中小企業診断士からみたタイ・自動車産業視察記

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 微笑みの国と呼ばれるタイですが、日本の自動車産業、家電メーカーが早くから進出し、ピラミッド型の産業構造を呈しております。そのタイに2007年11月に行った視察報告を記します。

2011.5.1更新


1.自動車部品会社A社視察

1)企業概要
 設立 :2001年
 所在地:Siam Eastern Industrial Park
 資本金:185百万バーツ(約6億円)
 資本構成:日系企業L社60%、日系企業M社40%
 従業員:日本人3名、現地雇用60名
 主要顧客:自動車部品メーカー、自動車メーカー、電気・電子メーカー
2)立地条件
 首都バンコクを囲む形で、タイの工業団地が形成されており、Siam Eastern Industrial Parkはバンコクまで150kmと比較的流通面での立地条件が良いといえます。当工業団地があるRayong県には、13の工業団地があり、その中でも当工業団地は小さなほうになります。Rayong県最大のEastern Seabord Industrial Estateが8250Rai、148社であるのに対し、当工業団地は1376Rai、26社(2004年)となっています。(1Rai=1600u)工業団地の分譲価格は、平米1156バーツ(およそ日本円で平米3850円)であり、安いほうになっています。AmataCityの工業団地の一般区で平米1437バーツ、最も高いEastern Industrial Estateが、平米2812バーツであることを考えると、コスト面で立地を選択したと考えます。但し、専門的なことは判断できませんが、他の工業団地と比べ地盤強度が弱いため、建設コストがかかると考えます。Rayong県の工業団地の株主には、住金物産の名前を良く見かけますが、この工業団地の株主は不明です。開発者は日系企業M社の事業会社であるA社グループとなっています。
2008年10月8日
2)立地条件
 下記に、Rayong県の主たる工業団地に進出している企業をまとめます。
国別進出企業 自動車・二輪車関連企業の比率 電子・電気機械関係企業の比率 その他
Siam Eastern I.P. 日系18社、欧米2社、地場1社、その他5社 65% 12%
Amata City I.E. 日系25社、その他35社
Asia Industrial E. 日系5社、欧米1社、地場1社、その他1社 0% 0% 化学80%
Eastern IndustrialE. 日系10社、欧米7社、地場7社、その他5社
Eastern Seaboard  E. 日系74社、欧米42社、地場6社、その他30社
Rayong Industrial Land Co.,Ltd. 日系1社、欧米系3社、地場4社、その他8社 19% 13% 繊維、化学、その他
Rayong Industrial Park 日系0、欧米2社、地場12社、その他2社
Rojana Industrial Park 日系12社、その他4社 38% 13% 繊維、機械、化学、鉄、その他
JETROビジネス調査報告データ「タイの工業団地2004年版」より

 Rayong県で日系の企業が多いことが分かり、公表されているデータでは自動車・二輪車関係の比率が高いことが分かる。特に、このたび訪問した
Siam Eastern Industrial Parkの自動車・二輪車の比率が高いといえる。これは、下記に示す日系の自動車メーカーの工場とへの物流を考えた場合、Rayong県、Chonburi県からの物流体制が良いことが影響していると考える。 
ホンダオートモービルタイランドがアユタヤ県2工場
トヨタ・モーター・タイランド チャチュンサオ県2工場 サムットプラカーン県
サイアムニッサンオートモービル会社 サムットプラカーン県2工場

