プレMYSCON2 レポート
日時 2000年12月2日(土)
場所 渋谷 フォーラム8
[全体企画]
2000年現在公立小学校は第1,3土曜日は登校日。4時間目を終えてから出たため到着はクイズの例題が出された後となりました。だいぶ遅れたのですが、入室すると即座にスタッフの方が飛んで来て、受付と案内をしてくださったことが嬉しかったです。
同じテーブルには岩堀さん、えんどさん、課長さん、迫水由季さん、タケさん、ひろさん、フユウさん、そしてスタッフの冴西理央さん、春都さんがいらっしゃいました。課題はA4版の上質紙に印刷された20枚程度のカラー写真から、一つのストーリーを作り上げるということでしたが、解答例を聞いていないためイメージが湧かず、しばらく考え込んでしまいました。写真の何枚かをスポーツ(腕立てや踏み台昇降、ぶら下がり健康法など苦しいものもありましたが)でつなげ、古本屋の写真を後半に持っていって、「スポーツ好きの人が次々と殺害される」という連続殺人ものにすることになりました。犯人は「本を読まない人が許せない」という古本屋の主人です。タイトルは、『くたばれ、健康法!』。漠然とした状態のものを、笑いを散りばめながら一つの筋につないだタケさん、お見事でした。他にもすべての写真を使い切った「残数0」、犬の写真を中心に、IQ300の犬と悪の組織の対決というどこかで聞いたような話に持っていった「メデューサの狗」、写真に影をつけて、空中に浮かんだように見せた「バルーンタウンの殺人」など、それぞれに楽しい内容でした。
次の準備時間中にお世話になっている友野さん、姫香さん、直江信綱さん、Masamiさんにご挨拶。みづれさんとは初めてお会いすることができました。小林文庫オーナーさんにお会いするのもMYSCON以来で緊張しました。ひろえさんからは、「本物のともさんだあ〜」と言われ、「そうです、本物です」と意味不明な答えをしてしまいました。わたしも「本物のひろえさんだあ〜」と言えばよかったです。政宗九さん、葉山さん、漂泊旦那さん、蘇部さんにもお会いすることができましたが、ここで次のコーナーが始まりました。
[賞を語る]
しょーじさんからはCWA賞の解説。受賞作リストが配布され、それを見ながらいくつかの作品について語るというコーナーでした。みづれさんが取り上げたのは問題作『ポップ・コーン』。雪樹さんはP.D.ジェイムズの『黒い塔』がお好きだそうで、よく聞く「重い」という感想を聞くけれど、どこにその理由があるのかという疑問を出されていました。わたしのお薦めの作品は、と突然聞かれたので答えたのは『チェルシー連続殺人』。海外ミステリがそれほど刊行されていなかった当時の集英社文庫でひっそりと出たもの。CWA賞にしてはそれほど話題とならなかったのですが、これはよい作品です。古文書解読から始まる冒険小説『シロへの長い道』とはまったく違った作風も読みどころの一つでしょう。
『チェルシー連続殺人事件』
ライオネル・デヴィッドソン
集英社文庫
『モルダウの黒い流れ』、『シロへの長い道』の作者デヴィッドソンの連続殺人もの。
古い詩を引用して犯行を予告する殺人鬼とロンドン警視庁の敏腕警視の対決を描いた作品。
葉山さんが担当されたのは小説推理新人賞とオール讀物新人賞の二つ。前者は双葉文庫から『小説推理新人賞受賞作アンソロジー』として現在1,2巻が発売中、後者は文春文庫から全4巻で出版されています。葉山さんのお薦めは第15回の「アルハンブラの思い出」石井竜生・井原まなみ、「幽霊列車」赤川次郎、「四万二千メートルの果てには」岡田義之の3作で、特に赤川次郎と岡田義之はいずれも人間消失の謎がメインとなる作品で、これが同時受賞というのが実に珍しいことと語られていました。
『小説推理新人賞受賞作アンソロジー』
浅黄斑ほか
双葉文庫
収録作品は次の通り。
「ハミングで二番まで」 香納諒一
「雨中の客」 浅黄斑
「砂上の記録」 村雨貞郎
「眠りの海」 本多孝好
「ボディ・ダブル」 久遠恵
歴代選考委員から応募者へのアドバイス(抜粋)と本多孝好のロングインタビューを収録。
[探偵対決]
対戦はやよいさん、フクさん、葉山さん、そしてわたしの4人。それぞれが推す名探偵は、発表順にやよいさんが胡桃沢耕史の岩崎白昼夢、わたしがコリン・デクスターのモース警部、葉山さんが大沢在昌の佐久間公、フクさんが都筑道夫の砂絵のセンセーでした。緊張していたわたしは、他の方の説明をあまりよく覚えていないので、たぶんこんな感じかな、というあたりを書いてみました。違っていたらごめんなさい。
岩崎白昼夢は別名「翔んでる警視」。第一作「私も犯人です」は、一つの殺人事件に三人の容疑者が登場し、それぞれが自分が犯人だと告白するというもの。犯人しか知りえない情報を、なぜ複数の人物が持っているのかというところが実におもしろい作品です。岩崎警視は国家公務員試験の行政職を三番で受かり、在学中に司法試験を突破したというたいへんな人物。土地を売って利益を出した父親から、毎月400万ほどの小遣いをもらっています。やよいさんは、一見軽めのミステリに見えるけれども、プロファイリングをいち早く取り入れた作品として高い評価をされていました。
わたしが取り上げたモース警部ですが、作成したメモをそのまま載せたいと思います。
数多くの優れた探偵の中から選んだ理由
1 海外作品は、国内作品に比べてあまり読まれていない。
2 最終作『悔恨の日』が翻訳されたばかりで、タイムリーである。
3 その他の作品も文庫化されており、どこの書店でも入手しやすい。
〇魅力または,その探偵にしかない「ウリ」といえば何ですか?
