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(四)
公園の入り口で待つこと十数分。僕は目を疑った。黒塗りのリムジンがやって来たのだ。
運転手は、車を降りて深々と礼をする。
「お待たせしました。お嬢様」
執事のような格好をした運転手は、顔を上げ僕を見る。一瞬、驚愕の表情を見せたが、すぐその表情を消して僕にも礼をした。そして頭を下げたまま、後部座席のドアを開く。
スライド式のドアだった。僕は呆然としてしまった。そんな僕に「早く、乗って」と彩宮さんが急かす。革張りのシートなんて初めてだった。中はひんやりとクーラーが効いていた。
「私は料亭・彩宮の狭間と申します。今日の送迎をさせていただきますので、宜しくお願いいたします」
狭間さんは、そう行って運転席に座る。
「――神崎と言います。彩宮さんの同級生です」
「恋人でしょ?!」
彩宮さんはそう言って、僕の頭を軽く殴った。狭間さんはくすりと笑った。
「良いお名前ですね。神崎様。やはりお嬢様とお付き合いする方は人間としての格が違いますね」
(――はい?)
僕は訳が分からず鉄面皮になる。
「ニュースを拝見しておりました。『奇跡の青年』と報じている所もありました」
(――困ったな)
僕は耳の後ろをかりかりと掻く。だが、今はそれより重要な事がある。
「それで何人亡くなったのです?」
狭間さんはちょっと眉を曇らせた。
「二十七人亡くなられたと報道されていました……」
僕は両手を握りしめて俯き、唇を噛んだ。
目の前で死んで行くのに僕はむざむざ二十七人もの人を見殺しにしてしまった。そんな僕を横目に彩宮さんが訊ねる。
「何人、無事保護されたのかしら?」
「三十二名だそうですよ」
狭間さんは深々と礼をしたまま答えた。彩宮さんは僕の背中を思いっきり叩いた。
「ほら、あなたは三十二名も救ったの! 誇りを持ちなさい。マイナス思考はダメよ!」
「本当に今時珍しい方ですね。ああ、お嬢様もばっちり写っていましたよ。神崎様に抱かれて。帰ったらお父様に何か言われますよ」
狭間さんは唇の端をつり上げた。
「平気です!」
彩宮さんはキッパリと言い切った。
竹林の中の一本道をリムジンは走る。そのまま料亭の前で停まり、また深々と頭を下げた。入り口にはずらりと割烹着の女性と留め袖の妙齢の美女が出迎えに並んでいた。
女将とおぼしき女性は彩宮さんにほんわかとした笑顔を向けた。
「お嬢様。TVを拝見いたしましたわ。本当に素敵な男性をみつけましたね」
そして僕の手を取って、「お嬢様を宜しくお願いします」などと言う。
「――っ。なにも引け目はないわ! 麻上さん、離れは押さえてくれた? そう、それなら櫃まぶし、どんとお櫃ごと持ってきて! 鯛茶漬けも。お腹が膨れそうなの適当に一度に持って来て頂戴!」
「はいはい。お邪魔はしませんよ。どうぞ睦み合ってくださいな」
やはりほんわかと答える女将に、彩宮さんは顔を朱に染めた。
「麻上さん、からかわないで! 行こ! 神崎君」
彩宮さんは僕の手を取ってずんずんと廊下を闊歩した。
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