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〜約束〜 |
イシトは、決して自ら衣服を開きはしない。あくま でも受け身、という姿勢を崩さない。幾度唇を触れ合わせ、幾夜身体を重ねても。 それで良いのだと、カーシュは思う。それがイシトなのだと思う。 カーシュを拒まないということは、イシトの最大の譲歩であり、それはつまり、カーシュを受け入れているという事だ。 少しも積極的になってはくれないイシトを愛撫しながら、それでも、彼が心を許すのは自分だけだと信じられた。押し殺した吐息しか返してくれないイシトを 抱き締めながら、カーシュは満足していた。 いつものようにイシトをベッドに押し倒し、身体を重ね、唇を合わせる。イシトの衣服を緩めながら、カーシュは、頬に、耳元に、首筋に、胸元にと、口づけ を落としていく。イシトはただ、カーシュが衣服を脱がせ易いように、わずかに身体を動かしてやる。それを肯定的に捉え、カーシュはイシトの袖を抜き、上半 身を晒させた。 いつもキッチリと衣服を着込んでいるイシトの身体は、日射しの強いエルニドにあっても、北方の大陸育ちの白さを保っている。カーシュは少し身体を離し、 感嘆するように、小さなため息を吐いた。 「……なにも、全部脱がさなくたって用は足りるだろうっ」 イシトは、剥き出しになった胸から腹にかけての曲線を舐めるように眺めるカーシュに、眉をひそめた。カーシュがそれ以上見つめるのを防ぐために、その頭 を掴んで、自分の顔の横に引き寄せる。シーツに顔を押しつけられた形になって、カーシュはくぐもった笑い声を上げた。恥ずかしげなイシトが、堪らなく可愛 いと思った。だが、イシトの気持を逆撫でするのは得策ではない。旅を共にしていても、それ程多くはない二人きりで過ごせる時間を棒に振るほど、カーシュは 愚かではない。 「……ちゃんと脱がさないと、こういう所にキスできない……」 カーシュは鑑賞を諦め、肩口から腕の付け根に掛けて、唇を這わせた。イシトはビクリと身体を震わせた。腕の付け根は、イシトの感じやすい部分だった。 「……っ! だったら、しなきゃいい」 カーシュは、クスクス笑って、不満そうに歪められたイシトの唇を自分の唇で塞いだ。カーシュの少し厚い唇が、イシトの薄い唇を包む。最初の切迫したよう な口づけとは打って変わって、カーシュはあくまでも優しくイシトの唇をついばんだ。柔らかな感触に、次第にイシトの緊張が解けていくのが判る。カーシュ は、唇を合わせたまま、引き締まったイシトの腹に手を這わせた。 「ん……」 わずかな吐息が漏れる。 カーシュの手は少しずつ上に向かって行き、やがて、胸の筋肉のわずかな膨らみを包んだ。イシトの身体は、軍で鍛えられた筋肉に覆われてはいたが、肌は北 国の人間のきめ細かな滑らかさを持っていた。カーシュは片方の胸をそっと撫でながら、もう一方の胸にうっとりと頬ずりした。イシトは恥ずかしさに耐えるよ うに、目をきつく閉じて横を向いた。その頬が紅潮しているのをチラリと見上げ、カーシュは今度は鼻先と唇で胸を愛撫した。胸の小さな突起が、堪りかねたよ うに硬く身を起こして存在を主張する。カーシュは、そっとそこにキスをした。 「っ!」 イシトは、声にならない声を上げた。追い打ちを掛けるように、カーシュはそれを舐め上げた。イシトは息を殺して、わずかに身体を硬くした。そうしなけれ ば、恥ずかしい声を上げてしまいそうだった。 カーシュは鼻先で緩慢にそこを弄びながら、もう一方の胸を手で撫で回した。焦らすように、一番敏感なはずの小さな蕾には触れない。イシトは無意識にだろ うが、もっと強い刺激を求めて、カーシュに胸を押しつけるように身体を仰け反らせた。カーシュは、イシトのこの反応がうれしくて、焦らすのをやめて、硬く なったそこを指先でキュッとつまみ、同時にもう一方を口に含んで舌先で転がした。イシトは堪らず、押し殺した声を上げた。 「あっ……!」 イシトの身体が硬くなる。忙しくなった息遣いが聞こえる。カーシュは構わず、胸を攻め立てた。 「……はっ……あ……っ」 一層きつく目を閉じて、イシトは快感の波をやり過ごそうと荒い呼吸を繰り返す。 カーシュは、ふと、イシトの胸を弄ぶ手を止め、顔を上げた。 