『なぜ合唱するのか?』
 この質問を投げかけられて,「歌が好きだから」という以外の答えをお持ちでしょうか。

「歌が好きだから合唱団に入っています」とだけ答えてくれる人は,少なくともHigumaの経験では4割近い確率で練習を平気で無断欠席します。入団間もない人ならまだしも,合唱をライフワークと考えるのなら,この答えはあまりにも動機として希薄ではないだろうか?

 Higumaは,なにもこの質問に対する答えを,とても難しく言う必要があると考えているわけではない。根本的な理由というものは単純なものだし,そこから生み出される多くの知的好奇心は,間違いなく素晴らしいものだと思う。だから「歌が好き」は素晴らしい理由だし,合唱の原点です。そのことは欠くことのできない理由です。 けれども上記の「4割近く」も間違いのない統計結果です。

 プロ合唱団の団員でなければ,合唱団に在籍している人のほとんどは本業(仕事)の合間や本業(仕事)を終えてから合唱団の活動に参加するのがふつうでしょう。仮に一般合唱団を例に取れば,団員のほとんど全員は辛い仕事を終えた疲れた体で練習にやってきます。そうまでして合唱団での活動を続ける理由が「歌が好き」だけなのでしょうか。ちょっぴり理由を探してみると,「こんなことが得られるから」という理由も見つかりそうです。それに,歌が好きでもないのに,わざわざ合唱団に入る必要もないわけだし。

○「歌うと気持ちがいい」「ハモッたときの気持ちよさがいい」「一人では合唱できないから」「指導者が素晴らしいから」「いい曲(好きな曲)をたくさん歌えるから」「先輩や友人の手前もあるから」「大きな声を出すとスカッとするから」「ストレス解消」等々

 アンケート調査をすると,きっとこういう理由もたくさん出てきそうな気がします。でも,冷静にこの答えを見て,「だから疲れていても仕事の帰りにどうしても練習に出席したい」と思えますか? 全部とは言いませんが,こういう理由で合唱を続けているのなら,練習を休む理由や言い訳は簡単に見つかりそうです。

□「出席率が合唱団を左右する」

 どこの合唱団でも抱えている日常的な悩みが出席率ではないでしょうか。出席率が低いと,演奏レベルはなかなか向上しません。毎回の練習に熱心に出席している人は,「もっと細かい部分まで全員で考えたり練習したりして,もっと良い演奏をしたい。」と常に願っています。けれども,そこに演奏会直前になってドヤドヤと練習に出てきて,立派な声で我が物顔に歌い振る舞い,演奏会が終わると月に一度も顔を見せない団員がたくさんいると,失望しか残らないわけです。「それでいい!」という合唱団はいいのです。でも,そのことを解決して前進したいと考えている合唱団では,様々な原因を探りつつ苦悩しているはずです。

☆「一人一人の歌う理由を合唱団の理念にする」

 練習に出席するかしないかは,あくまでも個人の問題です。雑多な人間が集まる合唱団という場では,簡単に相手の生活に関わるようなことに口出しはできません。ということは,個人の意識改革なくしては出席率の向上は不可能だ,ということです。そこで「なぜ合唱するのか?」という問いに対する一人一人の答えが重要になってくるのです。

 Higumaが指揮をしている合唱団のKさんが,こんなことを話してくれたことがあります。彼女はその合唱団に入団するまで,合唱したことが一度もありませんでした。その彼女がたまたま演奏会に足を運んでくれました。そして「こんな合唱を聴いたことがない」「合唱ってこんなに素晴らしいものなんだ…」と思ったのだそうです。「初心者で何も分からないけれど大丈夫でしょうか?」とHigumaに連絡を下さり,団員として活動を始められました。そんな彼女のお話…

