ご注意!

 これは、某サイト様のクロノクロス企画「非日常茶飯事」の設定を使わせていただいてます。そのサイト様がクロクロ活動を休止されてしまったので、こちらに入れることに致しました。
 クロノクロスのキャラを現代に置いてみたら、という設定で小説、イラストを募集!という企画でした。基本設定は下記の通り。なかなか楽しげな設定なんですが(笑)。

カーシュ=喫茶店「アカシア」のマスター。
イシト=カーシュの親友で、作家。当然ながら「アカシア」の常連。
セルジュ=近所の高校生。一見優等生なのだが・・・?
グレン=カーシュの幼なじみ。大学生。時には「アカシア」を手伝ったり?
ダリオ=カーシュの幼なじみ。言わずと知れたグレンの兄。優秀な営業マン。

 

 それぞれの場所 

 


 喫茶店「アカシア」の日曜日。仕事が休みのダリオは、書き入れ時のランチタイムの手伝いに駆り出されていた。いつもはグレンがアルバイト代わりに手伝うのだが、生憎、遠征中で留守なのだ。セルジュもまた、イシト目当てに朝から入り浸っていた。セルジュはイシトに、奥のテーブル席で先日のレポートの報告をしている。
「ホントに資料、助かったよぉ。それでね、イシトさんち、また本見せてもらいに行っていい?」
新しく書き直したセルジュのレポートを読んでいたイシトは、微笑んで目を上げた。
「…良いよ。うちで何かおもしろそうな本、見つけた?」
「ウーン、わかんないけど、いろいろ読んでみようかと思って。」
イシトは声を落として、セルジュの顔を覗き込むように言った。
「そうだね。書物の中に、何かを見つけることもあるからね。」
「うん…。」
セルジュはちょっと照れたように笑って頷いた。
 二人の親密そうなやり取りを、先程から見るともなく見ていたカウンターの中のカーシュは、我知らず唸っていた。
「むがががががが…。」
隣で野菜を切っていたダリオがプッと吹き出し、カーシュがジロリと睨んだ。ダリオは笑った。
「そんなに気になるんなら、ちょっと一言、セルジュに文句言って来いよ。」
「ダリオ…。」
ダリオの気遣いに、さすがにがさつなカーシュも気が咎めてしまう。だが、ダリオはトレーに水の入ったコップを載せて、カーシュに持たせた。
「ほらっ。そんなに気が散ってるんじゃ、仕事になんないだろっ。」
カーシュがわずかに頬を染める。
「おまえ…ほんっと、良いヤツだな…。」
「なーにを今更…。」
ダリオは笑って、トレーを手にしたカーシュの背を押し、カウンターから出した。カーシュはダリオを振り返って照れくさそうに笑い、イシトとセルジュのいるテーブルに行って、ドンとコップを乱暴に置いた。
「おい、小僧。イシトの仕事の邪魔すんなよ。まったく、本なら図書館とか行きゃあいいだろうに。」
セルジュはカーシュを後押ししたダリオに気付き、チロリと睨んだ。だが、イシトはこの間セルジュの涙を見てからというもの、何となくセルジュを気遣っている。
「良いんだよ。今、特に原稿の依頼もないし、本を読むのは良いことだよ、ね?」
イシトはセルジュに笑い掛けた。カーシュはクルリと後ろ向きになり、唇を咬んだ。
「むぐぐぐぐぐぐ…。」
カウンターの中のダリオは呆れたようにクスクスと笑い、セルジュもニコニコと笑って、これ見よがしにイシトの腕をとった。
「じゃ、行こっか、イシトさん。」
「ああ。じゃ、カーシュ、ダリオ、またね。」
イシトが先に立ってドアを開けて振り返る。セルジュは小走りにカウンターに駆け寄り、ダリオに向かって小声で文句を言った。
