ご注意! これは、某サイト様のクロノクロス企画「非日常茶飯事」の設定を使わせていただいてます。そのサイト様がクロクロ活動を休止されてしまったので、こちらに入れることに致しました。 カーシュ=喫茶店「アカシア」のマスター。 |
| マ・ジ |
「ふぇ〜!イシトさん、ヘルプー!!」 喫茶店「アカシア」の静かな午後は、飛び込んできたセルジュの大声に打ち壊された。カウンターの一番奥で本を読んでいたイシトが、苦笑しつつ顔を上げる。 「どうしたんだ?君が泣き言なんて珍しいね。」 セルジュは大袈裟に泣きそうな顔をしてイシトの隣に腰掛けた。 「宿題の詩人のレポート、ちょっと本気出したらさぁ、なんかコンクールに出すから書き直せって言うんだよぉ。ボク、もう書くことなんか無いのに…。」 いつもふざけているセルジュだが、学校では成績優秀な優等生で通っているらしい。母親と二人暮らしの彼は、エルニドの助成金を得ていることもあり、成績を落とすわけにはいかないのだ。 「へぇ、じゃ、レポート、良い出来だったってことだよね?」 イシトは、セルジュの差し出したレポートに目を走らせた。カウンターの中からはカーシュが覗き込み、脇からは洗い物を手伝っていたグレンが覗き込む。 「なんで、現役学生の俺に泣きつかないんだよぉ…。」 不満げだったグレンも、文学は不得手と見えてすぐに口をつぐんだ。カーシュに至ってはちんぷんかんぷんだ。イシトだけが、さすがに文筆業の人間らしく、ふんふんとしきりに頷いている。 「ああ、この詩人の資料、うちにあるよ。去年だったか、ちょっと紹介文を書かなきゃいけなくてパレポリから取り寄せたんだ。役に立つといいけどね。」 セルジュがパッと顔を起こし、歓声を上げた。 「ホント!?やったー!さすがイシトさん!それ、見せてくれる?」 久しぶりに専門分野に関わることになって、イシトもちょっと面倒を見る気になったらしい。読んでいた本を閉じて、イシトは頷いた。 「いいよ。じゃ、早速うちへ来るかい?」 「行くー!!」 セルジュはうれしそうに両手を上げて大はしゃぎだ。カーシュが複雑な面持ちでたしなめる。 「おい、小僧、あんまり騒ぐんじゃねぇ。他のお客に迷惑だろうが。イシトんとこでも、迷惑かけるんじゃねぇぞ。」 彼は内心、悪戯好きのセルジュと二人きりになるイシトが、ちょっと心配なのだ。セルジュは神妙に小さくなった。 「ごめんなさい…。」 こういう所は、実に素直な青少年なのだが…。カーシュはフンと小さく溜息をついた。 「ま、コーヒー一杯くらい飲んでいけよ。」 「うん、ありがとう!」 セルジュはニコニコと笑った。 「あれ?これ、イシトさんのお母さん?」 イシトのアパートの書斎で資料を借りたセルジュは、イシトの関係した著作物の中から、家族へのインタビュー記事を見つけて声を上げた。『新進作家!』と言う記事だ。そこにはイシトと並んで立つ、年輩の女性の写真があった。 「…ああ…。」 イシトがちょっと眉を寄せて答える。セルジュは屈託無くその写真に見入っていた。 「やっぱり〜。そっくりだよね。イシトさん、お母さん似なんだ。」 写真の女性は、イシトと同じきれいな金髪と碧眼の、若い頃はさぞ美しかっただろうと思われる容姿をしていた。 「ああ、よく言われる…。」 イシトの、何か重たげな態度に、セルジュは静かにイシトに目を向けた。 「…イシトさん、お母さんのことキライなの?」 イシトはハッとしてセルジュを見返した。 「え…そんな風に見えるかい?」 セルジュは、また雑誌の写真に目を落とした。 「そういうわけじゃないけど…でも、素直に好きっては言えないカンジ。ボクもそうだから、何となくわかる…。」 イシトが怪訝そうに腕組みをして首を傾げた。 「君が?…だって、カーシュやグレンが、君のところはすごく仲のいい親子だって…。」 セルジュはキュッと唇を咬むと、勢いよく言葉を並べたてた。 「仲、良いよ、すごく。仲良くしてる。親孝行もしてるつもり。心配掛けるようなことしてないし、学校じゃ優等生で通ってる…。」 いつもとは様子の違うセルジュに、イシトは戸惑っていた。 「セルジュ…?」 セルジュはクスクス笑った。 「だって、お母さん、一人でボクのこと育ててくれたんだもんね。良い子にならなきゃ悪いもんね?…こないだ、先生との父兄面談があってね、息子さんは理想的な青少年ですって、そう言われたって、お母さん、すごく喜んでた…。」 「無理…してるの?」 イシトの言葉に、セルジュは肩をすくめて見せた。 「別に、無理じゃないよ…悪いコトして損をするのは自分だし、良い子にしてれば周りのウケけも良くてラクだし…。」 イシトは驚きを隠せなかった。 「君は…そんな風に思ってたの…?」 セルジュはちょっと俯いて頭を振った。 「困らせたくはないんだ…お母さんは優しい…いつもボクを見ていてくれる。でも、ボク、知ってるんだ…お母さんはボクを見てるんじゃない…いつも、ボクを通してお父さんを見てる。もう居ないお父さん。行方不明になって、帰ってこないお父さん。それでも、お母さんは、いつか帰ってくるって、今でも信じてるんだ…。」 セルジュはイシトの方を見て、クスッと笑った。 「夜にね、外で小さな物音でもすると、お母さんハッとして、息を殺してじっとドアを見てるんだ。