 「私はこの合唱団の歌や,この合唱団にしか表現できないものに感動して,どうしても一緒に歌いたくなって入団しました。入団してみると,練習はとても楽しいけれど,同じくらいに厳しさも求められることを知りました。私は初心者だからできないことばかりだけど,この合唱団のメンバーとして同じ歌の中に居られることがとても嬉しいんです。だから,自分が周りの人たちに迷惑をかけられないし,この合唱団の音楽を私が壊すことになっては,入団した意味がないんです。私はへたくそだから,絶対に練習を休みません。いつも時間までに練習会場に行けるように,必死で仕事を終わらせるんです。だって,自分が思ったとおりに歌えたときの喜びって,本当に大きいんです。」

 「歌が好き」以上の理由がありますよね。だから彼女は練習を休む事なんてありません。

 やりたいことは人それぞれです。絵を描く人。小説を書く人。楽器を弾く人。歌をうたう人。でも,それは手段なのではないでしょうか。何だって一生懸命にやれば素晴らしい。でも,そのひとつを選んだのなら,そこで自分が「表現する」ことで「成長しよう」という目的を持つことによって,選んで活動を続けていくことが輝いてくるのです。

 Higumaは,合唱って「自己実現の場」だと思っています。つまり「こんな自分になりたい」「こんな風に生きていきたい」という自分自身を実現していく場です。詩と出会い,曲と出会うことで気づかされ,成長することがある。その歌を自分の声によって表現していく過程で,新しい気づきがある。「ああ,そうだよな。」と気づかされ,「こんな生き方じゃだめだよな」と心に刻む。そうしている自分の周りに,たくさんの団員がいる。一人一人が本気で「こんな風に生きなきゃ!」と思って発した歌声が,お互いの心に何かを伝えていく。そんな瞬間に私たちは「この人たちと一緒に歌えてうれしい」と感じられるのです。ひとつの曲を歌うことで,自分の生き方や人生観が変わっていくような,そんな合唱ができたらどんなに素晴らしいでしょう。そういう合唱団の練習を,簡単に休みたいと思いますか?

 でも,それだけじゃまだ足りません。自分たちが気づいたことを客席にいる聴衆に伝えられたなら,もっと得るものは大きくなるはずです。つまり,「聴衆の生き方をも変えてしまうような合唱」です。ステージに立って歌うことで,自分たちだけが「よかったぁ」と思って終わるなら,聴衆は置き去りですよね。入場料までいただいて時間を割いてご来場いただいて,「私たち,気持ちよかった」では営業としては詐欺ですよ。コンサートのステージに立つ者には,果たすべき責任があってしかるべきです。「私たちは,こんな思いを伝えたいんだ!」という熱い思いをもって訴え,それを客席に「確かに」届けることを,ステージに立つ者として当然行うべきなのです。もちろん,伝えたいことが「平和を!」とか「戦争反対!」ばかりではないはずです。「こんなに楽しい」「こんなにうれしい」ということだってそうです。

 自分がステージの上で本気になって思っていることが,「音」あるいは「声」というものを通して客席に伝わる。そんな合唱が素敵ではないでしょうか。そして,そこに至るには「自己実現」への努力が欠かせないのです。あなただって,努力もしていない人間のメッセージを受け取ろうとは思わないでしょう。Higumaは,そういう合唱団づくりをしていく中で練習に出席できないのに演奏会直前にやってくる団員さんたちには,「出演はご遠慮下さい」と申し上げるべきだと思います。「それでも自分は歌いたい」という人は,練習に来るようになります。人数だけをあてにするような合唱からは,決して客席を揺るがすような感動は生まれません。

 そういうことを「実現していこう」という人間が集まるような合唱団を作っていくことで,そうではない団員のみなさんは淘汰されていきます。大人数の合唱団にはなり得ないかも知れない。けれども,良い合唱はできるのではないでしょうか。「自分を高めよう」と努力し続ける人たちが集まる合唱団。それこそ魅力的な合唱団ではないでしょうか。

 「なぜ,合唱するのですか?」 そのことを,心ある団員の皆さんで語り合うことから,魅力的な合唱団づくりの第一歩が始まります。