ご注意! これは、某サイト様のクロノクロス企画「非日常茶飯事」の設定を使わせていただいてます。そのサイト様がクロクロ活動を休止されてしまったので、こちらに入れることに致しました。 カーシュ=喫茶店「アカシア」のマスター。 |
| 木枯らし |
「こんにちはー!」 喫茶店「アカシア」に元気な声が響いた。ドアの鈴を大きく鳴らして、制服姿のセルジュが、風に巻かれて舞い込んだ枯れ葉と共に飛び込んできたのだ。 「あれ?お客さん、誰も居ないの?」 羽織っていたジャケットを脱ぎながら、セルジュがカウンターの中に立つマスターのカーシュに声を掛けた。 「まだ11時じゃねぇか。この時間はいつもこんなもんなの!それより小僧、おまえどうしたんだ?こんな時間に。サボりは店に入れねぇぞ!」 カーシュはチラリと眼を上げて言った。セルジュは悪びれずに、ニコニコしてカーシュに近付いた。 「違うよぉ。試験明けなんだ。はぁー、今日でテストともおさらば!」 「あ、そうか。そりゃ、ご苦労だったな。それで、ここんとこ、顔を出さなかったんだな?」 ここ1週間ほど、セルジュは店に現れなかった。いつもの客が顔を出さないのは、やはり気になるものだ。 「あ、心配してくれてたの?ありがと!」 セルジュは一層うれしそうに笑って、カウンターの中を覗き込んだ。カーシュは野菜を刻んでいたらしい。 「ねぇ、あとで手伝うから、コーヒー飲まして。外、すっごい風。寒かったんだよ。」 カーシュも手を止めて耳を澄ました。 「ああ、確かに風の音が凄いな。木枯らしか…。よし、ちょっと待ってろよ。」 カーシュはコーヒーを煎れ始めた。 「ブレンドで良いだろ?」 「うん!あ、いい匂い。」 新しいコーヒー豆の香りが店内に広がる。やがてサイフォンがコポコポと心地よい音を響かせ、コーヒーが煎れられた。カーシュはセルジュの前にカップを置き、取っ手を持ってクルリと回した。それがカーシュの癖だった。セルジュはその癖を真似るグレンを思い出し、クスッと笑ってコーヒーを口に運んだ。 「うー、あったまる〜。」 美味しそうにコーヒーをすするセルジュに、カーシュが声を掛けた。 「小僧、ちょっと、店の表の札、準備中にしてきてくれよ。」 「いいけど?」 セルジュは腰を浮かせつつ、怪訝そうにカーシュを見た。 「ランチの下準備、今日はちょっと遅れてるんだ。そろそろランチタイムだからな。まだ客に来られちゃ困るんだ。」 カーシュは忙しく野菜を切りながら言った。 「オーケー!」 セルジュは店のドアをちょっと開けて札をひっくり返した。そして、ドアを閉め、カーシュに気付かれないようにドアに鍵を掛けた。 「マスター!野菜ならボクが切るよ!」 カーシュが疑わしそうに眼を上げる。 「できんのか?」 「子どもの頃からうちのこと手伝ってるんだもの。うまいもんだよ。」 セルジュは学生服を脱いでカウンターに潜り込んだ。サッサと手を洗い、野菜を切り始める。確かに慣れた手つきで、あるいは大雑把なカーシュよりうまいかも知れない。 「へぇ、なかなかいい手つきじゃねぇか。」 カーシュが感心したように覗き込む。セルジュが得意そうに微笑む。 「でしょっ。ランチごちそうしてくれたら、皿洗いも手伝うよ。」 カーシュがいつもするように豪快に笑った。 「参ったな。じゃ、今日はそうして貰うか。」 二人はカウンターの中に並んで作業を始めた。セルジュが切った野菜をカーシュが鍋に入れる。どうやら、それはランチセットのスープになるらしい。野菜を切り終えたセルジュが手を洗いながらカーシュを見つめた。 「ねぇ、こないだグレンのところで写真見たんだけど、マスター、昔はポニーテールにしてたんだね。すっごく似合ってたのに、なんで今はやらないの?」 鍋をかき混ぜながらカーシュが照れくさそうに笑う。 「えー!ガキっぽいだろうよー。」 セルジュがカーシュに近付く。 「でもさ、こういう食べ物を扱うときは、髪は縛った方がいいじゃない?衛生的でしょ?ね、ちょっと結んでみてよ。」 そう言いながら、セルジュはもう手近にあった紐を手にしていた。 「あ、おい、小僧!」 セルジュはカーシュの髪を手で束ねて、それを上に持ち上げた。 「わぁ、サムライみたいでカッコイイ!」 セルジュの歓声に、カーシュはちょっと顔を赤らめた。 「そ、そうか?」 誉められて、カーシュもまんざらでもないらしい。セルジュは髪を結びに掛かった。 「今日だけでもさ、ポニーテールしようよ。カッコイイよ。絶対!」 セルジュは、改めて髪を束ね直しながら、わざとカーシュの首筋を指でなぞった。 「うわっ…。」 カーシュが思わず声を上げる。 「あ、ごめんね。くすぐったかった?」 セルジュが無邪気に笑う。 「マスター、首、敏感なんだね…。」 髪を紐で縛りながら、セルジュがカーシュの耳元で囁く。カーシュはうろたえ、耳まで真っ赤だ。セルジュがクスクス笑った。 「…マスターって…可愛い…。」 「な…!ガキのくせして…。」 カーシュが真っ赤になって振り向く。セルジュはお構いなしに、笑いながらカーシュの後れ毛をつまみ上げる。