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2004年6月26日(土)
妖奇城の秘密

妖奇城の秘密
ネオ少年探偵
エンタティーン倶楽部

著者: 芦辺拓 /藤田香

出版社:学習研究社
ISBN:4052020847
サイズ:全集・双書 / 207p
発行年月: 2004年 06月
本体価格:800円 (税込:840円)
解説:なし(作者によるあとがきあり)
装丁:イラスト 藤田香 装丁:辻中浩一(oeuf)・高橋未明(oeuf)
採点:4.5点

[書き出し]
 はるかに遠い外国の、何百年も前の伝説です。
 一人の若い騎士が、奥深い森を抜けて山道を登って行きました。

[帯]
 鉄拳もおすすめ!うわさの探偵小説!

[感想]
 校外学習で紅岳の青少年センターを訪れた圭・祐也・水穂の三人は、山中で道に迷い、古城にたどり着いた。だが、そこで彼らが見たのは囚われた少女と謎の怪人。三人は果敢にも救出を試みるが、怪人は絶壁から少女と共に姿を消した。しかも、翌日には城までもが廃墟であったことが判明するのだった。図書館で読んだおとぎ話『妖奇城の秘密』。その通りに進行する事件に、少年探偵団が挑む。

 古城、怪人、暗号。子どもの頃に誰もが胸をときめかせた謎いっぱいの探偵小説が帰ってきた。主人公はもちろん少年探偵団。今どきの子供らしさもも漂わせながら、素直な心と勇気、知恵をしっかりと持った子どもたちである。好感の持てる彼らに加え、ミステリファンにとって嬉しいのがフェアな伏線と本格ミステリには欠かせないトリック。絶壁からの人間消失、一夜にして廃墟となる建物、それらの魅力的な謎が論理的に説明されるだけでなく、個々トリックが物語の中で有機的に結び付き、ミステリの楽しさを満喫できる仕上がりとなっている。

 本格ミステリとしての質を持ちながら、その楽しさを子どもにも分かりやすく紹介する作品は決して多くはない。次々と起きる不思議な出来事への興味、謎を解き明かしていく推理の楽しさ、そして真相の驚きと感動。未来のミステリファンを育てるための第一歩に最適な作品である。

2004年6月20日(日)
蜘蛛の微笑

蜘蛛の微笑
ハヤカワ・ミステリ文庫

著者: ティエリー・ジョンケ平岡敦

出版社:早川書房
ISBN:4151747516
サイズ:文庫 / 174p
発行年月: 2004年 06月
本体価格:560円 (税込:588円) 
解説:平岡敦
装丁:the GARDEN 石川絢士
採点:3.5点

[書き出し]
 リシャール・ラファルグはゆっくりとした足取りで砂利道を散歩していた。屋敷の塀づたいに広がる木立を抜け、道は小さな池まで続いている。

[帯]
 男は愛人を監禁し、強盗は自慰をし、追跡者は獲物に刃を振りおろし、
 愛人はピアノを弾いて性器をさらけだし、謎と謎と謎とが絡み合う。

[感想]
「エヴ、聞こえるかい?今日は三人だ!」
 外科医リシャールは愛人エヴを監禁し、虐待する。行きずりの男たちと関係を持たせ、自分はマジックミラー越しにその行為を観察するのだ。一方、銀行を襲撃して指名手配されたアレックスは、古びた農家に潜伏していた。追われる日々にうんざりした男は、逃亡生活に終止符を打つ名案を思いつく。二つの物語の合間に「蜘蛛」なる人物に捕らえられた男の物語が挿入され、幻想的な雰囲気を醸し出す。運命の糸は絡まりながら衝撃の結末へと向かっていく。

 リシャールとエヴの異常な関係、逃亡犯アレックスの生活という二つのパートはそれぞれ単独で読めばシンプルなスリラーなのだが、これら異質な物語が「蜘蛛」の挿話によって攪乱され、読者の不安を極限まで高めていく。しかもそれらをすべて説明してしまう結末は、この謎に包まれたストーリーをなるほどと納得させる一方で、表現のしようのない読後感を残す。ハッピーエンドなのか、それともカタストロフィーなのか。やるせない気持ちの中になぜか救われたような思いもあり、強い印象が後を引く。この読後感を味わうためだけでも一読の価値はある。

2004年6月11日(金)
みんな誰かを殺したい

みんな誰かを殺したい

著者: 射逆裕二

出版社:角川書店
ISBN:404873539X
サイズ:単行本 / 283p
発行年月: 2004年 05月
本体価格:1,500円 (税込:1,575円) 
解説:なし(選考委員による評あり)
装丁:寄藤文平
採点:3.0点

[書き出し]
 あれは、なんという鳥だろう?
 頭の後ろで両手を組みながら、相馬文彦はボンヤリと考えた。

[帯]
 第24回横溝正史ミステリ大賞優秀賞
 +テレビ東京賞、W受賞作!! ドラマ化決定!!
 大枠に仕掛けられた企みにまんまと引っかかってしまった。綾辻行人
 これだけ錯綜したプロットを構築できる才能は並ではない。内田康夫
 乱歩が愛した、ある基本的トリックを、新しい方法で
 使っている。本格好きはこれだけでも膝を打ってしまう。北村薫

[感想]
 奥多摩の峠で一休みしていた相馬文彦は、白い乗用車に乗った若い男が同乗の男を殺害する現場を目撃する。犯人は車で逃走したが、その直後に女性の運転する車とすれ違う。二人の目撃者の情報で、事件は簡単に解決すると思われたが、警察は容疑者を絞り込むことができなかった。

 二転三転する展開は軽快。勢いに乗っているところに挟み込まれる逆転劇が興味をそそり、スムーズに読み通すことのできる作品である。複雑なプロットも逆にシンプルに感じられるほどで、物語として十分楽しめる作品である。

