ご注意!

 これは、某サイト様のクロノクロス企画「非日常茶飯事」の設定を使わせていただいてます。そのサイト様がクロクロ活動を休止されてしまったので、こちらに入れることに致しました。
 クロノクロスのキャラを現代に置いてみたら、という設定で小説、イラストを募集!という企画でした。基本設定は下記の通り。なかなか楽しげな設定なんですが(笑)。

カーシュ=喫茶店「アカシア」のマスター。
イシト=カーシュの親友で、作家。当然ながら「アカシア」の常連。
セルジュ=近所の高校生。一見優等生なのだが・・・?
グレン=カーシュの幼なじみ。大学生。時には「アカシア」を手伝ったり?
ダリオ=カーシュの幼なじみ。言わずと知れたグレンの兄。優秀な営業マン。

 

それから
2. い・や・だ
〜イシト・言葉遊び〜

 


 カランと小さな音をたてて、喫茶店「アカシア」のドアが静かに開いた。その隙間から吹き込んだ風が、桜の花びらをひとひら店内に運び込む。入ってきた客は大きな荷物を抱え、昼時で込み合う店内を見回し、その美しい蒼い眼を細めて微笑んだ。店内では、マスターのカーシュが大忙しで飛び回っている。どうやら、この客が入ってきたのにも気付いていないらしい。カーシュはコーヒーを載せたトレーを手に、その客の前を通りかかった。客は、カーシュの前に立ちはだかるように立ち、そのトレーにそっと手を掛けた。
「忙しそうだね、手伝おうか?」
カーシュは、その聞き覚えのある声に、ハッと顔を上げた。
「イシト!」
驚いて固まってしまったカーシュに、イシトはいかにも可笑しそうにクックッと肩を揺らした。
「何番のテーブルに持ってくの?」
「…3番…」
やっと答えたカーシュを後目に、イシトは荷物を店の隅に押しつけて、コーヒーを運んで行ってしまった。カーシュは大きな溜息をひとつ吐いて、その後ろ姿を苦笑して見送った。
 イシトがカウンターに戻ると、口をへの字に曲げたカーシュが待ちかまえていた。
「おまえ!帰って来るなら来るって、言っとけよ!びっくりしただろうがっ!」
がなり立てるカーシュに、イシトは涼しい顔で微笑んだ。
「驚かせたかったんだ。予想以上の反応で、満足したよ」
「むががががが…!」
イシトはクスクス笑って、またトレーを手にした。
「ま、とにかく今は仕事しようね。どれか運ぶものはある?」
カーシュはフンと鼻で息を吐いて、客の注文のランチを、ドンとそのトレーに載せた。
 やがてランチタイムが終わり客が途絶える。イシトは店の奥にあるカーシュの家の方に、荷物を運んで行った。彼は4ヶ月ぶりに、このエルニドへ帰ってきたのだ。ずっと留守にしていた寒々としたアパートにすぐ帰るよりは、今日くらいは泊まって行け、とカーシュに言われ、彼はそうするつもりだった。
「あれ?お客は?」
少し遅れて部屋に入ってきたカーシュに、イシトが驚いて目を上げた。
「今、誰もいねぇから、休憩!」
カーシュは、ニッと笑った。イシトが、クスッと笑う。カーシュがイシトの顔を覗き込み、気遣う。
「ちょっと痩せたんじゃねぇか?ちゃんと食ってたのかよ…。顔も、なんか、なまっちろくなって…無理して疲れてんじゃねぇのか?」
カーシュが、そっとイシトの頬に触れ、イシトはその手を覆うように包んだ。
「パレポリの冬は、寒さが厳しいからね…ここは…あったかい…」
「イシト…」
どちらからともなく、ゆっくりと唇が寄せられ、そっと触れる。カーシュの手がイシトの頬から背中へ回され、その手に力を込めた時、カランカランと、店のドアが音高く鳴った。
「チッ…」
カーシュは舌打ちして身体を離し、イシトは苦笑した。
「しょうがねぇな…」
店のほうに歩き出したカーシュの後ろにイシトも続いた。
「私にもコーヒーを煎れてくれよ。君のコーヒーを飲むのも4ヶ月ぶりだ」
カーシュが振り向いて、小さくウィンクをした。
「OK!とびっきりうまいヤツ、煎れてやるよ」
 カウンターに戻ったカーシュは、入って来た客を見るなり、思わず口を尖らせた。
「…なんだ、ダリオじゃねぇか…」
ダリオが苦笑して言い返す。
「なんだ、はないだろ?これでも客だぞ」
「やあ」
カーシュの背後からイシトが顔をのぞかせる。ダリオが笑顔を向ける。
「イシト!帰ってたのか!」
イシトもニコニコ応じる。
「ついさっきね。あんまり忙しそうだったから、さっそく手伝う羽目になっちゃったよ」
察しの良いダリオは、カーシュに向かってニヤリと笑った。
「あ…そうか…いや、悪かったな、邪魔して…」
やはりダリオにはカーシュの思惑などお見通しらしい。カーシュは真っ赤になった。
