![]() |
博物学的な昆虫趣味は,日本では20世紀に大きな発展をとげ,短期間で世界のトップレベルまでになりましたが,21世紀を迎えた現在では,地球規模の環境問題と併せて,昆虫趣味――とくに昆虫採集のあり方も色々と考えさせられる時代になりました。 このコーナーは,21世紀の昆虫採集のあり方について,読者の皆様から情報,話題,問題提起などをお寄せいただきたいと考えて設置いたしました。とくに採集の規制などに関係する情報がありましたら,編集部までお早めにお知らせ下さい。可能なかぎりの対応をしたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○連絡先(むし社) Tel. 03-3383-1463(9〜17時)むし社編集部 Fax. 03-3383-1417(受信は24時間) E-mail: g.mushi.genkou@gmail.com 〒164-8691 東京都中野区中野郵便局私書箱10号 (有)むし社 編集部 ※日本昆虫協会も,これまでどおりに採集の規制などについての対応は行っております。昆虫協会の方は,右記へご連絡下さい。http://nikkonkyo.org/index.html ※日本チョウ類保全協会 http://japan-inter.net/butterfly-conservation/ |
| 第1回 月刊むし編集部 最近の編集後記などで時々触れていますが,21世紀に入ってからは,今までに例のないほどの規制の波が押し寄せています。昨年の鹿児島県十島村の村条例による,トカラ列島の昆虫採集全面禁止は衝撃的なことでしたが,その後も色々な規制案が水面下あるいは表立って進行しており,もし,これらすべてが決定すれば,数年のうちに短報記録も満足に書けなくなるかもしれません。色々な話があって,読者の皆様も混乱されていると思われますので,以下に整理してみます。 1. 環境省・自然環境局によるもの ―国立公園と国定公園の特別地域内での特定昆虫の採集禁止案 従来は,国立公園・国定公園の中では,「特別保護地域」に限って昆虫採集が規制されていましたが,これ以外の「特別地域」の中でも,保護が必要と思われる種を指定し,それらについては採集禁止にしようとするもので,すでに植物などでは実施されているようです。現在,各県のレッドデータブック作成に関係した昆虫関係者や団体(同好会なども含まれる)に,環境省から何の種を選定すべきかの問い合わせが届いていると思われます。 この件については,今年5月9日に日本昆虫協会の事務局へ環境省の担当者2名が説明に来られ,本誌・藤田も協会の関係者として参加しました。この規制の一番の問題点は,指定された昆虫だけでなく,現実的には「特別地域」の中すべてで,その他の昆虫採集にも大きな障害が予想されることです(たとえば熊本県の市房山で,ゴイシツバメシジミ以外の虫を目的にネットを振りづらい例と同様になると思われます)。ネットを持っているだけで問題になることと思われますが,「特別地域」は面積にして「特別保護地域」の約4倍(!)もあります。「特別保護地域」でさえ,わかりやすい看板が立っているわけではありません。最近の長崎県の雲仙岳の例のように,事情に詳しいはずの人間にすら,よくわかっていなかったことがありました。さらにこれが4倍の面積になったら,正確に把握できる人はいないでしょう。全国各地でトラブルが起こることは必至と思われます。 2. 東京都・環境局によるもの ―高尾山,奥多摩,伊豆諸島などの自然公園内でのネット持ち込み禁止案 今年2月の日付で,東京都環境局自然環境部から出された「自然地の適正利用・管理へ向けて」(自然公園等の適正利用・管理検討会)の中間まとめ案で,(3)モデル地区における具体的取組の内容の協定項目の例の中に「昆虫採集の制限について―昆虫の保護のために,捕虫網の持込禁止などを実施する」とあります。3月頃までパブリックコメントを募集していたようで,昆虫関係者からはだいぶ反対の意見が出されたようです。 この案がもし実施されるようになれば,高尾山,奥多摩,伊豆諸島などでネットが振れなくなりそうです。さらに,東京都での先例ができると,他の県へも順次波及していく可能性が考えられ,将来的には大変なことになりそうです。 3. 各都道府県のレッドデータブックによるもの ―県別のレッドデータブックをもとに規制種を選定 国のレッドデータブックができて以降,全国の都道府県で県別のレッドデータブックが作られるようになり,今やレッドデータブックのない県の方が少なくなっています。製作に当たっては地元の虫屋による多大な協力があったことと思われますが,その結果できた本の資料をもとにして,採集禁止などの種の選定が今後行われていくようです。以前の編集後記でも書きましたが,まさに自分で縄を作って自分で捕えられる“自縄自縛”状態です。採集の規制が本当に必要なものは選定もやむをえないと思いますが,役人の都合や実績作りのために利用されることだけは願い下げたいものです。 4. 特定外来生物被害防止法によるもの ―外国産クワガタムシなどの輸入規制 これは,標本を作る虫屋でなく,生き虫屋の方に関係する法規制ですが,ブラックバスの指定に続く選定で,外国産のヒラタクワガタなどの一部が候補にあがっています。「虫屋には関係ない……」と言う人も多いと思いますが,昨年の本誌400号の「日本の昆虫雑誌の100年史」でも書きましたように,昔ながらの虫屋は集団としてはあと20年くらいで消滅してしまいます。クワガタなどの生き虫から入っていく人達も,虫好きな人達にかわりなく,将来は「ムシキング」のカードゲームから虫屋になった,という人達が主流になる時代が来るかもしれません。後継者の門戸が閉じられるようで,やはり将来の昆虫界にとってマイナス要素を感じます。 この問題では,本誌・藤田も何度か環境省へコメントをしに行っていますが,1)放流して釣ることが目的のブラックバスと室内で飼うことが目的のクワガタでは状況がまったく異なる,2)野外での定着例がほとんどない,3)もし指定されれば,現在飼育されている膨大な数の生体が野外へ遺棄されることになり,かえって国内の汚染を高めることになってしまう,などの点からクワガタムシの指定には反対しています。 まさに,十重二十重に包囲されているような状況で,こんな窮地は今までになかったことと思います。悔しいのは,昆虫採集がまるで虫の保護に反するような汚名を着せられたまま規制されていくことです。虫屋自体の高齢化と後継者不足によって,このまま21世紀の前半で虫屋という人種は絶滅してしまうのでしょうか。 今こそ,読者の皆様と共に考え,行動をしなければと思います。 (藤田) |