 「もしそれが本当に必要なものならわすれないだろう」
そんな前振りがあって、舞台がいつかはわからない未来に飛ぶ。

そこで、渉猟子と思われる人が子供達の前で、男管理官と女管理官に聞かされたであろう、この作品に入っている各話のエピソードを語って聞かせようとするところで終わり。

それぞれの話が、少なくとも渉猟子にとっては本当に必要な思い出だった、というふうに、残酷な話が多いながらも、ラストはすごくきれいな終わり方なのでした。


殻都市の夢 (F×comics)
殻都市の夢 (F×comics)
posted with amazlet at 08.04.23
鬼頭 莫宏
太田出版
おすすめ度の平均: 4.5
4 他人には人の人生は さわれない
5 「愛」がテーマなのか
4 しんみりな鬼頭さん


彼の殺人計画

作者
鬼頭莫宏
ジャンル
人間ドラマ
掲載誌
ジャンプSQ 2008 5月号
出版社
集英社
刊行
読み切り作品(33p)
オススメ度
★★★★★
感想とレビュー(2008/04/19 文書作成)
※この作品は、ジャンプSQ(2008 5月号)に掲載された読み切り作品です。

「彼の殺人計画」を読んで、新井英樹先生の「ワールドイズザマイン」の中での、ユリカン(総理大臣)が「殺人はいけない理由」を回答する演説シーンを思い出した。その回答の内容を大雑把にかいつまんで要約すると次のような感じになります。
1.人を殺してはいけない理由はない。あれば法律や宗教など必要ない。
2.悪い事は悪いと頭ごなしに理屈もへったくれもなく、どやしつけることのできる大人に
なれ。
3.理由はない。それでも人を殺す事は悪いことだ。
理由になっていないような理由ですけど、でも当時これを読んだ時すごく納得して、回答としてこれ以上はないと思ったのを覚えています。同時に、殺人を否定する根拠は、法律、宗教を除けば、人間の良心、あるいはそこまで高尚な物でなくても、殺人への反射的な拒絶反応みたいな物しかないのかなと、そんな事も思いました。今でもそれは変わりません。


「彼の殺人計画」は、殺人を経験したいと思い立った17歳の主人公が、殺人計画を立て実行しようとする話。この主人公は、上で挙げた殺人への反射的な拒絶反応がない人間、もしくは殺人を経験したいという好奇心に負ける程度の拒否反応しかない人間なんだと思う。

読んで、殺人に対する拒絶反応がないだけで、こんなにも容易に殺人に踏み切れるのかと、なにか薄ら寒いものを感じた。主人公の思考が理解不能なほどに狂っているのではなく、極めて論理的に物事を考えていることが余計にそう感じさせる。


彼は殺人を思い立つ。
そこに切迫した理由はない。

「1回経験してみてもいいよな」
「人一人殺したって人生終わるわけじゃない」


殺人への興味があって、拒絶反応がなかった、あるいは弱かった、ただそれだけの事なのでしょう。だから、殺人を思い立ってからターゲットを選び始める。当然のように。


法律も彼を止める理由にはならない。罰を受ける事まで含めて、殺人の経験をしたいと思っているようだから。


それでも、せっかくの殺人が世間から間違った解釈をされたり、自分の望む形から外れてしまうことは嫌みたいで、そうならない為に計画を立て努力をする。

利害関係や怨恨を疑われたくないから、周囲の人間はターゲットから外したり、社会不適合者の犯罪だと思われたくないから、自分が恵まれた環境にいると周囲から思われるように努力したりといった感じに。

目的が殺人だという異常性だけを除けば、努力家で有能な極めてまともな人間に見える。それがすごく怖い気がした。特に最後のオチを読んでそんな風に感じました。

ネタバレになりますが以下そのオチについて。




主人公が満足いく環境を整えて、いよいよ殺人を実行に移そうとする刹那、主人公がまったく無関係の他人に殺される。そしてその殺人犯もまた、主人公と同じ様に殺人を思い立って自分と無関係なターゲット(=主人公)を殺すに至った。というオチです。

何が怖いかというと、主人公が自分の死を容易に受け入れている事だ。

「薄れていく意識の中で
オレは不思議に充足感を味わっていた
あとは彼(殺人犯の事)が語ってくれるだろう」


これが主人公の最後の独白。

殺人を犯すような人間には、自分が理解できない異常者であって欲しいと思うようなところがあって、だから「自分が殺すのは良いけど、自分が殺されるのは嫌だ」位理不尽な事を言ってもらいたい。それを聞いて、「ああ僕とこの殺人犯は全然違う種類の人間なんだな。」と思って安心できるというか。でもこの主人公は、少なくともそこまで理不尽ではない気がする。

最初に引き合いに出した「ワールドイズザマイン」からセリフを引用すれば、

「命は平等に価値が無い」

そんな価値観において、この主人公はフェアなのかもしれない。自分が人を殺す事に拒絶反応が無いのと同じ様に、自分が殺される事にも拒絶反応がないといった感じに。


他人の命だけでなく、自分の命も奪われる事に抵抗が無いという事実は、決定的に僕の理解からは外れてしまうのですけど、仮にその事実だけ無視してしまえば、主人公がフェアで有能なまともな人間に思えてしまうことがやっぱり怖い。


この作品を読んで感じる事は、人によって変わりそう。色々な人の意見を聞いてみたいと思った。

久しぶりにキレの良い短編を読んだ気がします。


ジャンプ SQ. (スクエア) 2008年 05月号 [雑誌]

集英社
おすすめ度の平均: 3.0
3 ジャンプ SQ.<さちえちゃんグー!!