「イーだ!ダリオさんの、裏切り者!」
そのままセルジュはイシトの後を追って店外へ駆けていった。ダリオは笑いながら肩をすくめた。
「やれやれ、穏やかじゃないねぇ…。」
カーシュがカップをカウンターに下げて来て、ダリオを軽く睨んだ。
「おまえ…なんだかんだ言って、面白がってねぇか?」
ダリオは悪びれずに済ました顔で言った。
「人生、何事も楽しまなくちゃね。」
カーシュは大きな溜息をついて、またランチの準備に取りかかった。
 店内は再び静けさに包まれた。日曜は、昼近くにはかなり込み合うのだが、今はまだ他の客は居なかった。だが、程なく、セルジュが店に飛び込んできた。
「なんだ?忘れもんか?」
カーシュが声を掛けるが、様子がおかしい。息を切らし、悲愴な顔をしている。
「おい、どうしたんだ?小僧。」
「…イシトさんの…お母さんが亡くなったって…今、知らせが…。」
カーシュとダリオが、思わず眉を寄せて顔を見合わせる。言い切って、少し気が緩んだのだろう、セルジュの目が見る間に潤む。
「マスター!行ってあげて!!」
セルジュは叫んだ。
「イシトさん、ぼおっとしちゃって、いくら声を掛けても、ダメなんだ…!」
セルジュは俯いて、スンと鼻を啜った。
「イシトさん、お母さんと、なんだかいろいろあったみたいなんだけど…。」
セルジュは改めて目を上げ、カーシュを見つめた。
「ボクじゃダメなんだ。ボク、イシトさん大好きだけど、ボクじゃダメなの。ボクじゃ支えてあげらんない。マスター!行ってよ!お店は、ボク、なんとかするから。ボク、ちゃんと洗い物とかしておく。ね?行ってあげて!」
「…小僧…。」
カーシュはセルジュを見つめた。セルジュは涙を浮かべながらも、真っ直ぐにカーシュを見つめ返し頷いた。
「店、臨時休業にしといてくれ…。」
カーシュはエプロンをむしり取るように外し、ダリオに告げた。カーシュはイシトのアパートへ向かって走り出した。ダリオはカーシュの投げ捨てたエプロンを拾い上げながら、セルジュを横目で窺った。
「…良いのか?」
セルジュはカーシュが走り去った方をじっと見つめてかすかに頷き、呟くように言った。
「ダリオさん…ごめんね、ボクの方が裏切り者だ…。」
ダリオが小さく笑ってセルジュの顔を覗き込む。
「無理したな…。」
セルジュはクルリとダリオに背を向け、グッと何かを飲み込むように息を止めた。その、いからせた肩が痛々しい。ダリオはセルジュの頭をぐいっと掴んで自分の胸に抱き寄せた。
「セルジュ…本気になってやるから、俺で我慢しないか?」
セルジュが驚いて、涙の滲む目を上げ、眉を寄せた。
「ボク、マスターの代わりにはなれないよ…?」
ダリオが笑った。
「当たり前だ。なられてたまるか。カーシュはカーシュ、おまえはおまえだ。…今の、かっこよかったぞ。」
ダリオはセルジュの顔を覗き込み、その頬を軽くつねって笑った。
「今、惚れた。」
セルジュの泣き濡れた顔にわずかに笑みが浮かぶ。
「ダリオさんて、優しいんだ…。」
ダリオはセルジュの背を優しく撫でた。
「こないだだって、優しくしたつもりだが?」
セルジュが目を丸くして言葉を失い、それからプフッと吹き出した。
「やだなぁ、もう…。」
セルジュの顔が、見る見る赤く染まる。
「本気になってくれるんなら、俺でもいいって言っただろ?」
ダリオが、セルジュの涙を指でふき取りながら囁く。
「どうだ?俺で手を打つか?」
セルジュは頬を染めながら、微笑んでダリオを見上げた。
「…それ、いいかも知れないね…。」


