アルゴ!「ラグナダの聖戦」の章
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第三章 煉獄より
(1)
僕とエウリアは払暁前の白い靄がたなびく街道をひた走りに走っていた。イワン・グレーテル氏より緊急のメールがノートブックに届いたのだ。
曰く
『払暁をもってタナトスの門が開きタナトス国王を筆頭にタナトスの要人が、弔問に訪れる。現場を離れている方は至急、正装で集合されたし。ただし、武装を解く必要はない』
と言う概要であった。
特に僕に当てた私信にはシルフィアもドロスも不在で、自閉モードになっているので、メールも開封していない。あてになる戦力はセラフィー一人であることが記されていた。行間からはイワン氏の焦燥が感じられた。タナトスの門が開いて、葬送の一団が現れる保証はない。タナトスの軍が一斉に飛び出す危険性もある。その状況下でシルフィアともドロスとも連絡が取れないとなれば、いかなイワン氏と言えども焦燥を覚えるだろう。
僕は縮地を使ってひた走る。エウリアは騎乗だ。精一杯の速度でも僕と併走するのがやっとのようだ。エウリアは髪を染めていた染料を落としている。ブラウンの髪がシャンプーの香をぶちまけて風にたなびいている。鎧はピンクに染めた使いこなされた皮鎧だ。彼女はシルフィアの真似を止めたのだ。正解だと思う。エウリアの技量は誰かの真似をしていては伸びない。彼女は自信の有り様を突き詰めるべきなのだ。
エウリアの腰にはサファイアで装飾を施した、シュトラウス家の家宝でもあるレイピアを差している。赤いビロードのマントを翻し疾走する彼女の姿には、これまでに無い美しさが感じられた。
僕は深緑を思わす手入れの行き届いた皮鎧に茶色の道着。銀色に輝く束のサーベルを腰に差している。皮鎧にも胴衣にもエルフが使う呪文文字が刺繍されている。マントは表がグリーンで裏が黒い上物である。
これらの装備は、エウリアの剣の師で予言者でもあった流浪の僧侶が、シュトラウス家の倉庫で埃を被っていたのを、無造作に取り出し、「これこそがシュトラウス家の家宝である」とエウリアに手渡したと言う。流浪の僧侶はエウリアに「これは、そなたが操を捧げた男に与えるが良い。その者は新たなアルゴの英雄となるであろう」そう告げて、煙のように去ったと言う。エウリアは喜色と共に、それらの装備を僕に着せた。水を差すようだから、僕は口をつぐんでいたが、僕は英雄になるつもりはとうに捨てていた。それに、これらの装備は明らかに女性用だ。小柄な僕にはあつらえたようであったが、微かにシクラメンの香がする。
問題は剣だった。抜くとその刀身はカミソリのように細い。材質はミスリル銀。魔力の増幅に欠かせぬものだが、柔らかい。これでは剣劇で相手の剣を受け止めることも出来ない。僕の顔に浮かんだ不安を見て取ったように、エウリアは言った。
「氷刃の剣です。聞いたことはありませんか?」
僕は驚愕に目を剥いた。神話にある伝説の剣で女神となった精霊王・マリア・ルルス・ダンディビーの愛刀である。決して折れることはなく、その輝きをもって魔族を打ち払い、鉄鎧ですら豆腐のように斬ると言う代物だ。教皇庁の宝物庫で厳重に管理されているはずの業物である。エウリアに言わせれば教皇庁の宝物庫にあるものは大半は偽物だと言う。
誠か嘘か? 僕はエウリアを信じることにした。エウリアに聞かされた流浪の僧侶の名が本物なら、アルゴにとっては驚天動地のことだったからだ。虚心坦懐となった今の僕はそれを容易く受け入れることが出来たのだ。およそ何事でも起こり得る。アルゴはバーチャルリァリティーの世界では決してない。僕はそう確信していた。
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