「何言ってんだよ!別に邪魔じゃねぇよ!…それより、今日は随分遅かったじゃねぇか。ランチタイムはもう終わりだぞ」
「あー、硬い事言うなよ。何か残ってるだろ?今日はお客の都合で食べはぐっちまったんだ」
カーシュは腰に両手を当てて、大袈裟にため息を吐いた。
「しょうがねぇなぁ。ちょっと待ってろ」
カーシュは奥へ向かいかけて振り向いた。
「あ、イシト、悪ぃけど、コーヒーはちょっと待ってな」
イシトは、カーシュの気遣いに満足して笑顔で頷いた。
「良いよ、ゆっくりで。確か、ランチのサラダとスープは残ってたよ。とりあえず、それだけでも上げたら?」
ダリオはイシトと並んでカウンター席に座った。
「あっちの方は、もう、片付いた?」
イシトが、ちょっと肩を竦めた。
「大体はね。でも、まだ何度かはパレポリに行かなきゃならないだろうけど」
「そうかぁ、いろいろ大変だな…でも、ま、こうして帰って来てくれて、俺もうれしいよ」
ダリオの笑顔に、イシトも微笑み返す。
「ありがとう。みんな変わりなかったかな」
「ああ、みんな元気だよ。グレンもセルジュも」
「そう…セルジュ、大丈夫だったかな…ちょっと気にはなってたんだけど…」
ダリオはフフッとちょっと笑って、大きく頷いた。
「大丈夫さ。元気にやってる」
「ほいっ、お待ちどう!」
カーシュが、ランチの残りなどを見繕って戻ってきた。
「お!サンキュ」
ダリオは食事を始め、やがてコーヒーの良い香りが店内に広がる。
「…懐かしいな…なんだか、もう何年も居なかったみたいだ…」
イシトはコーヒーを口にして微笑んだ。
「あのな…イシト…セルジュのことなんだが…」
「ん?」
ちょっと言いにくそうに切り出したダリオに、イシトがコーヒーカップを片手に首を傾げる。
「…セルジュはお母さんに対してちょっとわだかまりって言うか、いや、なんか思うところが有りそうなんで、君が何か知っていたら、と…」
唇に持ち上げたコーヒーカップを止めたまま、イシトがしばし沈黙する。
「…それは…ちょっと聞いたことはあるが…」
ダリオが、やっぱり、というように小さく溜息を吐く。
「でも、それは私が言うべき事ではないと思う…。セルジュが自分で話す気になるまで、待つべきなんじゃないかな」
「う・・ん・・そうだな」
ダリオが小さく頷く。イシトが微笑む。
「君がセルジュを案じてくれてたのか…」
ダリオがちょっと照れくさそうに笑う。
「まあ、危なっかしくて、ほっとけないもんな」
カウンターでやり取りを聞いていたカーシュが、ちげぇねぇ、と笑う。
「そのうち、話してくれると思うけどね」
イシトの言葉に、だが、カーシュが腕組みをして言った。
「でもよ、小僧も、あれで結構、人に気ぃ遣うとこがあるからな。…ダリオんとこは両親がいねぇだろ?だから、多分親のことは言いにくいんじゃねぇのか?」
ダリオの顔がパッと明るくなった。彼は、セルジュが自分に打ち明けてくれないことを、内心気にしていたのだ。ダリオは微笑んでカーシュを見つめた。
「…おまえはいつも、俺の欲しい言葉をくれる……ありがとな!」
ダリオは勢いよく立ち上がった。
「ごちそうさん!」
カウンターに代金を置きながら、ダリオは思い出したようにクスリと笑い、イシトをチラリと見てから、カーシュに小声で言った。
「明日は、臨時休業かな?」
「バッ…!!」
カーシュが瞬時に真っ赤になる。
「バカ言え!んなことしねぇぞっ!」
ダリオが朗らかに笑う。
「無理するなって。はっはっは。明日は、俺、どっかよそに食いに行くから気にすんな」
「休まねぇったら!」
ダリオはカーシュの反論を無視して、イシトに軽く手を振って出て行った。
「じゃ、またな」
あとには複雑な面持ちのイシトと、真っ赤になったカーシュが残された。
「…なんのことなのかな…?」
イシトがカウンターに頬杖を付き、カーシュを見据える。心なしか固い声だ。カーシュは真っ赤になったままだ。
「…何がだよ?」
「臨時休業って…」
カーシュは焦った。以前、ダリオに「イシトを落とすときは休みの前にしろよ」と言われたなんて、口が裂けても言えない。勘のいいイシトのことだ、何故休みの前にしろと言われたのか、間違いなく突っ込まれるだろう。カーシュは真っ赤になって唇を咬んだ。内心でダリオを罵る。余計なことを言いやがって。おまえとのことを知られたらどうするんだ。
 その時、店のドアが開いた。救いの神だ。
「いらっしゃい!」
カーシュはホッとして、愛想良く入ってきた客に声を掛けた。イシトは苦笑してコーヒーを飲み干し、棚上げにされたこの件について想いを巡らせた。