 カーシュがイシトのアパートに入ると、室内には荘厳な音楽が流れていた。イシトの姿は見えず、カーシュは内心焦りながら、室内を見回した。
「レクイエムだ…。」
唐突にイシトの声がした。
「母の好きだったフォーレのレクイエム…。」
声のした方を探ると、イシトは窓辺の束ねられたカーテンの影に、子どものように膝を抱えて座っていた。
「あ、そんなとこに居たのか…。」
カーシュは幾分ホッとして、イシトに歩み寄った。
「子どもの頃、イヤなことがあると、こうして時の過ぎるのを待ったものだった…。」
そう言って虚ろに笑うと、イシトは傍に来たカーシュを見上げた。
「店はどうしたんだ?」
「…小僧が、行けって…泣きながら言うから…。」
カーシュは照れくさそうに、赤くなった顔を背けるようにして言った。
「セルジュが…。」
「ああ、心配してた…。」
イシトが俯く。
「悪いことをした…さすがにショックで…彼を気遣ってやれなかった…。」
「当たり前だろ。お袋さんが死んだってんだから…。小僧だって、判ってるさ。」
イシトは首を振った。
「…私は、母を憎んでいた…。」
カーシュが驚いて見つめる。
「憎んでいると思っていた…。彼女の死で、こんなに自分がショックを受けるなんて…驚いた…。」
イシトは目を閉じた。
「憎んでいた。でも、多分、同じほどに愛し、求めてもいた。…私を生み、育てた人だ…。」
「そうだよ。お袋さんがいなけりゃ、おまえは居なかったんだし、そしたら、俺もおまえに会えなかったんじゃねぇか…。」
イシトがゆっくりと目を開け、カーシュを見つめた。
「感謝しなくちゃいけないな…。」
カーシュが、イシトの前にかがみ込み、イシトは、そのカーシュの肩に両手を掛けた。
「君に出会えたこと…母が私を生まなければ、君との出会いもなかったのか…。」
イシトが、その、初めて会ったときに強烈な印象を残した蒼い眼で、じっとカーシュを見つめる。
「ありがとう…君に会えて良かったと思ってる。」
「な、何、改まってんだよ!」
カーシュが照れて、イシトの手を振り払うように立ち上がる。イシトも釣られるように立ち上がった。
「今夜の飛行機が取れたんだ…パレポリに帰るのは、こっちへ来て初めてかな…。」
イシトは足元に目を落として呟いた。カーシュは、何か心がうずくような感じがした。
「おまえ…まさか、帰って来ねぇのか?」
「え?」
イシトが目を上げてカーシュを見る。
「パレポリはおまえの故郷だろうが、今のおまえのうちは、こっちだろ?帰ってくるよな?エルニドに…。」
カーシュがイシトの蒼い眼に、その真意を探り出そうとする。イシトは、それを隠そうとするかのように、再び目を伏せた。カーシュがイシトの両腕を掴み、正面を向かせる。
「イシト…!」
「判らないんだ!そんなこと、向こうに行ってみないと判らない。母がパレポリの家を管理していたから、私は気ままにこっちで暮らせた。でも、もう、母は居ない…。」
カーシュの視線を逃れるように首を振ってそう言ってから、イシトは改めて母親を失ったことを実感したのだろう、唇を咬んで黙り込んだ。カーシュは眉を寄せてイシトを見つめた。
「…帰ってくる気はあるんだろ?おまえ、エルニドが好きだろ?おまえ、ここにいたいって、そう言ったろ?」
「カーシュ…。」
イシトが目を上げ、カーシュを見つめ返す。カーシュは、先程から掴んでいたイシトの両腕を強く引き、イシトを抱き締めた。
「帰って来い!必ず帰って来いよ…ここへ。」
「ここへ…?」
イシトが少し身体を離し、カーシュを見つめた。
「君のところへ、帰って来ていいのか?初めてエルニドへ来たときのように、君のところへ…帰って来ていいのか…?」
カーシュは、その眼の強さに少したじろいだが大きく頷いた。
「そうだ。ここへだ。俺のそばに帰って来い。」
イシトは、もう一度じっとカーシュを見つめてからゆっくりと目を閉じ、カーシュは引き寄せられるようにその瞼に口づけた。イシトの両腕がカーシュの首に回される。やがて、唇が触れ合う。
 長い時間、二人はそのまま動けなかった。
「…不謹慎かな…母親が死んだっていうのに…。」
ようやく身体を離して、イシトが苦笑した。カーシュもちょっと赤くなる。思わず抱き締めてしまったが、自分はまだイシトに好きだとも言っていなかった。だが、イシトはすぐにまたカーシュの肩に額を押し付けた。
「でも、やっとキスしてくれたな…。」
「え…。」
カーシュがうろたえる。
「君のそばに来て、もう4年にもなるのに…。」
イシトは顔を上げてカーシュを見つめた。
「ええ…!」
カーシュはまたうろたえる。
「まったく、君は鈍いんだから…。」
「えええ…!?」
イシトは、真っ赤になっているカーシュに軽くキスをした。
「私の居場所。」
「あ?」
カーシュが頬を赤らめたまま怪訝そうな顔をする。イシトは目を伏せて口の端で笑った。
「この間、セルジュが言ってたんだ。彼は、自分を本当に想ってくれる人を、自分の本当の居場所を探してるんだって。」
「小僧が…?」
カーシュがちょっと意外そうに目を大きく見開いた。イシトはカーシュを見つめた。
「私の居場所…君…で、いいんだよな?」
「イシト…。」
カーシュは、もう一度、イシトを抱く腕に力を込めた。
「そう、ありたいと思ってる。おまえの帰る場所に…。」
改めて唇が重なる。
「帰って来いよ。絶対…!」
イシトが微笑む。
「…帰ったら、小説を書くよ…書きたいことが出来た…。ここで、エルニドで、私はようやく居場所を見つけた。ここで、エルニドで…小説を書くよ。」




FINE.

 

言い訳
最後はちょっと力尽きました。(爆)
描きたいテーマはあるのですが、どうにも力量不足です。
突っ走ってきた「非日常茶飯事」も、とりあえずこれで一段落。
誰にでも、居場所は必要なのです。人は、やはり一人では居られない。一方通行のままでは、いつか力尽きる…。そんな思いを込めながら書きました。あんまり関係ないですかね。あはは。(だからぁ、なんで「非日常茶飯事」にそういうものを持ち込むかってぇ…(^_^;)。

最後のシーン、どうせならもうチョイ押そうかとも考えたのですが、シチュエーション的に喪中じゃないですか。パレポリから帰ってからね。それまで、お預けよ、と(笑)。
このシリーズ、イシトとカーシュより、なんか後半はセルジュとダリオにシフトしちゃってた気もします。
大きな流れとしての「非日常茶飯事」のストーリーは、私のものとしてはこれで終わりです。
ただ、ダリオとセルジュのその後、とか、帰ってきたイシトとカーシュとか、書こうと思えば書けると思うので、書く気になれば、また書きます。
あ、もういいですか?(^^ゞ


2000.11.12