賃貸団地の建て替えを巡り、
公団は反対派住民を次々と裁判に訴えた。
だが皮肉にも、公団の硬直性が目立ち、
事業の必要性が問い直されることに。
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「借家法に基づく提訴ですね。それなら、この団地での建て替えの必要性をもっと具体的に書いて下さい。代替給付の法的性格は何ですか」
昨年十一月十七日、東京地裁冒頭、裁判長が原告、住宅・都市整備公団の弁護団に訴状の書き足しを求めた。
公団が、西新井第一団地(東京都足立区)の建て替え計画に反対する住民七人に対して起こした明け渡し請求訴訟の第一回口頭弁論でのことだ。
「ようやく議論がかみ合った。公団はあくまで『国の施策』で押し通して個別事情に踏み込みたくなかっただろうが、公団のまやかしが破れてきた」
こう住民側の弁護をしている清水洋弁護士は胸を張る。
公団が築三十五年を超えた賃貸住宅の建て替えをめぐり、住民を訴えている明け渡し請求訴訟は現在五つ。
久米川(束京都東村山市)、東伏見(同保谷市)、金町(同葛飾区)、光ケ丘(千葉県柏市)。
いずれも、昭和三十年代に造られたテラスハウス形式の団地で、「建て替え必要」と公団が主張する理由と論理構成は全く同じだ。
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| 「建て替え」の規定なし |
@建て替えは国の施策である。
A住宅面積や設備など居住水準の向上を図る必要性がある。
B容積率が余っており、土地の適正利用を図る必要性がある。
C他団地で実績がある。
D賃借人に引っ越し代などの代替給付の配慮をしている。
しかし、こうした公団の主張は借家法に定める「立ち退きを求めるに足る正当事由」に当たらない、と久米川を担当する高木敦子弁護士は指摘する。
高木弁護士によれば、公団は明け渡しをめぐる訴訟で、九二年二月に、大阪地裁で勝訴したことがある。
といっても、公団に訴えられた住民は弁護士をつけない本人訴訟。
実質的に審理されなかったに等しい。ここで「勝った」という実績が、必ずしも他の訴訟の前例になるとは限らない。
だが、公団は、この勝訴を錦の御旗に、一連の訴訟に打って出たフシがある。
公団法には「建て替え」の規定がない。あくまでも一般と同じ借他借家法が法的根拠となる。
借家法に基づく裁判なら、普通、大家と店子双方の、明け渡しと住み続けを求める理由を具体的に比べる。
建物の危険なほどの老朽化といった「必要性」が求められる。
立ち退きを求める理由が十分でない時には、「補完事由」として大家が金を出すのが一般的だ。
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| 一部屋増築工事ずみ |
金町や西新井では、公団自らが十数年前に約十平方b増築して、平均五十五平方bになっていた。
その個別事情を踏まえた上で「居住水準を高める」理由もほとんど記されてない。
被告の一人、高柳春日さん(六五)は、一九五七年の団地建設時から西新井に住んでいる。
大卒初任給が一万数千円だった当時、家賃は月五千七百円もした。春日さんは妻、橘さん(六四)と共側きだったから収入基準をクリアできた。
以来、ずっと住み続けた。七七〜七八年には、一部屋増築されて3DKになった。
その時、公団職員からは、「これであと、三十年は住みみ続けられますから」と説明された。
橘さんもそれを聞いて、「それならお迎えが来るまで住める。一生賃貸でも大丈夫」と持ち家を諦めたクチだ。そして二十年弱、今は年金収入に頼っている。
そうした世帯が同じ団地内に三十近くある。
「今頃出ていけと言われても」と、高柳さん夫婦は憤る。
ごく普通に借家法を適用すれば、一方的に店子を追い山すことはできない。
ところが、公団方式は違う。建て替え団地に指定すると、住民に通告する説明会を開き、二年間の「話し合い期間」を区切る。
この二年間に、借家法に基づくもともとの賃貸借契約を破棄する「一時賃貸借契約」を結ばせる。建て替え後の優先入居や家賃保証といった条件交渉は何もない。
期間が終われぱ、住民が反対しようが解体・建設工事にとりかかる。
一方で、一時貿貸借契約の判は押しても、意味を理解していなかった住民も多い。公団がきちんと説明しないためだ。
西新井では六十四戸のうち四十九戸が「建て替えに賛成という意味でないと理解していた」と表明している。
久米川団地で被告の一人、良島隆さん(七四)は言う。「建て替え自体はすぱらしい。部屋も広くなって、風呂やトイレも新しくなる。
問題は家貿だ。土地取得費はいらないのに、なぜ、あんなに戻り家賃が高いのか」
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| 広くなって家賃が三倍 |
例えぱ、金町や西新井の場合、今までは3DK約五十五平方bで六万円前後の家賃だった。
公団が提示してきた建て替え後の最終家賃は、3DK六十平万b十六万五千円、3LDK六十七平方b十八万三千円。
金町なら月十万円以内、西新井なら十二万円以内であれぱ、住民側も妥当と見る。周辺の新築民間賃貸マンションより少し高めだ。