それは、またかすかに首筋に触れ、カーシュは言葉を失ってピクリと身体を震わせた。 「ふふっ、やっぱり、とっても似合うよ。」 セルジュがゆっくりとカーシュの首に手を回す。カーシュは動けなかった。 その時、入り口のドアをドンドンと叩く音がした。 「…なんだ?」 カーシュは我に返って、慌ててカウンターを出てドアへ向かった。 「…あ〜あ、もう少しだったのにな…。」 セルジュが苦笑して小声で呟いた。 「あれ?鍵が掛かってる?」 カーシュはガチャリと鍵を外してドアを開けた。 「カーシュ!」 飛び込んできたのは、カーシュの幼なじみでもある常連客のダリオだった。 「なんだよ、ランチの時間だろ?鍵なんか掛けて、どうしたんだよ!」 「小僧!」 カーシュが睨むようにセルジュを振り返った。セルジュは悪びれずにニコニコと頭を掻いた。 「あれ?いけなかった?だって、まだお客に来られちゃ困るって言ってたから、鍵も掛けておいた方がいいと思ってさぁ…。」 「…って、言ったけどなぁ…何も鍵まで…。」 そう言われてはカーシュも怒るわけにいかない。ブツブツ言いながらも、準備中の札を営業中に直して、カーシュはカウンターに戻ろうとした。 「カーシュ…髪…。」 カーシュの髪型が変わったのに気付いて、ダリオが眼を丸くしてカーシュを見つめている。カーシュは照れくさそうに頬を赤らめてダリオを振り返った。 「なんだよ、ガキみてぇだってんだろ?もう、取るよ。紐。」 紐をほどこうと髪に伸ばしたカーシュの手を、ダリオが掴んで止めた。 「…いいよ。そうしとけよ。…懐かしいなぁ…。」 ダリオは感無量という面持ちで、うっとりとカーシュの首の辺りを見つめている。カーシュは照れくささで顔を赤らめ、ふくれっ面をしてカウンターに戻った。 「ね?マスター、似合うよね、ダリオさん。」 セルジュがカウンターの中から、ニコニコと声を掛ける。ダリオがうんうんと頷く。セルジュは、またクスクスと笑った。 「それにさぁ、マスターって、首、敏感なの。可愛いよね。」 「こらっ、小僧!」 カーシュが真っ赤になって睨みつけるが、セルジュはふざけてその首筋にフーッと息を吹きかけた。 「わっ、よせって、こらっ!」 ダリオも、顔を赤らめてセルジュを睨んでいる。セルジュは笑いながらカウンターを出て、ダリオに並んでカウンター前のスツールに腰掛けた。セルジュはチラリとダリオの顔を窺った。ダリオは憮然とした表情をしている。カーシュが気を取り直してランチの準備に戻ったのを見て、セルジュが囁いた。 「ダリオさんも、フーッて、したかったんでしょ。」 図星を指されて、ダリオは顔を赤らめてじろりとセルジュを睨んだ。セルジュはフフッと肩をすくめて笑った。 「マスター、モテるんだねぇ。」 「な…!」 ダリオが一層顔を赤くして、思わずスツールから立ち上がった。そこへ、カーシュがコーヒーを持って戻ってきた。 「ん?どうした?」 怪訝そうなカーシュに、ダリオはコホンと咳払いをして、セルジュを軽く睨みながら座り直した。セルジュはおもしろそうに、またクスクス笑った。 「なんでもないよ。あ、そうだ。ダリオさん。こないだのシチュー、美味しかった〜!グレンにごちそうになったの。あれ、何かコツがあるの?今度作り方、教えて?」 あくまで無邪気に笑うセルジュに、ダリオも睨み続けるわけにいかなかった。彼はカーシュが出してくれたコーヒーを一口飲んで、軽く溜息をついた。 「いいよ。今日は残業は無い予定だから、良かったらうちに寄るといい。」 もちろんダリオとしては、先程のカーシュの件を、たとえそれが詭弁に過ぎないとしても、キチンと弁解するつもりだった。その思惑を知ってか知らずか、セルジュは、また無邪気に喜んで見せた。 「わーい!ラッキー!じゃね、マスター、今日は夕方までただでアルバイトしてあげる!ダリオさん、帰りにまた寄ってくれるでしょ?」 「ああ。」 ダリオが頷くと、カーシュが首を傾げた。 「小僧、うちの方は良いのか?」 「うん。丁度今日は、えっと…うちの母は慰安旅行で留守です!」 わざとらしく改まった言い方をして、セルジュはダリオに目配せをした。今夜はゆっくり出来るという合図だ。ダリオは少したじろいだが、小さく頷いた。カーシュだけが、何も知らずにセッセとランチの準備に励んでいる。 「そんならかえって、ダリオんとこに行けるのはラッキーだな。あ、小僧。手伝ってくれるんなら、混まない今の内にランチ食っとけ。ダリオもな。」 「はーい!」 ダリオも憮然とした表情のまま頷いた。 「ああ。」 外は木枯らし。ダリオの胸の内も木枯らし。
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| 言い訳 悪のり(^^ゞ。 セルジュvsダリオ、1回戦はセルジュの勝ち! いやー、でも、ポニーテールのカーシュって凛々しくてカッコイイですよね。あのままの方が良かったのになぁ、という思いも込めて(笑)。 さて、2回戦…(爆)。
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