震える躰 抱き締めて
好きだ と 幾度も囁いた
好きだ と
まるで呪文のように
好きだ
好きだ
繰り返し 繰り返し
おまえの躰にしみ通り
頑なな心を 解かすように
「なぜ……」
躰を重ねたままのカーシュの肩越しにぼんやりと天井に目を向けていたイシトが、ぽつりと口にした。
「ん?」
怪訝そうに躰を起こし、じっと見つめるカーシュの視線を避けるように、イシトは目を伏せ、顔を横向けた。
「いや……」
それでもカーシュはじっとイシトを見つめ、やがて口の端を上げて小さく笑った。
「おまえを好きだってぇのに、理由が要るのか?」
イシトの短い問いの意味が、カーシュには伝わっていたのだ。イシトは横を向いたまま、わずかに頬を染めた。カーシュはイシトの横に起き直り、フッと短い息を吐いて頭を掻いた。
「俺は、理屈とか苦手だから上手く言えねぇ……」
「私を、憎んでいたんじゃないのか……?」
イシトが、相変わらずぼんやりとした調子ながら、畳みかけるように言う。カーシュはイシトの表情を窺おうと、その顔を覗き込んだ。
「おまえこそ、俺を恨んでるんじゃねぇのか? ひでぇこと言った上に、こんなこと……」
イシトは目を上げ、チラリとカーシュの顔を見た。
「……恨んでいて欲しかったか?」
カーシュはとんでもないと言うように、軽く肩をすくめた。
「気にしていない、と言ったら、君は怒った……」
カーシュは照れくさそうに頬を赤くし、少し口を尖らせる。
「あれは……俺が、おまえにどうやって詫びようかってずっと悩んでて、そのうち変におまえが気になってしょうがなくなって……それなのに、あっさり気にしてないなんて言われたから……」
「知ってたからな……君が見てるのは……」
イシトが言葉を重ねる。
「君が、気が咎めているらしいのは気付いてた。そして、じっと私を見てるのも……」
気付かれているとは思っていなかったのだろう、カーシュは無言で頭を掻いた。
「その視線の意味を知りたいと思っていた。でも、振り向くと君は目をそらしてしまう……だから、今夜君が来てくれて、うれしかったんだ……」
「怒ってないのか……?」
相変わらず背を向けたままのイシトに、カーシュが尋ねる。
「怒って……いるのかな、私は……」
イシトは自問するように呟いた。
「……驚いたけれど、厭だとは思わなかった自分が不思議なんだ……」
カーシュはホッとしたように、そっと手を伸ばし、イシトの肩を抱いた。
「怒ってないんなら、こっち向けよ……」
だが、イシトは背を向けたまま、うつ伏せるように顔を枕に埋めた。
「……振り向くと、君がまたよそを向きそうな気がする……」
イシトは独り言のように呟く。
「背中で、いつも君を感じていた……背中で、君を見てた……」
「イシト……」
カーシュが、その言葉の意味を確かめるように、そっとイシトの背を撫でる。イシトはふと何か思いついたように、わずかに顔を横向けてカーシュを見た。
「知ってるか? パレポリの特殊部隊の人間は、背中に人工の眼を埋め込まれるんだ」
「え……!」
カーシュは思わず、まじまじとイシトの背中を見つめた。だが、そこに、そんなおぞましいものなど、あろうはずもなかった。
「本気にするなよ、冗談だ」
イシトは可笑しそうにクックッと肩を揺らした。思わずカーシュに惹かれつつある自分の気持ちを吐露してしまったことを誤魔化そうと、彼らしくもない冗談を口にしたのだ。カーシュは憮然とした顔で頬を赤くしたが、すぐに微笑んだ。
「……やっと笑ったな」
イシトは、ハッとしたようにカーシュを見返した。カーシュはしみじみとイシトを見つめる。
「そういう顔も……良いな」
恥ずかしそうに、また顔を枕に埋めようとするイシトの、まだ少し笑みの残るその頬に、カーシュはそっと口づけた。
「いつものおまえ……ギリギリの場所に立ってるみたいに、張りつめてるおまえも好きだけど、もっといろんなおまえを見たいな……」
カーシュには判っていたのだ。祖国パレポリの軍人としての立場、自分自身の良心や意志、そうしたものの狭間で、揺れ動きながらも必死で自分を律しているイシトの苦悩。
イシトは黙って眼を上げ、その蒼い眼でじっとカーシュを見つめた。
好きという言葉は
呪文のように私を変える
繰り返し しみ入る
その言葉の暖かさ
呪文のように私を解かす
好きという言葉
Ende.
〜おまけv〜
ちょっと甘やかなのでご注意!
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