「イシト! カーシュが戻ったよ!」
銃の手入れをするイシトの背後で、セルジュの弾んだ声がする。
カーシュは、ここしばらく属性の関係でパーティーから外れていたのだが、今夕、また戻ることになったのだ。
「おうっ、小僧。元気にやってたか?」
カーシュの力強い声。
「うん! 天下無敵号のみんなは元気?」
その朗らかな声に、カーシュにまとわりつく子猫のようなセルジュの姿が目に見えるようだ。
だが、イシトは振り向かずに、素知らぬ振りで銃の手入れを続けている。それでも、イシトの神経はいつしか張りつめ、カーシュの気配を探っていた。
一言たりとも聞き漏らさぬよう、君の声を聞いている。
体中が耳になったかのように。
セルジュと話す、君の笑い声が近付く。
君の視線が、こちらに向いたのを感じる。
次の瞬間、君は私に声を掛けるだろう。
「イシト……」
鼓動が、強く早く鳴り出す。
けれど、私は振り向かない。
振り向いたりしない。
「おい、イシト」
知らぬ素振りを続けるイシトに業を煮やして、カーシュはイシトの前に回り込んだ。腕組みをして、口をへの字に結んだカーシュの顔が近付く。
「おい、なにシカトしてんだよ!」
イシトは膝の上で手にした銃を見つめたまま、唇をギュッと噛んだ。
シカトしてなどいない。
そんなこと、出来ようはずもない。
先ほどからこんなにも、イシトの全神経はカーシュを向いているというのに。
彼は知らないのだ。
イシトがどれ程に、その声を待ちこがれていたか。
そして、そんな自分をもてあましているかを。
「おい。返事くらいしたっていいだろ?」
カーシュが腰をかがめ、イシトの顔をのぞき込む。
「……なんだ」
イシトは顔を上げずに、ぶっきらぼうに答えた。
「なんだ、とはご挨拶だな。せっかく戻ってきたのによ。また会えてうれしい、とまでは言わなくても、もう少し言いようがあるだろ?」
カーシュが鼻を鳴らし、ブチブチと文句を言う。
そんな仕草さえ、懐かしい。
ほんの数日離れていただけだというのに、もう何年も会っていなかったかのようだ。
思わずにやけそうになる顔を伏せたまま、イシトは呟くように言った。
「やれやれ、ここ数日、気楽に過ごしていたんだが、また要らぬ気遣いをしなければならなくなったな……」
「のぁにぃ!? どういう意味だよ、そりゃあ!」
怒鳴りだしたカーシュに、慌ててセルジュが飛んでくる。
「あああ! 久しぶりに会えたっていうのに、ケンカは無しだよ! 止めてよ!」
「むがががががが……」
端でオロオロするセルジュに、カーシュは拳を握りしめ、唸った。イシトはついに笑い出した。
「クックックッ……相変わらずだな、君は……」
肩を揺らしながら、ようやく顔を上げたイシトは、じっとカーシュを見つめた。
いつの間にこれ程、この男は自分の中に入り込んでいたのか。
ずっとずっと昔から、知り合っていたかのような想い。
失いたくない、大切な存在。
否定しがたい真実。
笑い納めたイシトは、改めて小さく唇の端を上げた。
「お帰り、カーシュ……」
Ende.
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