埋み火
〜傷〜

 

おまえの眼が、ふと、あらぬ方を見つめることがある。
そんなこと、誰にでもあることだ。考えすぎだと、いくら自分に言い聞かせてもどうにもならない。俺は自分を止められない―――。



「…誰を見てるんだ…!」
カーシュは、窓辺で本を手にぼんやりしていたイシトの腕を、いきなり強く引いた。
「…どうしたんだ…」
イシトの怪訝そうな顔。床に落ちた本。強く握られたままのイシトの腕。カーシュは慌てて腕を放し、落ちた本を拾って手渡した。
「…何でもねぇ…ちょっと、なんか勘違いしたみてぇだ…」



言えやしない。
嫉妬しているなどと。
居もしない、もう一人の自分に、嫉妬しているなどと。



イシトが気遣わしげに眉を寄せる。



言えやしない。
だが、イシトは気付いている。
俺が、Homeの自分に嫉妬していることを。
もう居ない、もう一人の俺。
イシトのいた世界に、かつて存在していた俺。
かつて、イシトが心惹かれた、もう死んでしまった、あっちの俺…。



「…イシト…!」
カーシュは懊悩に耐えきれず、イシトを抱き寄せた。
「…おいっ…まっ昼間っから…」
イシトが身をよじる。
それでも、イシトには判っているのだ。カーシュの心を苛むものが何か。
だから拒みきれない。カーシュの悲愴なまでの熱情。

 抵抗もむなしく、イシトはベッドに押し倒された。カーシュは荒々しくはだけたイシトの胸元に唇を這わせる。
「カー…シュ…よせっ…」
イシトの抗議の声から次第に力が失われ、やがてかすかな喘ぎに変わる。固く閉じた瞼は、まるで自分に起きていることを拒もうとするかのようだ。だが、カーシュの手がその衣服を剥ぎ、愛撫がその身の中心に及ぶと、イシトの手はカーシュの頭を抱いた。
「あ…カーシュ…やめ…っ…」
 日頃快活なカーシュの、どこにこんな陰惨な感情が秘められているのかと思うほどに、カーシュの愛撫は激しく、また執拗だった。カーシュは苦しげに眉を寄せてイシトを抱く。愛しくて、と言うよりも、そうせずには居られなくて。
「…ん…あぁっ…!」
 唇でイシトの唇を貪り、片手でその胸の蕾を弄んでいたカーシュの空いたもう一方の手が、イシトの秘所に向かって内股をかすめた。思わずイシトが身を固くする。だが、それより早く、カーシュの指はその入り口を探り当てた。
「…ん…んっ…」
唇を塞がれたイシトが、苦しげに吐息を漏らす。カーシュの指先は敏感な秘められた入り口を開かせようと、巧みにその辺りを愛撫する。やがてイシトの脚が緩み、その腕がカーシュの腰に回される。カーシュは、ゆっくりと自身をそこに滑り込ませた。
「…あぁぁっ…イシト…!」
ようやく唇を離して、カーシュは深いため息をつく。
 だが、イシトの眼が緩く開かれ、その視線がカーシュの肩越しに宙をさまようと、カーシュは再び、自分ではどうにもならない思いに囚われる。



俺は、代わりに過ぎないんだ。
イシトが本当に想うのは、Homeの俺。
イシトはいつも見ている。
俺の肩越しに、もう居ないHomeの俺を。



 カーシュは自身をイシトの中に置いたまま、唇をイシトの胸に戻し、片手でイシト自身を弄ぶ。
「あっ…はっ…ぁあぁっ…!」
イシトが狂ったように首を左右に振り、カーシュの背に回した指先に力が込められる。
「カー…シュっ…あ…っ…!」
それでも、カーシュは愛撫の手を緩めない。イシトの爪がその背に食い込んでも、カーシュは更にイシトを攻め続けた。
「イシト! イシトっ…!」



頬に掛かるおまえの吐息。
背に食い込むおまえの爪痕。
それだけが、俺の証し。
おまえの中に居るのが、誰でもない俺自身だという事の、それだけが証し…。

やがて目を開けたおまえの蒼い瞳が、じっと俺を見つめる。
俺だけを見つめる。
おまえの指先が、そっと俺の頬をなぞる。
一時、満たされ、慰撫される俺の想い。
だが…。
消えたかと思うとまた燃え上がる埋み火のように、俺に燻る想いは俺とおまえの傷。
傷ついても尚、止められない想い。


FINE.

 


言い訳しかない!
ひっさびさの「埋み火」シリーズ。ハードになって帰ってきました(^_^;)
なぜ、近頃私の書くものがハードになったのか?
いや…あのね、実は以前は、男性同士の究極の行為であるアレf(^―^;が、私には一方に苦痛を強いるものとしか思えなかったんです。
でも、どうやらそうではないらしい、と。(O.O;)(o。o;)
当事者同士がそれで良いなら、良いんですわね。あはは…。
と言うわけで、そういうシーンをちょっとは書けるようになったというだけのことです。
賛否両論おありでしょう。
本来は、想像にお任せ〜的な描写を良しとしておりましたから。
でもまあ、今回のカーシュの苦悩というのは、ちょっとハードな中でこそ描写できるもののように思いまして、あえて挑戦してみました。
暗転方式も捨てておりません。
近頃はカーシュびいきになっちゃって、まだまだ私のカーイシ又はイシカーは続くのです!(笑)

2001.5.10