かつてこれほど残酷な、少女の運命があっただろうか
↑はオビの煽り文句なんですけど、これを読んだ時、「おおげさだなあ」と思いましたが、そう思えたのもこの本を読む前まで。読み終えてみれば、少なくとも、僕が知ってる物語の中では、最も過酷な少女達の運命だ、といっても間違いではないかも。本作は、設定を共有した短編集のような構成なんですけど、その設定は以下のとおり。
・舞台は、昔の西欧のどこか。
・ブラッドハーレー公爵が、孤児院から、少女を養女として引き取るということが、よく行われていた。
・ブラッドハーレー聖公女歌劇団という歌劇団があり、そのメンバーは全員孤児という噂がある。
・歌劇団に入れるかもと期待して、少女達は、ブラッドハーレーに養女として選ばれることを、心待ちにしている。
・しかし実際は、養女の多くは、刑務所に連れてこられ、囚人達の、性欲求と破壊衝動を発散する為のはけ口にされる。
・性行為だけでなく、暴力にもさらされ、刑務所に連れてこられた少女達は、数日のうちに命を落とす。
色々なケースで、ブラッドハーレーに関わる少女達の物語を描いていく感じ。まったく救いが無い物語です。面白い漫画だとは思います。だけど楽しさとか明るい要素はほぼゼロ。作者の圧倒的な画力で、虐待の様子が描写されるので、その悲惨さは相当なもの。悪趣味で強烈なダウナー系漫画です。
悪趣味ではあるのですが、ストーリや構成はよく練られていて、やはり、沙村さんはかなり優れた漫画家さんなんだなーと思わされる。特に、第二話、第五話が個人的に好きです。
■第二話 友達 FRIEND
ステラという少女のお話。ステラは、刑務所に連れてこられた後、隣の部屋にいる、同じ孤児院出身のプリシラという少女との会話を心の支えに、長く生き延びることになります。
ステラが囚人達の暴力にさらされ、ぼろぼろになっていく様子が、淡々と描かれるのですが、他の部屋の少女達が死んでいってしまう為に、ステラが担当する囚人が日をおうごとにどんどん増えていき、ステラの受けるダメージも増加していき・・・といった感じ。
この作品中でも際立って直接的な残酷な描写が多く、ものすごく悲惨なお話なんですが、特にある仕掛けによって感じる悲壮感がすさまじい。
以下ネタバレになりますが、
まず、ステラの話相手であるプリシラは、所長専属の「女」に選ばれ、囚人達の責め苦から逃れているということですが、そんな上手い話があるのか?とちょっと疑問に感じる思います。で、所長が登場するとその性別は女。「これってまさか・・・」と思っていると、ステラの部屋が角部屋である事が分かり、ステラがプリシラに話し掛けていたのは、角部屋の外の方。
つまりはステラに話し掛けていたプリシラは、ステラの脳内にしかいなかったということなんでしょう。
ここで、実際のプリシラはどんな運命を辿ったのだろうと考えてみると、なんとも言えずせつない。囚人達への「おつとめ」でとっくに死んでる可能性が高いでしょうし、それでも相当切ないですが、逆に、プリシラは歌劇団に入って活躍していたのではないかと想像してみると、ステラの悲惨さがよりいっそう・・・。
終わった後にのこる余韻が好きなお話です。
■第五話 絆 THE BOND OF ・・・
ある孤児院で、ルビーとジェンという2人の少女がいて、そのどちらがブラッドハーレーの養女に選ばれるのか、というお話。あんまりにもあんまりな、皮肉な感じが良い。この話のタイトルをよく見てから読むことをお薦めします。
以下ネタバレですが、
ジェンが最初選ばれるのですが、何者かに殺害されてしまい、ルビーがブラッドハーレーの養女になり、その後、ジェンを殺したのはルビーだったと明かされるという展開です。ルビーは実は伯爵の隠し子で、良い血筋であるのにも関わらず、底辺で暮らしていることを憂いた母が、歌劇団への道を示して、その意志を継いだということです。
そんな非情な行為で友人を蹴落としてまで権利を勝ち取ったのに、ルビーが向かう先は・・・っていう皮肉な感じがなんとも。ルビーの「キミを養女としてむかえたい」と聞いたときの冷酷な表情と、最後のページで、迎えの馬車に乗りながらの勝ち誇った表情が印象深い。読み終わると、ルビーに対する感情が、嫌悪感であったり、憐れみであったり、色々な形にゆれる。
タイトルを良く見ると、日本語部分はただの「絆」なんですけど、英語の部分は「THE BOND OF ・・・」で、誰との絆なのかはぼかされてます。ルビーとジェンの絆と見せかけておいて、実はルビーと母親の絆の物語だったということなのでしょう。それも含めて、すごく優れた構成のお話だったなあと思う。他の話もそうですけど。