古い団地では、どこも高齢者が多い。そのため、住民団体である全国公団住宅自治会協議会の調査では、戻り入居は三〜四割台の団地が目立つ。
西新井の住民で戻れるのは三人に一人だけという。ここでは六十歳以上が六五%だ。
だが、公団によると全国平均で戻り入居は約六割。原田昭二改善計画課長は、「家賃は決して高くはない。
公団住宅の入居者は年収七百八十万円程度の中堅勤労所得層を想定している。
戻り入居者には、特に家貿を軽減する措置も取っているし、公営住宅を斡旋してもいる」と説明する。
戻り入居者については、「住宅扶助限度額」を家賃とする特例を、昨年四月からは建て替え指定時に六十五歳以上の世帯にも適用しているという。
この額は自治体によって違うが、東京都の場合、年収三百四十万六千八百円以下の高齢者二人世帯で、今年度は月六万四千九百円となっている。
しかし、六十四歳未満の人は救えない。この広さでこの家賃なら、公団の想定する年収の人たちが分譲に流れ、大量の余剰在庫を抱える心配はないのか。
「ありません」と原田課長は断言する。全国で計約百団地の建て替えに着手し、その結果、平均三十六平方bだった面積を六十二平方bにできたと成果を語る。
家賃設定の明細については、公団は「事業体である」ことを理由に発表しない。
手元に、ある団地の建て替え後の家賃を決めた時の公団の内部資料がある。これによると、@周辺の新築の相場家賃を調べ、
Aそれをもとに当該団地の家賃を出す。Bさらに、最初は安く設定して、少しずつ値上げして最終家賃まで七年かかる「七年傾斜」で計算し直す、
という方法で家賃が弾き出されている。
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| 「高層化」でいいのか |
このケースでは、@は同じ沿線で公団が直近に建設した一団地の家賃だけが挙げられ、平方b単価は千百十三円。
民間物件とは比較していない。Aで出された賃料は、平均で約五十八平方b約九万五千円。平方b単価で平均千六百三十六円と、@の約一・五倍だ。
さらに、Bでは七年後の最終家賃は約十二万七千円、単価は約二千百九十円と、@の二倍になっている。
この資料の中では家賃原は約九万八千円。これは、昭和三十年代に取得した土地の借入金を七十年均等で計算した返済残金と、
新規建築の建築費、公租公課などを足したもの。戻り入居者の数も、もともとの世帯の半数以下と設定して家賃算定していた。
ちなみに、こうした計算を経てこの団地の住民に示された家賃は、結果的に平均平方b単価で約二千六百円台と、@の二・四倍、Bの一・二倍だった。
「容積率いっばいに、高層化すれぱいいというのはバブル時の発想。それより、緑地も多く容積率もゆったり造られたかつての公団団地の方こそ、
公団の目指すべき『良質な住宅』ではないのかよ」と、西新井第一の自治会長、藤岡美博さん(四四)。
金町の自治会長小林良一さん(六四)もこう話す。「賃貸住宅がだぶついている中、今住んでいる住民を追い出してまで、
民間市場を高め誘導するようなことを公団がしなくても」
だが公団は今後も建て替えを続ける方針だ。いち早く、反対運動を進めている団地もある。
昨年十二月二十三日、東京都日野市にある公団多摩平団地の集会場で、団地住民と森田喜美男市長との話し合いがあった。
同団地は五八年の建設。第一種住宅専用地域が多く、建て替え指定は受けていない。だが、市が都市計画を変更して高層建築が可能になれば、
建て替え指定は間違いないと見られている。
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| 市条例で住民を守る |
建て替え後の高家賃では生活できない、と心配する住民たちは、都市計画を変更しないよう森田市長に求めた。
「緑を残すこと、高家賃にしないことなどを、どうやって公団に言うことを聞かせられるんでしょう」住民の質問に、市長は答えた。
「ご心配いらないと思います。お任せ下さい。必ずお守りします」日野市条例で住民を守れると考えているという。
「住めない家賃で追い出される、という福祉の思想に合わないことは絶対やらせない。自治体として当然の立場です」
だが、公団側の見解は、「学校や上下水道などは自治体の意見を無視できない。
だが家賃は調整事項ではない。自治体によっては『全員が戻れる家賃にしろ』といった議会採択がされるが、無視して構わない」(原田課長)
公団が家賃を下げないのは民間業者が建設省に圧力をかけているから、と説明する関係者もいる。「公団に『低め誘導』されては困るからです。
建て替えを急ぐのは、二つの意味で『民営化圧力』の裏返しでもある。つまり、低家賃住宅を壊して住民の民間住宅への移住を促進し、
公団民営化を唱える民間業者の声を跳ね返す役割。もう一つは、公的なうちに建て替えを進めて、
経営を安定化できる優良な住宅を確保しておき、民営化に備えるためでもある」
そんな「民営化に備える」説を、公団は一笑に付している。
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