2008年12月30日
3)生産
 中古の設備を日本から導入している。設備は自動化された設備であり、現地従業員は、運搬と簡単な作業が主たる業務となっている。業務に対する集中度合いからみて、タイ人はあまり労働には向かないようである。
原材料は日本からの輸入であり、1500ton弱の月間の生産を行っている。在庫が2500tonあり、材料の値上げに対応しているためと理由を説明していたが、後付の理由であると考える。同社の製品はタイ国内に限らず、ベトナムなど第三国に輸出を行っており、日本からの原料に輸入頼っていることから、2か月分の在庫がどうしても発生していると考える。
 ベトナムへの輸出はコスト高となるように思えるが、FTAにより関税率が5%以下に抑えられている点から一つのマーケットとして捉えられる。ベトナムは、二輪車の生産拠点となっているため、同社として市場の魅力があり、関税面で中国製品より優位に立てる利点が挙げられる。
 上記から、同社は生産コストよりもマーケットインの考えにもとづき、事業を行っている。
 設備が古く汚らしく見えるが、比較的清掃状態が良く、埃や油の堆積が少ない。現地従業員への教育ができていると考える。また、5Sの整理の面もできている。新潟県の中小企業を年間60社ほどみているが、このレベルの清掃状態を保てている企業はそう多くない。
 生産は、カンバン方式に対応しているとしているが、顧客との間のカンバン方式であり、前述の在庫から分かるように社内はカンバン方式ができていない。
2009年3月
4)出資状況
 割愛
)設立の背景
 当該タイの法人A社 は、製造業B社と商社C社の共同出資にて設立されている。製造業であるB社単独でも、海外事業会社を運営できる実力はあると考えるが、当該タイの法人A社が製造業B社にとってはじめての事業会社であり、タイにグループをもつ商社C社と共同で工場運営をしたほうが、製造業B社としては好ましいということが設立の背景にある。また商社C社にとっても、多角的な面で製造会社を持つメリットがあったと考える。現在、製造業B社では、単独の海外工場も検討しているようである。

6)労務関連
A社 比較資料
ワーカー給与(残業込み) 8500バーツ/月(28,000円) 20,500円
マネージャー給与 200,000円 85,500円
比較資料は、JETROアジア主要都市・地域の投資関連コスト比較20073月のバンコクデータ

 JETRO調査の日系企業より、高い給与を支払っている。「従業員の採用は困っていない」という回答が得られたが、給与面で人材の確保、定着が行いやすいと考える。周辺企業では、日給制をとっているが、同社は月給制をとっており、その面からも働きやすい職場であると考える。採用に当たって、4ヶ月間の試用期間があり、その後採用すれば終身雇用となる。給与は、下げられない環境にある。年間269日の稼動であるが、2010年までに255日までに労働時間を削減するように要求が出されている。従業員とのコミュニケーションはタイ語で行っている。
7)電力需要
 タイナショナルパワー(ドイツ系)から購入している。各工業団地で発電所(火力・原子力)をもっており、中国のように電力不足に陥らない。
2.自動車部品会社B社視察
1)企業概要
   設立 :1982年
   第3工場稼動:2007年1月
   第3工場所在地:Siam Eastern Industrial Park
   資本金:300百万バーツ(約10億円)
   資本構成:日系企業98%
   従業員: 1200人
   主要顧客:日系自動車メーカー、自動二輪車メーカー
2)生産
 B社は商社であり、国内では、製造を行っていないが、タイでは製造工場を運営している。工程は自動化と標準化を進めており、A社と同様に、古い機械を活用している。機械は、台湾、日本から持ってきたようである。カンバン方式の導入を行っているものの、少品種大量生産であり、商社でも運営できる工場である。しかしながら、現場管理レベルは新潟県内の中小製造業よりレベルが高い。
 設備は自動化しているものの、設備1台に1人のオペレータがおり、コスト低減活動が行われていない。今後はバーツ高の影響もあり、製造原価低減活動を行わざるを得ないと考える。
 組立ではセル生産工程を意識しているようであるが、ものづくりはできていない。ものづくりが分かる駐在員が同工場にはいないと推測する。
 Q−Pointという工程図で、生産ラインを見える化している。これは作業者の教育に役立つと考えるとともに、品質管理力の向上につながると考える。また、品質指標をグラフ化しており、品質改善活動に取り組んでいる様子が伺える。品質管理レベルも新潟県内の中小製造業よりレベルが高いと感じる。
 海外の商社が持つ工場より現場管理レベルが低いようでは、新潟の中小製造業のさらなる凋落は逃れられないと感じた。
 同工場の最大のポイントは、亜鉛のメッキラインであり、海外ではじめてメッキラインを見させていただいた。興味があったのは排水処理であるが、適切に処理を行っている。
3.環境公害対策<BR>

