ステリの読み方

どんな順序で読もうか…と、ふと考えたあなたに。

 読み方など、人それぞれ。これがよいとは言えませんが、わたしの読書の仕方を紹介させてください。

1 波紋式読書をしよう!

2 シリーズは順序を守って

1 波紋式読書

 雨のひとしずくが池に落ち、そこに波紋が広がるように、一つの作品から次々と読む作品が見つかっていくのが波紋式読書です。たとえば、三大ミステリだから、と中井英夫の『虚無への供物』を読んだとします。ここから残る二つ『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』に行くのもよいでしょう。また、この『虚無への供物』の解説を読めば、この作品の前半が乱歩賞の最終選考に残った作品だということはすぐに分かります。そこで、その年の受賞作戸川昌子『大いなる幻影』、佐賀潜『華やかな死体』、候補作の天藤真『陽気な容疑者たち』を読むのも手ですね。ここから乱歩賞の世界に入るのもよいこと。天藤真の温かなミステリの世界に入るのも楽しいことです。あるいは、『虚無への供物』を意識して書かれた竹本健治『匣の中の失楽』に行くと、さらに世界が広がりますね。『将棋』『囲碁』『トランプ』のゲーム三部作もこの後読むと楽しめるでしょう。
 海外の作品でも、同じことができます。たとえば、コリンズの『月長石』ですが、最大最長の推理小説と言われたこともある作品です。この作品は、ディケンズに捧げられたもので、ディケンズはお返しに『エドウィン・ドルードの失踪』という作品を書こうとしました。でも、残念なことに未完に終わっています。後の作家たちが、後半を書き足して、完成させたものがすでに翻訳されています。ここで、それを読むのもよし、ディケンズの他の作品(『二都物語』『大いなる遺産』など)に行くのもよいでしょう。同じ時代を舞台にしたミステリもあるでしょう。作家同士のつながり、時代や場所、作品のタイプ(密室、アリバイ、安楽椅子…)などを意識しながら読むのもよいことです。このように、一つの作品を読むと、そこに関連した作品がいくつも見つかっていきます。

 ところが、困るのは初めのひとしずくをどうするか、ということ。一つ見つかれば何作かは読めるでしょうが、行き止まることもあります。そんなときは、迷わずミステリのガイドブックから興味をそそられる作品を探しましょう。わたしの場合は、文春文庫の『東西ミステリーベスト100』をテキストにしました。一人の作家を読みつづけると、世界がどうしても狭くなってしまいます。一つ選んだらそこから広がる世界を楽しみ、ある程度読んだらまた新しい作品を選ぶ、そんな楽しみ方をしてみませんか。このような方法で読みつづけ、わたしはベスト100に取り上げられた作品を読むために、1作あたり数冊〜十数冊という作品を経由しました。そのために何年もかかりましたが、より楽しむことができたと思っています。

2 シリーズは順序を守って

シリーズのキャラクターが決まっている場合、やはり出版された順序に読まないと、十分に作品を楽しむことができませんね。前作の事件を心に引きずっている主人公、以前に主人公に助けられた脇役、思い出の地…。それぞれに意味があるのに、単発で作品を読んでいるとそのあたりの意味が分かりません。たとえばヴァクスの『フラッド』に始まるシリーズ、主人公の心の葛藤と成長も見所の一つです。ですから、シリーズものは古いものから読みましょう。
 では、あまり固定したキャラクターが出てこないものはどうでしょう。綾辻行人の『十角館の殺人』に始まる「館シリーズ」。特に作品同士のつながりは強くありません。どれから読んでもおもしろいのですが、『人形館の殺人』から読んでしまった人は何だと思うでしょうね。この作品は、それまでの何作かを読んでおくことでトリックが成立するもの。ネタバレしないMystery Best ???では詳しくは触れませんが、やはり古い作品から読まないと、ミステリとしての面白さに欠ける作品もあるのです。
 作者が違っていても、困ることがあります。それは他の作品のネタバレをしている場合。未読の作品の犯人をいきなり明かされてしまったら困りますね。たとえば高木彬光『能面殺人事件』では、ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』の犯人がいきなり名指しされます。『グリーン家』は、犯人の意外さが命の作品。これには参ります。古典と呼ばれる作品は、早めに読んでおくことですね。ですから、シリーズものかどうかを確かめたり、そうでなくても他の作品と関連しているかなどをちょっと確かめてから読むとよいでしょう。確かめるときには、あなたがテキストにしたガイドブックが役立つでしょうし、作品の巻末には解説があることが多いので、それを見るとヒントが見つかるはずです。

 

 こうして1の波紋式読書と2のシリーズの順序を組み合わせて読むと、これは実におもしろい読書ができます。難点は時間がかかること。でも、読書は心の栄養。じっくり時間をかけてください。雨のひとしずくは池を作り、豊かな潤いをもたらし、その水から新しい生命が誕生していくように、あなたの心を広く、深く育ててくれるはずです。このMystery Best ???が少しでもあなたのお役に立てたら、わたしは幸せです。

 

 

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