可笑しいでしょ。もう、いなくなって10年だよ。それでも帰ってこないのに、どうして生きてるなんて信じられるの。」 イシトは、ただ、何かに憑かれたように話し続けるセルジュを見つめていた。 「すねてるわけじゃないよ。当たり前だもん。お母さんはお父さんを好きで、とっても好きで結婚してボクを生んだんだから…今でもそんな風に思ってるの…当たり前…。」 セルジュは言葉を詰まらせ、ちょっと黙り込んだ。鼻を啜る音がする。セルジュはイシトから目を反らし、ぼんやりと窓の外を眺めて話し続けた。 「お母さんはボクを愛してくれてる。それを疑ってるわけじゃないんだ。でも…お母さんに必要なのはボクじゃない…お父さん…ボクの中のお父さんの面影…。ボクが大きくなるにつれて、それは尚更はっきりしてくる。お父さんに似てきたねって、お母さん、うれしそうに笑うんだ…。」 「セルジュ…!」 イシトはセルジュが痛ましくて、その頭を自分の胸に抱き寄せた。堰を切ったように、セルジュはしゃくりを上げて泣き出した。 「だから…ボク、ボクを本当に必要としてくれる人が欲しいだけなんだ…ボク、ずっと…探してた…ボクの居場所…本当のボクの居場所…。」 イシトはセルジュの頭を肩を背を、繰り返し撫で続けた。いつも目にしていた、明るく元気なセルジュはそこには居ない。悪戯な目をして、カーシュや自分をからかうセルジュは、彼は、他者を欲していたのだ。いつも誰かと関わっていたかったのだ。そうして、彼もまた自分と同じに、自分を解放してくれる存在を求め続けている。イシトは、セルジュの背を撫でながら呟くように言った。 「私もだよ、セルジュ…私も、エルニドへ居場所を探しに来たんだ…。」 セルジュが泣き濡れた目を上げる。 「…イシトさんも?」 イシトが微笑んで頷く。 「ああ…私の母はね、私自身でなく、自分に似た姿の私の、才能を愛してるんだ。いや、可能性、と言うべきかな?」 イシトはセルジュの頬の涙を、その指先で拭ってやった。 「小さい頃から、いろんなことをやらされた。いや、子どもの頃はやらされてるとは思ってなかったけどね。そうして彼女は、私が文学賞をとると、もう、自分のことのように喜んだ。当然と言えば当然だけど、それからがちょっと、いろいろあってね…。」 イシトは言葉を濁し、哀しげに笑った。セルジュははれぼったくなった自分の目をこすり、改めてイシトを見つめた。 「イシトさんは、それで、見つけたんだね?」 「え?」 「居場所。ここで、エルニドで、イシトさんは見つけられたんだね?」 イシトは、ちょっと頬を染めて微笑んだ。 「あ、ああ…見つけた…かな?」 セルジュはじっとイシトを見つめた。彼には判った。イシトは、当時はちょっとした知り合いだっただけのカーシュを頼ってエルニドへ渡ってきたのだという。小説を書くために気分を変えたかったのだと。だが、そうして彼は、居場所を得たのだ。喫茶店「アカシア」。そして、カーシュという居場所を。 セルジュはもう一度ゴシゴシと目をこすり、ニッコリと笑った。 「ごめんね、変なこと言っちゃって。ボク、今日、どうかしてたんだ。資料、ありがとう。帰って、レポート頑張るよ。」 セルジュがちょっと持ち上げて見せた資料に、改めてイシトは目を向ける。薄幸の詩人。やはり母親との確執を抱えていた詩人。だからなのか。セルジュがこの詩人を取り上げようと思ったのは。そして、その資料を調べたことで、自分の中の悲しみも沸き上がってきていたのに違いない。自分の母親にさえ、そういう悲しみを隠しているセルジュ。イシトは、もう一度セルジュの頭を軽く撫でて微笑んだ。 「君の居場所、早く見つかると良いね。」 セルジュはクスッと笑った。 「ホントはイシトさんに居場所になって欲しかったんだけど、ダメみたいだね。」 もう、セルジュは自分を立て直していた。イシトはちょっとたじろいだ。セルジュは資料を手に、ドアを開けながら振り返ってウィンクした。 「イシトさんの居場所とバッティングしないように、せいぜい気を付けるよ!」
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| 言い訳 こんなところで母子関係を語るとは(笑)! でも、私も反省してますです。ついつい息子を自己と同一視したり、スポイルしてしまっているのではないかという危惧は常に持ってます。しかし、何も「非日常茶飯事」で語ることもないでしょうにねぇ…(^^ゞ。 ちょっと強引な展開ながら、今回はセルジュがただの小悪魔でないことを示したかったのです。そして、このイシトの母子関係は、次回、感動の(?)フィナーレへの布石。 題名は、このシリーズ1作目が「こ・い」だったので、ちょっともじってみたのもあります。マジな内容ですし。 「共犯者」のダリオへの「本気になってくれるんなら」というつぶやきは、結構本当だったりするんですよ。 しかし、セルジュってば、立ち直りの速いヤツ…。やっぱりカーシュに矛先を向けてみようかって? それはダリオさんが許さないでしょう!吹っ切れたダリオは最強よ、やっぱり(笑)。 2000.11.10
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