そばにいて

 


「……カーシュ……カーシュ!」

 薄暗い室内で、カーシュはガバッとベッドから跳ね起きた。息が荒く、体中じっとりと汗ばんでいる。

「……どうした? ずいぶん、うなされてたぞ……」

「……イシト……」

 傍らで心配そうに覗き込むイシトに気付き、カーシュは安堵のため息と共に照れくさそうに口の端を上げた。

「いやな夢でも見たのか?」

 イシトが苦笑混じりに見つめる。

「どんな夢だったんだ?」

 カーシュは口をへの字にして黙り、イシトから目を逸らすようにうつむいた。

「……忘れちまった」

「……そうか」

 イシトはそれ以上訊かなかった。たった今見た夢だ。朝になってからならともかく、夢の途中でイシトに揺り起こされたのだ。忘れたはずなど無い。おそらく、自分には話したくない夢なのだろう。イシトはそう察して黙った。

「カーシュ」

 イシトは唐突に、カーシュの頭を自分の胸に抱き寄せた。

「……ん?」

 カーシュが戸惑ったような声を上げる。イシトはかまわず、そっとカーシュの髪を撫で始めた。

「君が、いつも私にしてくれるだろう? ……それで私は……うまく言えないが……ホッとして、泣き出したいような気持ちになる……」

 イシトの指は、カーシュの髪を梳くように優しく撫で続ける。カーシュはイシトの胸に抱かれて、ゆっくりと目を閉じた。

「少しは落ち着くか?」

 イシトはそっと、その髪に口づけた。

「……イシト……」

 囁くように言った後、続けてカーシュの唇が動いた。

『そばにいてくれ。ずっと……』

 それは声にはならなかった。言い掛けたその言葉を、カーシュは飲み込んだ。言えやしない。それは、言ってはいけない言葉だ。それは、彼らの自由になることではなかった。
 だがその時、聞こえないはずの言葉に答えるように、イシトはカーシュを抱きしめる腕に力を込めた。

「……もう少し眠れよ。こうしているから……」

 カーシュの耳元で、イシトが優しく囁いた。

「ああ、そうする……」



そばにいてくれ。

おまえがいるから、俺は強くなれる。
支えられているのは、本当は俺の方。
おまえがいてくれるから、俺は進んでいける。
だから――。

そばにいてくれ。
ずっと、俺のそばに。




Ende.

 

言い訳

キリ番リクエスト「甘えたいのに甘えられないカーシュを、実は察しているイシト」です(笑)。
そのまんまやねん(^^ゞ。
ちと短いですが、ほのぼのラブラブの二人です。
こんなものでお許しいただけます? >綾さん。

2001.10.4