微熱 |
開いた目に映ったのは、カーシュの心配そうな顔。熱に浮かされたイシトの額に、その手が置かれている。先ほどの夢の中のひんやりした感触は、その手のためだったのか。 「カー……シュ……」 イシトのかすれた声に、カーシュの顔が曇る。 「苦しそうだな……まったく風邪だなんて、おまえ、無理し過ぎなんだよ……」 イシトは弱々しく笑って手を伸ばし、額に置かれたカーシュの手にそっと触れた。 「……ひんやりして、良い気持ちだ……」 カーシュがちょっと照れくさそうな微笑を浮かべた。イシトが熱に潤んだ眼を上げ、カーシュを見つめる。普段はむしろ冷たい印象さえ与えるその冴え冴えとした蒼い眼が、今は熱に揺らいでカーシュを熱く見つめている。北国パレポリ育ちの白い顔も、熱のせいでうっすらと赤い。カーシュはドギマギした。 「イシト……」 額に置かれた手を、カーシュは頬に移した。そこも燃えるように熱い。イシトは、カーシュの手が触れたのが心地よいのか、ほぉっと吐息を漏らした。うっとりしたようなイシトの眼差し。カーシュは堪らず唇を寄せた。 「……ダメだ。うつるっ……」 イシトが逃れようと顔を背ける。だが、カーシュはかまわずその唇を覆った。イシトの熱い唇はわずかに抵抗を示したが、すぐに力を失ってカーシュを受け入れた。いつもは仕方なくキスを受けているかのようなイシトだが、その熱さのせいか、カーシュには、今はキスが次第に熱を帯びていくように思えた。 イシトは困惑していた。こんな事をしては、カーシュに風邪をうつしてしまう。だが、カーシュのいたわるような優しい口づけは心地よく、ひんやりとイシトを癒した。イシトはいつか抗うのも忘れ、カーシュに身をゆだねていた。 「ん……っん……」 イシトがわずかに吐息を漏らす。カーシュが口づけを重ねながら、イシトの頬を、髪を、愛撫した。熱で敏感になった肌。その感触は、いつも以上にイシトを刺激した。 「カー……シュ……」 ようやく解放されたイシトの唇から声が漏れた。カーシュの唇はイシトの汗ばんだ額や髪に口づける。 「汗……臭いだろ……?」 イシトが喘ぐように訴えるが、カーシュはなおも愛しげに唇を落とし、その手は力強くイシトの肩を抱いた。 「……あ……っ」 イシトの切なげな熱い吐息に、カーシュが動きを止める。 抱きしめたい。だが、病身のイシトに負担を強いるわけにはいかない。カーシュはじっと動きを止め、自分の欲望を抑えようとしていた。 だが、熱で普段より理性の薄れたイシトは、先ほどからの愛撫でたかぶっていた。いっそ、思う様、抱かれてしまいたい。 「カーシュ……」 抱いて欲しい。だが、そんなことは言えない。それだけの理性が、イシトには残っていた。 「……もし、風邪がうつったら……看病する……」 イシトは、かすれた声でようやくそれだけを言った。それでも、聞きようによっては誘っているようでもある。うつったら看病するから、だから抱いて欲しい、と。 だが、カーシュは優しく微笑んで身体を離した。 「ああ、頼むぜ」 カーシュはもう一度、触れるだけの優しく軽いキスをして、イシトの額に手を置いた。 「気持ち良いか? こうしてるから、もう一眠りしろよ」 イシトはじっとカーシュを見上げていたが、やがてため息混じりに小さく笑って静かに目を閉じた。
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言い訳 |