→卓越した推理力、そして想像力
証拠を自分の想像した筋書きにはめ込んでしまうところ
そのため幾度も誤った結論にたどり着くが、構築される推理が実に楽しい。
(例)『ウッドストック行最終バス』12章
モースは犯人像を想像で作り上げ、部下のルイスに質問を投げかけながら、当てはまると思われる人数を絞り込んでいく。
ノース・オックスフォードの人口 10,000
そのうち成人男子は4分の1 2,500
35〜50歳は2分の1 1,250
妻帯者は5人のうち4人 1,000
よく飲みに行くのは半分くらい 500
知能はトップの5パーセント 25
魅力があるのは5人のうち3人 15
車を持っているのは3人のうち2人 10
赤い車となると10人に1人 1
→事件の関係者に親しみを持ちすぎるところ。
愛情を持ったり、同情したりと、実は心を動かされやすい。
格好のよい生き方をしているわけではないが、シリーズを読み通すと、複雑な性格の裏に深い人間性があることがわかる。
〇印象に残るセリフ,仕草などは?
→『ウッドストック行最終バス』
「警部さん、とうとうあなたのクリスチャン・ネームを教えてくださいませんでしたわね。」
→最後の作品『悔恨の日』にも
これを言ってしまうとネタバレになります。
〇ワトスン役など、シリーズの脇を固める魅力的なキャラクター
→ストレンジ主任警視
モースの能力を評価しながらも、厄介者としてとらえている。
→ルイス部長刑事
モースの手となり足となって動き、パートナーとして様々な作品で活躍する。
推理の道筋を確かめるために、モースがルイスに対して問いを投げかけるところなどは絶妙のコンビネーション。
〇その探偵の魅力が十二分に発揮された作品といえば?
→迷宮に入り込んだかのように感じられるほど、縦横無尽の推理が楽しめる『森を抜ける道』
限られた証拠から想像ですべてを補うというモースの手法が見事に生かされた、『時の娘』ばりの安楽椅子歴史ミステリ『オックスフォード運河の殺人』
〇入門篇として挙げられる作品,まず読んでほしい作品といえば?
→第1作『ウッドストック行最終バス』
ヒッチハイクをしていた2人の若い女性。その内の一人が殺害され、もう一人は名乗り出ない。モースの推理の手法はまだ十分確立されていませんが、それがかえって読みやすく、取り掛かりやすい。
データ
ウッドストック行最終バス 1975
キドリントンから消えた娘 1976
ニコラス・クインの静かな世界 1977
死者たちの礼拝 1979
ジェリコ街の女 1981
謎まで三マイル 1983
別館三号室の男 1986
オックスフォード運河の殺人 1989
消えた装身具 1991
森を抜ける道 1992
モース警部、最大の事件 1993
カインの娘たち 1994
死はわが隣人 1996
悔恨の日 1999
葉山さんのおすすめ、佐久間公は、大沢在昌が生み出した失踪調査人。小説推理新人賞受賞作「感傷の街角」で登場しました。「俺」でも「私」でもなく、「僕」というちょっと青臭い物言いが魅力のソフトな探偵です。1984年の長篇『追跡者の血統』でシリーズは一時打ち切りとなっていましたが、今年文藝春秋から『心では重すぎる』が刊行され、約15年ぶりに復活しました。葉山さんは、『標的走路』をお持ちでしたが、わたしはさすがにそこまでは持っておりませんので、ケイブンシャ文庫版の3冊を紹介させていただきます。
フクさんのご紹介、砂絵のセンセーは、都筑道夫の「なめくじ長屋」シリーズに登場する名探偵。色とりどりの砂を使い、地面に絵を描くのが仕事といえば仕事。住まいは馬喰町三丁目の裏長屋で、ここは天気のよい日には住人の大道曲芸師たちが稼ぎに出ていて空っぽなのですが、仕事にならない雨の日には朝から晩まで男たちがなめくじのようにごろごろしているから「なめくじ長屋」と呼ばれるとか。そのあたりの由来もフクさんは説明されていました。登場するのは夏も冬もふんどしだけで歩くカッパ、お墓を抱いて経帷子姿のユータ、全身を黒く塗ったアラクマなど。この面々がお金にならないかとあちらこちらから事件を拾ってきて、センセーに相談するというのがパターンの一つです。