 しかし、「みんな誰かを殺したい」ほどなのかという点には疑問が残る。人と人との関わりは偶然の積み重ねではあるが、作品の中でクローズアップされてしまうとどうしても不自然さが出てしまう。それを感じさせないためには、登場人物の人間性や背景をより深く書き込むことで、偶然を驚きや感動へと繋げるか、あるいはブラックな部分を前面に出して軽いスリラーにしてしまうか。プロットがおもしろいだけに、タイトルを素直に受け止められる工夫がほしい。

2004年6月6日(日)
風の歌、星の口笛

風の歌、星の口笛

著者: 村崎友

出版社:角川書店
ISBN:4048735403
サイズ:単行本 / 350p
発行年月: 2004年 05月
本体価格:1,500円 (税込:1,575円)
解説:なし(選考委員による評あり)
装丁:装画/影山徹 装丁/角川書店装丁室 
採点:3.5点


[書き出し]
 にょきにょきと壁から生えているダクトは、数日前からガーともゴーとも言わなくなっている。騒音に慣れた身には、この静けさが逆に落ち着かない。

[帯]
 第24回横溝正史ミステリ大賞受賞作
 選考会騒然!!異彩を放つ超新星誕生!
 ――絶対にまた会える。僕らはそういう運命なんだ――

[感想]
 「マム」によってすべてが管理された世界。そこで探偵事務所を開くトッドは隣家の少女のロボット・ペットの故障から、「マム」に何らかの異常が起きていると気づく。

 ストーリーは三つのパートが並行して進行する。
「マム」の異常に気づいた探偵が街の中心部に侵入するパート、地球から25光年離れた星「プシュケ」に降り立った宇宙飛行士が荒れ果てた大地を探索するパート、そして交通事故後による記憶障害に悩まされながら恋人の行方を捜す青年のパートである。

 一見関連のない三つの物語がどのように結びついていくのか、それが最も魅力的な謎となっているのだが、各パートの読みどころを挙げると次のようになる。

 まず、探偵のパートでは「マム」の謎が提示される。主人公の目的は別のところにあるのだが、侵入によってこの世界の秘密が分るのではないかと期待を感じさせる部分である。
 また、宇宙飛行士のパートでは天井に張り付いたままの死体が登場する。入り口もない部屋の中で被害者はどのように死を迎えたのか、その他次々と発見される奇妙な状況が調査によって解明されていく。荒唐無稽ではあるが、この物語の中ではさほど違和感はない。SF的な設定と全体を貫く叙情性という微妙なバランスの中で重要な位置を占めるトリックである。
 青年のパートはもっとも感情移入しやすい部分。交通事故による入院の後、青年は自分だけが恋人の記憶を持っていることに気づく。誰もがそんな女性はいなかったと答える中、思い出を頼りに恋人の行方を探すところは『幻の女』にも似て緊張感がある。だが、終盤失速してしまうように感じるのは、種明かしであっさりと魔法が解けてしまうため。緊張と感動との入れ替えは全体のトーンに関わるだけに、より細やかな描写がほしいところである。

 読み終えてみるとミステリというよりはファンタジーに近い印象だが、無機質な世界の中に優しい響きが感じられ、好感の持てる作品である。

2004年6月5日(日)
剣と薔薇の夏

剣と薔薇の夏
創元クライム・クラブ

著者: 戸松淳矩

出版社:東京創元社
ISBN:4488012973
サイズ:単行本 / 471p
発行年月: 2004年 05月
本体価格:2,800円 (税込:2,940円) 
解説:戸川安宣
採点:4.0点


[書き出し]
 この町は水の中にある。十九世紀半ばのニューヨークを初めて訪れた者なら、だれでもそう思ったに違いない。

[帯]
 【東京創元社創立50周年記念出版】
 ディクスン・カーをも凌ぐ歴史ミステリの傑作
 万延元年の遣米使節団歓迎に沸き立つニューヨークで、
 次々と起こる奇怪な事件。
 新世紀期待の気鋭が、いま立ち上がる!

[感想]
 1860年(万延元年)のニューヨークは、遣米使節団の歓迎に沸いていた。州を挙げての一大イベントの準備が進む中、河畔の倉庫で不可解な死体が発見される。被害者は建物から墜落したにもかかわらず、死体は再び建物の上階に置かれていたのだ。側には準備委員会のバッチが落ちており、日本との関わりが懸念された。新聞記者ダロウと挿絵画家のフレーリは使節団の取材をする一方で、事件の謎に迫っていく。

 当時の政治状況、食事や服装といった生活、日本に対する市民感情にまで入念な調査と取材を行った重厚な歴史小説である。新聞記者を主人公に据え、警察の機構にとらわれずに自由に捜査を進めさせることで、当時のニューヨークの世相を鮮明に再現している。さらにこのダロウのパートに加えて、奴隷解放組織「地下鉄道」の手で農場を脱出する一人の少女の物語が挿入され、北部と南部との対立や大統領就任前のリンカーンの評判など、時代の大きな流れに動かされていく人々の様子を感じ取ることができる。

 謎の中心となるのは聖書の見立て殺人。「落ちたのに上げられた」死体は何を意味するのか、犯人の行動の意図と動機は謎に包まれたまま、事件は続いていく。中には密室も取り入れられており、ミステリとしても読み応えは十分。ただし、重要な伏線は歴史小説の側面から書かれた膨大な記述の中に埋め込まれ、発見は非常に困難である。

 児童向けのミステリから出発し、その後長い年月沈黙を続けた作者だが、待ち続けた読者にとっては予想を遙かに超えた壮大な作品である。腰を据えて取り組みたい。