「なるたる」「ぼくらの」の鬼頭莫宏先生による、外殻都市という架空の世界を舞台にした連作短編集。都市の上に都市を重ね成長し続けてきた外殻都市、という設定は魅力的ですが、それがストーリーに直接的に関係するのは第5話くらい。クローン人間とか、丙種遺体(ゾンビ)とか、生きた書庫とか、SF的かつ荒廃した世界設定を活かした色々な短編が収められています。例によって、鬱展開もあって後味の悪さが残ったりする。
以下はエピソードごとの感想です。
■第1話 誕生日の棺
「私が殺されているんです 助けてください」
というサイコチックで興味を惹かれる導入で始まるお話。
ネタバレになりますが、結局冒頭のセリフは
真実で、
夫が妻のクローンを作っては殺し、年齢ごとにコレクションしていた、というオチ。後は12歳になるクローンと、オリジナルである妻自身を殺して水槽に浮かべればコレクション完成、というところで夫は捕まってコレクションは完成せず。
クローンの死体入り水槽がずらりと並ぶシーンが一番の見せ場になるんでしょうけど、その後の男管理官と女管理官のやりとりが強く印象に残っています。
男管理官 「俺なんとなくわかるな あの男(※夫の事)の気持ち」
女管理官 「私はあの女(※妻の事)の気持ちがわかる
でもあの少女(※12歳になる妻のクローンの事)は何を思ったのだろう」
作者の意図とは違うかもしれませんが、被害者と加害者について考えさせられた。
法的にも常識的にも、夫が加害者で、妻が被害者ということになるのでしょう。でも、妻は何一つ悪い所の無い100%の被害者と言えるだろうか?夫は100%の加害者と言えるだろうか?夫が罪を犯したにしても、それに至るまでの生活の中で妻との関わりがあって、それによって良い影響も悪い影響も受けただろうし、それは見ようによっては夫が妻から害を受けた、とも取れるかもしれない。
例えば現実に怨恨による殺人があったとして、当然殺した方が加害者になるんでしょうけど、被害者は怨恨を持たれるに至る行為をしていたのかもしれないし、それは加害行為と言えるかもしれない。そんな事を考えていくと、極論すれば世の中にある犯罪では100%の被害者とか加害者はいなくて、当事者同士において加害の割合が多い方が加害者で、その逆が被害者とかそういう事になるのかなあと思ったりしたわけです。
まあさすがに極論過ぎるかなとも思って、例えば万引きとかはどうかとか考えると、店側に非は無くて盗んだ奴は100%の加害者という事になりそうですけど、それにしたって、その犯人に万引きをさせるに至った社会の一員としての責任が、店が属する会社にも無い事も無いとか屁理屈を言い出せば、0.0000000000001%位は店も加害者と言えるのかも。
何が言いたいかと言うと、この話における殺される為に作られたクローンこそは、屁理屈が入り込む余地も無いほどの
100%の被害者と言えるのではないかということです。
彼女(達)は、夫がクローン殺人という犯罪行為を思い立った
後に、その犯罪行為を実現する為に作られた存在。刺殺を企てた人殺しが店で買うナイフと同義の存在。それが
感情を持っているという事が悲劇なのかなあ。
自分の存在意義を知った時のクローンの少女が、一体どんな気持ちだったかは想像もできないですけど、だからこそ切ない気分になる。
「でもあの少女は何を思ったのだろう」
最後のセリフがなんとも言えず心に残っています。
■第2話 3年間の神
餓死寸前のホームレス少女の前に男が現れて言う。
「ここで死ぬか俺のもとに来て3年間生きるか選べ」
で、少女は生きる事を選ぶ。
男は
3年で死に至る性病を患っていて、残りの人生における生活のパートナーを探していて、そこには性行為も含まれる。だから拾われた少女も性病に感染して結局3年しか生きれなくなるというお話。
読む人によってはというか、ほとんどの人は生理的な嫌悪感を抱く話なんじゃないかと思う。餓死寸前の、骨の浮き出た状態での行為とかもあるのでなおさらに。
男を神のように思っている少女について、当然と思うか、憐れと思うか、健気と思うか、どう捕らえるかで感じ方も変わってくるのかも。
僕は「死ぬはずだった命が3年も長らえたんだから良いんじゃない?性行為を強要されるにしてもしょうがないよ」っていう考えなんですけど、ちょっと現実的過ぎるかな?男は金持ってるみたいだし、無償で少女を助けなかったところが非難されるのかもしれませんが、そこまでひどい奴だとも思えないのです。