 前述の排水処理施設のように、日本の環境技術が海外に活かせるようになってきている。環境技術は現在のところ、日本の製造業の補完的な役割であるが、幅広い貢献(ビジネス)ができるように視野を広げる必要があると感じた。
 タイにおいて1992年に環境保護法が制定され、汚染物質の発生防止、都市環境、環境教育及び情報開示、環境テクノロジーなどが決められている。
 このたびの視察は、海岸部であるため見ることはできなかったが、河川の水質は低下の一途を辿っているとされている。水質汚濁の対策として、下水処理施設の整備が進められているが、今回の工業団地内に下水処理施設があることが確認できたが、街中の下水処理施設の整備が遅れているようである。<BR>
 大気汚染は、中国に頻繁に訪問しているため、それほど酷くはないように思えるが、自動車の整備状況が悪く、黒鉛をあげた車が非常に多い。
 ゴミ問題に関しては、増加し続けるゴミの排出量に対して各地域で60%程度の処理能力しかないとされている。政府はゴミの分別によるリサイクルの推進を打ち出しているが、工業団地で適用できても、一般市民への適用が難しいようである。このたび訪問した工業団地でも、産業廃棄物の規制(量の制限)が存在するが、一般市民に対する制限はないようであり、企業で分別収集ができても、タイの民間人に対しては対応が難しいようである。
 また、グリーン調達を行っている企業があり、その企業が調達先の環境動向の把握に熱心に動いている。
 今回の視察メンバーのうち建設業界のメンバーから、タイ国内の屋根材にアスベストがまだ使われていることを教わった。自然破壊だけでなく、人体に対する有害性の判断も遅れているように感じた。
 また、移動中にアスベストを含む屋根材を積んだトラックの横転を目撃し、日本に比べまだまだ教育水準が低いと感じた。
 現在、燃料用エタノールの製造の取組のため、世界中で食糧問題が浮上している。タイにおいても、カッサバ芋によるエタノール製造を行っているが、今回の視察でのヒアリングの結果、ガソリンとエタノールの混合燃料がタイにおいてあるものの、車の寿命が短くなるために誰も使わないという意見を聞いた。
 これらのことから、今後タイの教育レベルの向上と特に環境教育の実施が望まれる。
 タイにおける日本の経済援助役割は非常に大きく、2000年以降額は減ったものの、70百万ドルを超える技術協力を継続して行っている。その分野は、農林水産・保健衛生・環境問題・薬物汚染などに多岐にわたっているが、「水管理システム近代化計画」「環境研究能力向上プロジェクト」「タイ環境基準・排出基準設定支援プロジェクト」が見当たるだけで、環境に対する技術協力プロジェクトが充分であるとは感じられない。
 タイと日本の関係は良好であるものの、今後様々な形で民間交流を盛んにすることにより、日本の環境技術・知識のタイへの定着が図れることを望んでいる。
参考:JETROビジネス調査報告データ「タイ国における環境対策の現状と課題」

2010年3月21日
4.FTAと工場立地に関して
「低廉な労働力を求めた工場立地」と「マーケットインに基づいた工場立地」の2つの考え方があるが、今後、FTAの締結状況など国際的な情勢により、工場の統廃合がある懸念がある。そのため、このたび視察した企業のように、既にある設備を海外工場で活用する例が増加すると考える。撤退を視野に入れた海外進出が不可欠である。タイでは、今後家電産業で撤退が予測されており、法律面で撤退を行いやすい地域であるという意見を現地で耳にした。

2010年4月10日
5.タイの治安
 2007年11月の我々の訪問を後にして、日本人女性がタイで殺害されたというニュースを耳にしたが、リゾート地と思えないほど、我々が宿泊したパタヤは治安が悪い。法律面の問題があるのかもしれないが、路上のいたるところで、水パイプを使った麻薬と思われるものを吸っている光景を目にする。
 クーデターの影響はほとんど無いように思われるが、安全確保は全て自己責任の世界と思える。滞在中の1日の休暇日に、車とガイドを雇って、市場の見学と寺院などに訪問したが、どこに行っても警察はあまり眼にしない。更に、食堂に入り、食べようとすると、「ガイドからこれは食べないように!」と言われる。ガイドが食べ物を選んでもってきたのに、変に思うと、タイのレストランはしばしば食べ物が腐っているため、タイ人も、実際ものを見てから食べるかどうか検討しているようである。食べ物に関しても自己責任の世界のようだ。
 ガイドに2006年9月に派生したクーデターと、12月の総選挙に関する意見をもとめると、彼は反タクシン派のクーデター支持派であり、彼の友人たちには、タクシントン派もいるようです。何故、反タクシン派であるかというと、タクシンのインサイダー疑惑などから、彼の金銭面に関する問題から支持できないということです。日本での報道の通り、12月の総選挙後、タイの治安に心配があるようです。視察時期としては、良い時期であったのかもしれません。

