何なのだろう。
これは何なのだろう。
仲間を案ずる気持ち。
共に戦いを生業とする者同士の共感。
そして、友情―――。
様々に理由を付けて正当化しては見るものの、そのどれもが足りない。
気が付けば、目で追っている。
大勢のざわめきの中にいても、この耳はおまえの声を拾う。
おまえの目線ひとつに、ちょっとした仕草に一喜一憂する。
まるで、初めて恋を知った少年のように―――。
―――恋?
恋だというのか?
そう思い至ったときの愕然とした気持ちを、俺は今も忘れてはいない。
幾度も幾度も否定し、打ち消し、それでも尚、惹かれていく。
何故だ? 何故、おまえなのだ?
愛して止まなかったあの女(ひと)に、髪の色も眼の色も、何一つ似てなどいないのに―――。
今にして思えば、子供じみた真似をしたと思う。
だが、表面だけの付き合いなどごめんだ。
指揮官と指揮官、それだけのやり取りで終わりたくなかった。
おまえの中に少しでも踏み込みたくて、わざとおまえを怒らせ、傷付けた。
ケンカすることしか、俺は、おまえに近付く術を知らなかったのだ。
そして、ある日突然、均衡は破れた。
***
『パレポリ軍は、これより死炎山の北側、地点9−6より7−7へ展開する。龍騎士団は上陸地点1−2より西へ進路を取り、地点5−5付近で合流。敵を挟み撃ちの想定で行う。地点5−4に至ったら、連絡を請う。どうぞ』
死炎山近くの海上に浮かぶ船の中で、カーシュの手にした四角い箱から、イシトの声が聞こえる。イシトがパレポリ本国から持ち込んだ無線機とか言う代物だ。カーシュは憮然とした表情でその箱の横にある赤いボタンを押した。
「判った!」
カーシュは短く言って、小型無線機のスイッチを切った。フーッと大きな溜息をつき、カーシュは複雑な表情で無線機を見つめた。
本当は、もっと声を聞きたかった。話したかった。だが、何を話すことがあるのだろう。自分はイシト個人のことを何も知らないのだ。そして周囲にはそれぞれの部下がいる。個人的な会話など望むべくもない。
初めて会った日、いきなりケンカになった。つい、ケンカを売ってしまった。この合同演習の打ち合わせの間に、幾度言い合いをしたか判らない。
知りたかったから―――。
どんなことに腹を立て、何を信じ、大切にするのか。
カーシュは無線機をしまい、軽く頭を振った。
「おい! 上陸するぞ! 上陸したら、死炎山の西側に回る。地点5−5で挟み撃ちにする想定だ」
カーシュは部下に声を掛け、勢いよく立ち上がった。
***
龍騎士団との合流予定である、地点5−5を目前にして、イシトは苛立っていた。パレポリ軍はずいぶん前にその地点の見える場所まで至り、待機していた。イシトは全体を見渡せる小高い丘の上に立ち、先程からカーシュからの連絡を待っていたのだ。
「まったく、我々よりも地の利には明るいはずなのに、何を手間取っているんだ…」
死炎山の暑さも手伝い、苛立ちは増す。
「隊長! あれを!」
そばで双眼鏡を覗いていた部下"1(アイン)"が、地点5−5の向こう側を指差した。イシトがそちらへ目を向けると、突進してくる龍騎士の一団が見えた。
「地点5−4で連絡を寄こせと言ったのに! 仕方がない。我々も突入する!」
イシトはそばの部下たちに指示を送り、自分も暑い丘を駆け下りていった。
〜続く〜
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