 その日カーシュは、さすがにいつもより早く店じまいした。片づけを済ませると、まだふてくされているイシトの待つ、家の方に向かった。気ははやるのだが、昼間のダリオの言葉を突っ込まれるのが怖くて、カーシュはそっと部屋を覗いた。イシトは、やはり長旅で疲れていたのだろう、テーブルにうつぶせてうたた寝をしている。カーシュはホッとして笑みを浮かべた。
「しょうがねぇな…おい、イシト、こんなとこで寝てたら風邪引くぞ」
「う・・ん…」
カーシュに揺り動かされて、イシトが眠たげな顔を上げた。普段、取り澄ました顔をしているイシトとは別人のように幼さの覗くその顔に、カーシュは堪らずイシトを抱き締め、口づけた。イシトが少し苦しげにもがくが、それでもカーシュは離さない。離せない。熱く激しい口づけ。
「や…だ…」
ようやく顔を離し、イシトが切れ切れに漏らす。カーシュが再びイシトの唇を覆う。だが、今度はイシトが、力いっぱいカーシュを引き離した。
「…どうしたんだよ…?」
カーシュが心配そうに、イシトの顔を覗き込む。
「いやだ…何で…」
「何でって…そりゃ、やっと4ヶ月ぶりでおまえに会えたんだし…」
カーシュは真っ赤になって言うのだが、イシトは首を振った。4ヶ月ぶりの再会なのだ。抱き締めてキスして何が悪いというのだ。だが、イシトは唇をキュッと結んで怒っているような顔だ。
「…いやだ…」
カーシュは困り果てて頭を掻いた。思えば、やっと互いの思いを確認し合えたというのに、その日のうちにイシトはパレポリへ発ち、それから4ヶ月、二人は会えずにいたのだ。カーシュはそっとイシトの肩を抱いた。
「ずっと、おまえを待ってたんだぜ…」
イシトはそのカーシュの手を振り払いこそしないものの、横を向き、目を伏せたまま、カーシュを見ようとはしない。
「イシト…」
カーシュが更に抱き寄せようとしたとき、イシトが抑揚のない声で言った。
「何があった?」
「…え?」
カーシュがたじろぐ。
「ダリオと君には、何か、私に言えない秘密があるようだな…」
あくまでも静かに、イシトが言葉を重ねる。カーシュは言葉を失った。もう過ぎたことだ。ダリオも自分も、もう整理できたことだ。だが、イシトにだけは知られたくない。知られてはいけない。その想いが、カーシュをすくませる。