こちらが角川文庫版。収録作品は、「よろいの渡し」、「ろくろっ首」、「春暁八幡鐘」、「三番倉」、「本所七不思議」、「いのしし屋敷」、「心中不忍池」の七篇。事件の説明にA,B,Cではなく「英」、「美」、「司」を使ったり、ページを「平紙」、ヌードを「脱奴」と書き表し、言葉遊びを取り入れているのも工夫です。
こちらは光文社文庫版。タイトルは『ちみどろ砂絵』とひらがなになっています。「よろいの渡し」は日本橋川の両岸から岡引たちが監視している状況の中、渡し舟から下手人が消えうせるという不可解な事件を、センセーが見事に絵解きしていくというもの。わたしが好きなのは、なめくじ長屋の一同が大活躍する「本所七不思議」です。
時間があまりなくて、十分な話ができなかったのですが、それぞれの探偵に対する愛情は聞いてくださったみなさんに伝えられたのではないかと思っています。
この後フクさんの閉会宣言、そして二次会案内があり、みんなで移動しました。エレベーターホールで、mauさんにご挨拶できたことは嬉しかったです。
二次会
ここでもいろいろな方とお話することができました。覚えていることだけいくつか。
- みづれさんと英米のミステリ話。深く、深く読み込んでいらっしゃるのがよく分かりました。
- 直江信綱さんと『コフィン・ダンサー』はもっと評価されてよいということで意見が一致しました。
- 近田さんは創作のおもしろさを語られ、最近読まれている児童書のお話をうかがいました。
- matuoさんとはHP関係の話。タイトルも新しくなって、いいですね。書評一覧というのはおもしろいと思います。
- はくらさんは編集のお仕事をされているそうで、ミステリに関すること、そして最近の出版の状況についてお話をうかがいました。
- 石井さんとMasamiさんに声をかけていただきました。本当に嬉しいことです。
- そのまま戸田さんのところに一緒に行って、はじめましてのご挨拶。しかしそこで、「みすべす」はわたしの色が出ていないので物足りないぞとお叱りを受けてしまいました。実はわたしも自分で浅いなあと思っているのです。深く読んでいないので薄味しか出せないのですね…。葉山さんには、「読む本全部、おもしろいのですから」、政宗さんと浅井さんには、「みすべすの存在の意味はありますよ」と援護をしていただきました。ありがとうございます。
- 戸田さんは、中町信は『新人文学賞殺人事件』、『自動車教習所殺人事件』、『高校野球殺人事件』の3つだとおっしゃっていました。わたしが『散歩する死者』は?と聞くと、前の3つよりもほんの少し落ちるとか。なるほど。『「心の旅路」連続殺人事件』を聞くのを忘れました。
- 蘇部さんと懐かしい『原爆スパイ0号』の話。確かこのタイトルだと思うのですが、子どものころに読んでとてもおもしろかった記憶があります。
- 蘇部さん、はくらさんとはわたしが毎日授業中に行っている10分間読書や、子どもたちが記録に残す読書カードの話をすることができました。
- フクさんには「リベンジしましょう」、雪樹さんには「本番でも対決やってください」と言われました。しかし、人前は緊張するのでもうできません…。
- 友野さんはスタッフで忙しそうだったので、ゆっくりお話できませんでした。みすべすがあるのは友野さんのおかげです。
- ほそみさんからは「何で『キドリントンから消えた娘』を薦めないのですか」と聞かれました。『ウッドストック行最終バス』と比較すると、モースの推理のパターンは確かに『キドリントン…』の方が完成度が高いのですが、初めて読まれる方が入るのはやはり『ウッドストック行最終バス』からでしょうと申し上げました。
こうして楽しい一日は終わりました。わたしの動きが鈍くて、お話することができなかった方がたくさんいらしたのが残念です。多くの方とよい関わりをもつこと、これはわたしの課題です。
交流の機会を作ってくださったスタッフのみなさんに心から感謝します。準備が大変だったでしょうね。本当にお疲れさまでした。また参加したい気持ちになりました。ありがとうございました。