あと、安易に3年間の間に妊娠して子供という希望を残す、とかの展開に
しないところが好感が持てます。鬼頭作品の、そういう残酷で現実的なところが好きです。
■第3話 生死者の聲
簡単に言えば、
「死後ゾンビ化した夫が妻に『愛している』と言いに行く話」で、すぐには思いつきませんが、探せば似た話が色々ありそうな、王道的な話だと思います。
色々な障害を乗り越えつつ、ゾンビになった夫は妻のもとに辿り着く。ここで夫に普通に「愛してる」と言わせれば、感動的ないい話になるんだろうけど、鬼頭作品ではそんな風にはならないのか。
腐敗し続ける夫の肉体。
まさに「愛してる」と言う直前になって、夫の声帯が機能を果たさなくなる。そんな夫に妻は言います。
「大丈夫
あなたの声はいつでも私に届いていたから
だって私はあなたの妻だから」
ここで終わっていたとしても、十分に良い話だというか、こっちの方がちょと手の込んだ感動的な結末と言えそうな気もしますが、まだここでも終わらない。
妻の気持ちに打たれてか、夫は望まれながらも一度は拒んだ、腐敗した素顔を晒すという行為に出る。さらに追い討ちをかけるように、直後、夫の頭部が原型をとどめず崩れ落ちる。それを見て、「愛してる」と言おうとした妻の口が止まる。
あまりに残酷な結末な気がする。けど、その後で、男管理官が2人を代弁するかのように、「愛してる」と2回つぶやくシーンがあったりして、残酷さにもフォローが入る辺りが、作者の素晴らしいところというか、たちの悪いところというか。
■第4話 媚薬水の味
少年が、ほれ薬と噂される水を飲まされたが為に、自分の気持ちが信じられなくななる。だから、
少女は、ほれ薬と噂される水を飲ませたが為に、拒絶される。
そういう皮肉っぽいお話です。
■第5話 座敷童の印
街が少女に擬人化されてます。
都市の上に都市を重ねる外殻都市。そこだけに限定された話じゃなくて、短いか長いかの違いだけで、街には必ず終わりが来るっていう話なのかな?そういう意味で外殻都市は幼い少女に擬人化されてたのだろうか?
人を引きとめようとしながらも、その人が残ると宣言してるにも関わらず、それが終わる事を予感している、少女(=外殻都市)のせつない感じが良かったです。
■第6話 造物主の檻
マンションの中にキャラクター達を生活させて、それを観察する
だけのゲームを作ったクリエーターが、建物を作り、少女達をさらってきてそこに入れ、自分の作ったゲームを現実の物にするお話。
冒頭、43人の少女が誘拐された事実が提示されて、どんな猟奇的な事件が展開されるのかと身構えてたら、意外な展開で逆に驚きました。
少女達は、誘拐されてきた当初こそ悲しむものの、次第に状況に適応して普通に生活し始める。そうするうちに、少女同士で争いが起きるようになり、犯人は警察に助けを求めた。
食糧から何から生活の世話をしている犯人は、少女達にとって絶対的な存在で、やろうと思えば犯人は少女達の争いをいくらでも静められたはず。だけど、争いを鎮めるどころか、少女達の世界に介入する事を、犯人はしなかった。自分の作ったゲームでも、プレイヤーはゲーム内の世界に介入できないからか?
自ら望んだ楽園を手放してでも、そのよくわからない自分内ルールに従う、犯人の変質的な様子が面白かったです。
■第7話 渉猟子の愛
これまであんまり関連がなかった各短編ですが、この最終話で、エピローグに向けてちょっとオーバーラップしたりする。
4話で男管理官が恋した少女は、渉猟子と呼ばれる生きた書庫だったとか。でその渉猟子が多くの発禁本も暗記していた為に、死刑になりそうになるけど、渉猟子のキャパシティ限界まで新しい物語を上書きしていけば、古い物語は消えてくからOKっていうことになる。
女管理官 「古い記憶は本当になくなっていくのかしらね」
男管理官 「もしそれが本当に必要なものならわすれないだろう」
そんな前振りがあって、舞台がいつかはわからない未来に飛ぶ。
そこで、渉猟子と思われる人が子供達の前で、男管理官と女管理官に聞かされたであろう、この作品に入っている各話のエピソードを語って聞かせようとするところで終わり。
それぞれの話が、少なくとも渉猟子にとっては本当に必要な思い出だった、というふうに、残酷な話が多いながらも、ラストはすごくきれいな終わり方なのでした。
鬼頭 莫宏
太田出版
おすすめ度の平均:


他人には人の人生は さわれない

「愛」がテーマなのか

しんみりな鬼頭さん