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向こう側がこちら側より5メートル高い本当の山頂。その右寄りにかすかにほこらが見える。ハワイアンが巡礼に来る聖地だ。
いとしく息苦しき酸欠の山「常夏の島・ハワイ」などというフレーズは、中国四千年の歴史でも言いつくされている……たぶん。が、ハワイ島については全く当てはまらない。この島にはいわゆる「常夏の」ビーチだけではなく標高4205メートルの山・マウナケアが共存しているのだ。しかもこの山への道路は整備され、すばる天文台のある頂上付近まで自家用車で登れてしまう。冬場は雪も積もるから、あえて言うならハワイ島は「同じ日にスキーとダイビングができる島」である。やらないけど。 で、このマウナケアに行くことになった。 しかし、油断してはいけない。 もちろん僕には本格的な登山経験もなく、これまでの自己最高高度は富士山5合目駐車場プラス自分の身長である。今回は異次元の酸欠状態や急激な温度の下降で、自分の体に何が起こるのか想像がつかない。乗り物酔いに弱いカミサンなどは、すでに無口になっている。 「コノミズヲ、チョウジョウニイクマデニ、ゼンブノンデクダサイネ」 ミネラルウォーターのペットボトルを渡しながら、ガイドのマットさんが言う。 アップダウンの激しい道を越え原野の中を小一時間ほど登り、標高2800メートル地点にあるオニズカ・ビジターセンターに到着。ここで体を高度に慣らすため1時間の休憩だ。車を降りるといきなり冬の空気にさらされ、ここからは異世界に入るのだという緊張感が盛り上がってくる。真冬用のジャケットと弁当が渡された。すでに少し息苦しいけど気のせいなのか本当なのかよくわからない。 そしていよいよ4205メートルの山頂に向け出発である。 雲の上に出ると、それまでと明らかに景色が変わる。石ころだらけの山肌が太陽の光に照らされ真っ赤に輝いてきた。空気中の水分が少ないので何百メートルも離れた遠くの景色が全くかすまず、目の前の景色と同じだけハッキリ見える。ミョーな遠近感。昔、ニュースで見た火星の地表映像にそっくりだ。 そして陽が沈む少し前、ほぼ最高地点にクルマは到着した。 クルマを降りると、外の気温は0度近く。明らかに息苦しいので、スーハースーハーと無意識に呼吸の回数が増えていく。写真を撮ろうとするが、絞りだのシャッタースピードだの、論理的なことが素早く考えられない。そんなこと下界にいたら論理的とも思わないでやる作業なのに。この体たらくではすばるの研究員になれないじゃないか。いやその前に星座早見表の使い方を覚える方が先か。 やがて太陽が雲海に沈み始めると、全てのものがおそろしくキレイに見えてしまい、だんだん根拠のない幸福感がわいてきた。 |