歩賞とれなかった…候補作の楽しみ

 乱歩賞読んだよ、と満足している方、これで受賞なの?と不満の方に。


 乱歩賞の作品は毎年出ます。新人作家の登竜門として、十分に定着した感があります。古い受賞作を見ると、森村誠一や西村京太郎、井沢元彦などなくてはならない作家がずらり。しかし…その陰で涙をのんだ作家、作品がいくつもあるのです。たとえば、島田荘司『占星術殺人事件』。これを粉砕したのが井沢元彦『猿丸幻視行』。たとえば中井英夫『虚無への供物』。これを撃墜したのが佐賀潜『華やかな死体』と戸川昌子『大いなる幻影』。しかし、候補になるだけでも十分立派なこと。読んでみるとそれぞれに力強さがあります。比べて読みながら、どうしてこれが受賞作に負けたのだろうと考えるのも楽しいものです。出版される段階で題名が変えられたり、内容が加筆修正されたりすることがあり、かえって候補作の方がおもしろく感じられることも…。というわけで、涙の最終候補作の紹介です。「Mystery Best ???」らしく、文庫で読めるものに限定します。

 

受賞回

受賞作品と候補作品(文庫化されたもののみ)

第3回

受賞 仁木悦子『猫は知っていた』
候補 土屋隆夫『お天狗様の歌』→『天狗の面』 角川文庫・光文社文庫

 土屋隆夫の作品は美しいです。『赤の組曲』や『針の誘い』もいいですしね。

第5回

受賞 新章文子『危険な関係』
笹沢左保『招かざる客』→『招かれざる客』 角川文庫・光文社文庫
 笹沢左保は、とうとう乱歩賞とれなかったですね。でも、この『招かれざる客』は傑作。『危険な関係』よりよいと思います。1999年に光文社文庫にもなりましたので、入手しやすくなったと思います。

第8回

受賞 佐賀潜『華やかな死体』と戸川昌子『大いなる幻影』
候補 天藤真 『陽気な容疑者たち』 角川文庫・創元推理文庫
    中井英夫『虚無への供物』 講談社文庫、創元推理文庫
 この年はレベルがとても高かったのですね。『虚無への供物』が最高。そして『陽気な容疑者たち』は、天藤真らしい温かみのあるミステリ。どちらもよいです。

第11回

受賞 藤村正太『孤独のアスファルト』
候補 斎藤栄 『愛と血の港』 集英社文庫
 『孤独…』は、渋めの作品。地味ですが、出来映え良いです。それに対して『愛と血の港』は、まさに愛の作品。思い入れが感じられます。

第15回

受賞 森村誠一『高層の死角』
候補 大谷羊太郎『虚妄の残影』 徳間文庫
    夏樹静子『天使が消えてゆく』 講談社文庫
 『虚妄の残影』いいですよ。トリッキーでていねいな作品作りをする大谷羊太郎ですから。『天使が消えてゆく』も切なくてよいです。

第16回

受賞 大谷羊太郎『殺意の演奏』
候補 山村美紗『京城の死』→『愛の海峡殺人事件』 光文社文庫
 光文社文庫の初期に出版されました。あとがきでは出版するのははずかしいとのことでしたが、どうしてどうして。なかなかのものです。

第17回

受賞作なし

候補 藤本泉『藤太夫谷の毒』→『地図にない谷』 徳間文庫

これは恐ろしい。地方の因習にがんじがらめにされた登場人物。謎の毒…。

第18回

受賞 和久峻三『仮面法廷』

候補 山村美紗『死の立体交差』→『黒の環状線』 文春文庫

これもよいですね。どうして山村美紗は受賞できなかったのかといつも不思議になります。

第19回

受賞 小峰元『アルキメデスは手を汚さない』

候補 山村美紗『ゆらぐ海溝』→『マラッカの海に消えた』 講談社文庫

   高柳芳夫『「禿鷹城」の惨劇』 新潮文庫

今の時代なら、『禿鷹城…』が勝つかも。『マラッカ…』は名作。必読です。

第22回

受賞 伴野朗『五十万年の死角』

候補 高柳芳夫『ライン河の舞姫』→『「ラインの薔薇城」殺人事件』新潮文庫

『ライン…』は、前年度候補の『禿鷹城…』と対を成す作品。本格ものです。

第25回

受賞 高柳芳夫『プラハからの道化たち』

候補 中町信『自動車教習所殺人事件』   徳間文庫

中町信は、トリッキーな作品を作る作家。『散歩する死者』などよい作品を書いています。高柳芳夫は、3年目にして候補から受賞になったわけですね。

第26回

受賞 井沢元彦『猿丸幻視行』

候補 島田荘司『占星術のマジック』→『占星術殺人事件』光文社、講談社文庫

   長井彬『M8以前』→『連続殺人マグニチュード8』 講談社ノベルズ
     →『M8の殺意』 講談社文庫

この年は、関口甫四郎『北溟の鷹』も文庫ではないけれども出版されたので、候補作をすべて読むことができます。それだけレベルが高かったのですね。『占星術殺人事件』は説明するまでもないほどの名作。『M8の殺意』は社会派のミステリ。『北溟の鷹』は歴史ミステリです。

第27回

受賞 長井彬『原子炉の蟹』

候補 岡嶋二人『あした天気にしておくれ』 講談社文庫

『原子炉の蟹』は、さるかに合戦をなぞらえた殺人事件。一方『あした天気にしておくれ』は、岡嶋二人のデビュー作。このあと、岡嶋二人は『チョコレートゲーム』や『99%の誘拐』などの名作を生み出します。

第28回

受賞 中津文彦『黄金の砂』→『黄金流砂』

   岡嶋二人『焦茶色のパステル』

候補 高沢則子(小森健太朗)『ローウェル城の密室』 ハルキ文庫

   深谷忠記 『ハーメルンの笛を聴け』 中公文庫

『黄金流砂』は、歴史の謎を探るミステリ。『ローウェル城の密室』は、ファンタジーの世界の殺人事件。密室のとんでもないトリックを知ることができます。『ハーメルンの笛を聴け』は、子どもが次々といなくなるという不思議な事件の真相。

第30回

受賞 鳥井加奈子(鳥井加南子)『天女の末裔』

候補 東野圭吾『魔球』 講談社文庫

工夫した小説作りに定評のある東野圭吾の作品。中でも味わい深いものがあります。題名通り、野球に関連のある作品です。

第34回

受賞 坂本光一『白色の残像』

候補 折原一 『倒錯のロンド』 講談社文庫

『倒錯のロンド』は、叙述トリックの王者、折原一の出発点。読者をあっと驚かせてくれます。この作品が乱歩賞を取ったらおもしろかったのに。

第35回

受賞 長坂秀佳『浅草エノケン一座の嵐』

候補 吉岡道夫『メビウスの魔魚』
   →『「稲妻」連続殺人』 講談社文庫

『「稲妻」連続殺人』は、観賞用の鯉が事件のカギとなる作品。


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