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櫻の宴 第3章 契り

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(3)
 僕たちは大方丈へ向かうべく庫裏へ足を向ける。春の陽差しの中、庫裏はそびえるように大きい。これ程の大きさの庫裏はそうあるものではない。その姿は異形とも言える。鋭角の屋根の上には、大きな梲(うだつ)がある。梲は平屋家屋しかなかった時代に、煙突代わりに梲を建てた。もっとも、誰でも梲を建てられた訳ではない。許可を得た豪農・豪商のみが建てることが出来たものだ。「うだつが上がる」とは、このことから生じた言葉でもある。白い漆喰が陽光を浴びて目を射る。門を潜り、中へ入るとひんやりとした空気が僕たちを包む。
 伊達が怯んだように後ずさった。僕と鈴ちゃんも立ち尽くした。
 睨んでいた。巨大な達磨が眼を爛々と輝かして僕たちを睨み据えていた。
 それが屏風絵だと気づいたのは、一瞬、後だった。思わず吐息が漏れた。
「・・・・・・凄いな」
 そう評するしかなかった。目を見開いていた鈴ちゃんも無言で頷くだけだった。僕たちはそれを合図に、靴を脱ぎ、下足箱にしまうと、スリッパに履き替え大方丈へ向かおうとしたのだが、ここで又、奇行に走る奴がいた。言うまでもない。伊達である。伊達は土足のまま土間にうんこ座りをして、達磨さんと睨めっこを始めたのだ。今度こそ踵落としだなと思っていると、受付の若い僧侶と目が合った。苦笑いを浮かべている。
「すいません」
 そう頭を下げると、「お気になさらずに、先に方丈の方へどうぞ。ああ言う方は希におられますが、なに、5分も保った方はいらはりません」そう答えた。
 僕は乾いた笑顔で後ろから伊達の背中を見ている姉御に、目線で先に行くぞと知らせると、姉御は頷き「ゴメン」とばかりに合掌して頭を下げる。その後、鈴ちゃんとも何やら意味ありげなアイコンタクトをしていたが、気にしないことにする。
 気の毒なのは、はいからさんで、姉御に手を握られているので逃げられず、羞恥に頬を染めて項垂れている。はいからさんは付き合う必要がないだろう。そう思い、声をかけようとすると、そのタイミングを見取ったように、鈴ちゃんが僕の手を握り、短く「行くわよ」と言った。こうなると僕は首輪をつけられた犬に等しい。鈴ちゃんの掌は柔らかく温かだった。男とはまるで違う、柔らかで小さな手は、今まで何度も握っているのに、優しく細心の注意を払って握り返さないと、幻のように霧散するような儚さがあった。僕は極力優しくその手を握り替えした。はいからさんのことは頭から霧散していた。


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