いやだ。いやだ。どうして判ってしまうんだ。
いやだ。いやだ。どうしてうまくごまかしてくれないんだ。

口を閉ざしたイシトの眼がカーシュを責める。
「イシト…」
その無言の抗議を振り払うように、カーシュはイシトを強く抱き締めた。その唇が、そっとイシトの唇に触れる。
「ん……や…だ…」
「おまえが…好きだ」
カーシュの唇が、優しくイシトの頬を這う。

いやだ。いやだ。こんな風に優しく、ダリオにも口づけたのか?
こんな事を気に掛ける自分がいやだ。
些細なことにも、気付いてしまう自分がいやだ。
優しいくせに、人一倍鈍感な君がいやだ。
それなのに、そんな君から、離れるのもいやだ。

「好きだ…」
カーシュの唇が、首筋を伝う。
「…いや…だ…」

いやだ。いやだ。でも、離れるのはいやだ。
この唇から離れるのはいやだ。
この腕から離れるのはいやだ。
この胸から離れるのはいやだ。
この手の温もりから離れるのはいやだ。
離れたくないと、こんなにも思う自分がいやだ。

カーシュの手が、優しくイシトの身体を撫でる。再び唇が重ねられる。切れ切れにいやと言いながら、イシトの手は、それでもいつか、しっかりとカーシュの肩を掴んでいた。

この腕にすがる自分がいやだ。
どんどん君に、寄りかかりそうになる自分がいやだ。
自分が自分でなくなりそうでいやだ。
それでも君を失うのはいやだ。
この温もりを欲している自分がいやだ。
こんなにも思う私を、判ってくれない君がいやだ。
それでも、こうしていたいと思う自分がいやだ。

カーシュは突然イシトをギュッと抱き締め、動きを止めた。
「…カーシュ…?」
イシトが怪訝そうに顔を覗き込もうとする。カーシュはもぞもぞと動いて、身体を離そうとしていた。
「いや…だろ…?」
恥ずかしそうに顔を赤くしたカーシュが、イシトを見つめる。イシトにはわかった。自分を気遣って、これ以上の行為は控えるつもりなのだ。イシトは、身体を離して起きあがり掛けたカーシュの首に腕を回した。
「離れるのは、いやだ」
カーシュが困ったように顔を赤くする。
「だってよぉ…」
イシトは、その頬を両手で挟んで、やっと素直に微笑んだ。
「い・や・だ」




FINE.

 

 

言い訳
ダリオさんたら、人が悪いわ(笑)
ああ、セーちゃんのことで、ちょっとダリオさんも嫉妬してたのかしら。
嫉妬は恋の媚薬(笑)。苦しいけど、それがまた切なくて…。
ラブラブを描くなら、ジェラシーは切っても切れないですよね。
言葉遊びを取り入れて、いろんな「いやだ」を使い、実験的にこんな表現をしてみました。
…なんだかんだ言ったって、らぶらぶなんですよね…。

このシリーズ、今度こそ完結の予定…です。でも、予定は未定(笑)?

2000.11.16
2000.11.27改訂