「……なんでかなぁ……。なんでおまえなんだろ? ほんとなら、俺ぁ、グラマーな女が好みのはずなのによぉ……」 言いながら、またイシトの胸をまさぐり始めたカーシュの手を、イシトはピシャリと払いのけた。その勢いのまま上半身を起こし、真っ赤になって言いつの る。 「だっ……だったら、サッサと離れたらどうだ!! 私だって、抱かれるより、グラマーな美女を抱く方が好みだっ!」 「へっ」 カーシュは、イシトの剣幕にも動ぜず、鼻で笑った。 「んな訳ねぇだろ? ホントは女なんか抱いたことぁねぇんだろうが?」 「わっ、私だって女性の一人や二人……! それより、早く離れろと言っているだろうっ!!」 「いやだ」 カーシュはあっさりと言って、睨み付けるイシトの胸に再び顔を埋めた。 「カーシュ! 離せっ!」 イシトが真っ赤になって引き離そうとするが、カーシュは先程の刺激で敏感になったままのイシトの胸の突起に口づけた。 「……っ!」 不本意ながらも、イシトがひるむ。カーシュは勢いを得て、跳ね起きたままのイシトの上体を倒していった。 「判ってんだろ? それでも、俺が今抱きたいのは、おまえだって……」 「……」 まだ怒りをくすぶらせながらも、イシトは口を尖らせて黙った。カーシュは、胸から首筋に向かって唇を這い上らせた。 「おまえがそうしたいんなら、女、抱けよ……」 イシトが黙って眉を寄せる。売り言葉に買い言葉で言ったものの、イシトは、欲望のはけ口として女性を求めたことなど一度もない。これからも、そうするつ もりはなかった。 カーシュは、イシトの耳たぶを口に含んで軽く噛んだ。 「でもよ……抱かれるのは、俺だけにしろ……な?」 言って、カーシュは鼻先でイシトの耳元をくすぐる。イシトは苦笑した。 「随分勝手なことを言う……」 「ああ、勝手だよっ。勝手だけどよ……約束しろ」 「約束?」 鼻先で唇で、耳元を頬を愛撫し続けるカーシュを、いつの間にか受け入れながら、イシトが呟く。カーシュは笑った。 「抱かれるのは俺だけにしろ……そしたら、俺はおまえ以外、抱かないから」 「馬鹿っ……」 イシトがプイと横を向いた。カーシュはちょっと、ムッとした顔をした。 「馬鹿っ、じゃねぇよ。おまえが約束したら、俺も約束する、な?」 カーシュは気を取り直して、イシトの唇を軽くついばんだ。 「な?」 カーシュが重ねて言う。イシトはそっと手を伸ばし、カーシュの顔を両手で挟み込んだ。 「……馬鹿だな……」 イシトは、わずかに笑ってカーシュの顔を引き寄せ、そっと口づけた。 「イシト……」 カーシュは、それがイシトの答えのように感じた。 抱かれるのはカーシュにだけ。 そうだ、判っている。 本当は判っている。 約束なんか要らない。 カーシュは、更に深く、唇を合わせた。イシトはそれを受け入れ、もっとイシトを味わおうと侵入してきたカーシュに舌を絡めた。 馬鹿だな。 馬鹿だな。 そんな約束、出来るわけがない。 私は他の誰にも抱かれたりはしないだろう。 だが、君は誰も抱かずにいられるのか? いつまで一緒に居られるか、判りはしないのに。 そんな約束、出来はしない。 君を縛るような、そんな約束。 君は判ってない。 約束なんて出来ない。 馬鹿だな――。 長い熱いキスの後、イシトは静かに言った。 「約束は……出来ないな……」 ムッと不満げな顔をしたカーシュに、イシトは憮然とした顔を作って見せた。 「だいたい、抱くとか抱かれるとか、私がそんな節操のない人間だとでも思っているのか?」 「……そりゃ……」 そう言われて、カーシュは口ごもる。 「そんな約束、守るのは簡単だ。だが、君の方が約束を守れそうにないから、約束は、しないでやる」 「……言ってくれるじゃねぇか」 わざと恩着せがましい口調で言うイシトに、カーシュも不敵に笑い返し、改めて胸元にキスを落とした。 「あ……っ……」 イシトがわずかに声を上げる。 カーシュは、もう何も言わずに、ただイシトを抱いた。イシトも、黙ってそれに応えた。 判っている。 こうして心を、身体を、委ねるのはお互いだけ。 それは無言の約束――。 Fine.
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うわっ。なんて久しぶり
のカーイシ! |