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櫻の宴 第1章 古刹の猫
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(一)
境内の奥。鬱蒼とした森に囲まれた空き地で、僕こと神崎浩平は呆然と立ち尽くしていた。山辺の道の古刹である。何故か境内には人っ子一人もいない。観光シーズンなのに。
大学受験も終わり、人心地のついた春休みだった。恋人と言うか、半ばフィアンセとなった彩宮鈴香嬢は、茶道の師範として忙しく、同行していない。おかげで、趣味の一人旅を楽しんでいたのだ。それでも、鈴ちゃんに「明日は山辺の道を歩いて来るよ」と事前報告する辺りは我ながら小心である。
鈴ちゃんは整った人形のような顔でジッと僕の目を見据えた。『絶対零度の魔女』の異名を取る凍り付くような視線。
見透かすような視線に晒されること数分。鈴ちゃんはふっと微笑みを浮かべた。
「よろしく言っておいて」
「――はい?」
「私もあの辺りには不義理してるからね」
鈴ちゃんが言った謎の言葉が脳裏に蘇る。
「にやぁ」
又、可愛い猫の声がした。
どうしたものかと、僕は天を仰いだ。まばゆい新緑の輝きが柔らかな風に揺れていた。僕はぽりぽりと耳の後ろを掻いた。
「にやぁ」
これで三度目。猫は明らかに僕を呼んでいる。
僕は吐息をついて、その猫を見た。境内のさらに奥、5メートルほど先に純白の気品ある猫が座って、じっと僕を見つめていた。毛並みも綺麗で、その純白の身体には汚れが一つもない。誰か手入れをしているのだろうか? 僕もしゃがんで猫を見つめる。エメラルドのような瞳は気位の高さを示している。どこか鈴ちゃんに似ている。
猫の後ろには注連縄が張られていて空き地が区切られている。白い紙のシダがそよ風に揺れている。立ち入り禁止の看板こそないが、注連縄の向こう側が禁足地なのは明らかだった。
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