2010年5月26日
6.貿易
日本からアジア各国への輸出と、アジア各国から日本への輸入
輸出国 輸出額 輸入国 輸入額
中国 92,876百万ドル 中国 118,419百万ドル
韓国 50,335百万ドル 韓国 27,316百万ドル
台湾 44,148百万ドル 台湾 20,327百万ドル
香港 36,473百万ドル 香港 1,520百万ドル
タイ 22,928百万ドル タイ 16,885百万ドル
シンガポール 19,512百万ドル シンガポール 7,481百万ドル
マレーシア 13,224百万ドル マレーシア 15,487百万ドル
フィリピン 9,014百万ドル フィリピン 7,922百万ドル
インドネシア 7,377百万ドル インドネシア 24,019百万ドル
ベトナム 4,143百万ドル ベトナム 5,291百万ドル
 日本でのタイの位置づけは、アジアの中で5番目となっています。更に、タイは貿易黒字国となっています。このたびの視察で見るように、原材料を日本から調達し、加工貿易の形をとっているケースが多いため、貿易黒字国になっていると推測します。

2010年8月9日
 日本のタイの輸出入の具体的な品目をみると下記のようになっている。

タイから日本への輸出

日本からタイへの輸入

事務用機器

1,384百万ドル

鉄鋼

2,890百万ドル

音響映像機器

1,061百万ドル

電子部品

2,328百万ドル

魚介類

954百万ドル

自動車の部品

1,521百万ドル

半導体等電子部品

655百万ドル

原動機

1,192百万ドル

肉類

527百万ドル

金属加工機械

762百万ドル

科学光学機器

485百万ドル

プラスチック

712百万ドル

石油製品

426百万ドル

金属製品

708百万ドル

家具

312百万ドル

自動車

692百万ドル

 鉄鋼、電子部品、自動車の部品など日本から輸入し、事務用機器、音響映像機器などを日本に輸出している。そのことから、日本の外注工場的な加工貿易を行っている。
2010年12月6日
 日本へを含めるタイ全体の輸出を見た場合、

輸出額

占有率

伸び率

コンピュータ・同部品

14,876.3百万ドル

11.5%

25.6%

自動車・同部品

9,540.8百万ドル

7.4%

23.2%

IC 

,028.7百万ドル

5.4%

18.1%

天然ゴム

5,393.6百万ドル

4.2%

45.4%

プラスチック樹脂

4,500.7百万ドル

3.5%

7.2%

宝石・宝飾品

3,644.3百万ドル

2.8%

12.7%

精製燃料

3,634.8百万ドル

2.8%

54.5%

鉄・鉄鋼

3,527.1百万ドル

2.7%

21.7%

ラジオ・テレビ受信機・同部品

3,462.5百万ドル

2.7%

10.2%

化学品

3,443.2百万ドル

2.7%

30.1%

合計(その他含む) 

129,744.1百万ドル

日本への輸出でデータとしてあがっていない自動車・同部品の輸出が、タイ全体の輸出では上位にある。音響映像機器、事務機器と異なり、自動車関連は、日本から原料・部品を輸入し、タイで加工し、第三国へ輸出している実態が分かる。今回の視察先UNION AUTOPARTSでも、同じことを行っている。現在タイから日本への輸入に関して、日タイEPAにより、映像音響機器などの電子機器、自動車関係は無税となっている。更に、今後タイ側においても、自動車の一部を除くほとんどの鉱工業品の関税を10年以内に撤廃する。そのため、今後日本とタイの貿易が加速すると考える。本視察は、その状況下の日系製造業の景色を見た点で、将来においてとても有意義なものとなると確信する。

2011年1月19日

2008.12.30中小企業診断士中村公哉事務所
fwiy6062@mb.infoweb.ne.jp