魔法に掛かけられた夜に

 


 ぽっかりと目を開けると、見慣れない部屋の天井が目に映った。明かりを落とした部屋に、月明かりが差し込んで薄明るい。ここはどこなのだろう? それよりも、私はなぜこんな所にいるのだ? そんな当たり前の疑問が浮かぶ。起きあがろうとするが、身体は重く、自分のものではないように思われる。
「イシト? 目が覚めたのか?」
私の動く気配を感じたのだろう。窓辺で人影が声を発した。聞き覚えのある声。
 ぼんやりとした頭で、声の主を思い出そうとしながらそちらに顔を向ける。半開きになったカーテンの陰。細身の男が窓辺に腰掛けている。青白い月光が、男の姿を浮かび上がらせている。



  アルフ。
  そうだ、思い出した。私はアルフと酒を飲んでいたのだ。



 頭を振りつつ、何とかベッドに身を起こす。
「無理せず休んでいろ…しかし、あんなに酒に弱いとは思わなかったぞ…」
アルフがわずかに声に笑いを含ませる。彼は窓枠から腰を上げ、ゆっくりと近づいてくる。私は、思わず咎めるように彼を見返した。アルフはお構いなしにベッドの端に腰掛けた。
「おかげで俺は、全然酔えなかった…ああ、まだふらつくだろう。そうだ、シャワーでも浴びたらどうだ? 少しはすっきりするだろう」
アルフはそう言うと、返事を待たずに立ち上がり、バスルームのドアを開けて明かりをつけた。
 眩しい。
 突然、眼を射る明かりのまばゆさに、私は反射的に目の前に手をかざした。だが、アルフは平気でバスルームに入り、タオルを用意している。私は、思うように動かない自分の体を、何とかそこまで運んだ。アルフは私がバスルームに入ると、小さく頷いてまた窓辺に戻っていった。衣服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
 キュッ。シャワーの蛇口をひねると、勢いよく頭上からお湯が降り注ぐ。少し熱めのお湯が心地よく、私は壁にもたれ、じっと眼を閉じ、お湯に打たれていた。
 キュッ。蛇口をひねる音がして、突然、シャワーのお湯が止まった。ハッとして目を開けると、そばにアルフが立っていた。いったい、いつの間に…? そう思う間もなくアルフの手が伸び、私の濡れた頬を撫でる。その手が水を含んで額に掛かる私の髪を掻き上げると、目の前にアルフの顔が迫っていた。仮面に半ば隠されたその表情は窺えない。そして、彼の唇が、私にそっと触れた。私はピクリと身体をわななかせた。
「…おまえは真っ直ぐすぎる…」
アルフの手が、そのいかにも魔術師らしい器用な手が、私の顎を掴んで顔を上向かせた。改めて唇が押しつけられる。
「そのために今までも、自分自身を傷つけてきただろう…」
アルフの手が、私の身体を這う。触れるか触れないかという微妙な仕方で、彼は私の胸から腹に掛けてを撫で回した。押し当てられた唇の隙間から、アルフの舌先が伸びてくる。いとも容易く、それは私の唇を割って進入してきた。アルフの舌先は、その手の動き以上に繊細な動きで私の口腔内を犯す。



  なぜ、私は抗えないのだろう?
  なぜ、拒む言葉の一つさえも口にすることが出来ないのだろう。
  頭がしびれ、身体がしびれ、自分自身、意のままにならない。



 アルフの唇は首筋を這い、胸を少し強く吸った。
「…そのままでは、いつかもっと傷つき、折れてしまうだろうに…」
アルフが胸元で囁いて、舌先で乳首を転がした。
「あ…ぁ…ぁぁぁ…!」
バスルームに、低くくぐもった甘い嬌声が響く。



  誰の声? 私の? そんな馬鹿な…。
  なぜ、こんな事になったのだろう?
  なぜ、私は彼の為すがままになっているのだろう?
  酔っているからだ。だから動けないのだ…。



「おまえは知らなくてはならない…世界はおまえの思っているように秩序だったものではない。もっと混沌としていい加減なものだ…」
アルフの手が私の中心へと伸び、指先でそっとなぞった。
「っ…う…あっ……」
思わず身をよじる。だが、私はアルフから逃れるすべを持たない。アルフの指先は強く、弱く、私をいたぶる。私は、いつかステージ上で見たアルフのカードさばきを思い出した。あの巧みな手の動きが、今、私を責めさいなんでいる。




  『一緒に飲まないか? 今夜は風が啼いている…一人で飲むには嫌な晩だ…』

  食事をとろうと入った酒場で、突然声を掛けられた。
  なぜ断らなかったのだろう?
  それまで、ほとんど話したことさえ無かったというのに。
  決して酒に強いとは言えない自分を知っていながら、なぜ私は酒を口にしてしまったのだろう?

  きっと私は、彼の魔法に掛けられたのに違いない。
  そうでなければ、こんな事になるはずがない。




「…んっ…あぁ…っ…!」
アルフの手が、私の秘所の入り口を撫でた。私の身体が、反射的にのけぞる。アルフは石けんを手に取り、少し泡立てて再びそこに指をうごめかせた。意に反して、身体が反応してしまう。
「あ…ぁ…っ」
おそらくすがるような眼で、私は彼を見つめていたのだろう、アルフは仮面の奥の眼で、優しく私を見つめ返した。




  ああ、そうだ。
  この眼に出会ったからだ。
  この仮面の奥に潜む、寂寥とさえ呼べる深い哀しみを宿した眼に出会ってしまったから。
  飄々としたいつもの彼からは窺い知れない、身震いしそうなほどの寂寞。
  その眼差しで、彼が私に声を掛けた時から、私は彼のマジックに巻き込まれていたのに違いない。




 アルフの指が、少しずつ私の中に入ってくる。決して性急ではなく、それは、私の反応を伺うようにゆっくりと出し入れされる。
「あっ…あ…アルフッ…!」
自由にならないと思っていた私の手が、知らぬ間にアルフの背にすがっていた。アルフが、少し乱暴に私の唇を奪う。舌先が押し込まれるのとほとんど同時に、アルフ自身が押し入ってきた。
「ん…っ…!!」
アルフが私の中で蠢く。強く、弱く、弱く、強く…。




  なぜ?
  なぜ?
  なぜ、彼は…?




「アルフ! あ…アルフ!!」
だが、唇を解放された私は彼の名を呼び、彼の背にしがみついて弾けた。



***



 「悪かったな…無理に誘って…」
唐突な彼の言葉に、ぼんやりと天井の明かりをよぎる湯気を見つめていた私は、言葉の意味を掴みかねて、黙ってアルフの顔を見返した。
「…いや…酒、飲めないとは思わなかったんでな…」
アルフは、私の耳元に囁いてそこに口づけた。
「…俺は、おまえを見ていた…多分、出会った時からずっと…」
軽く耳たぶを噛んだアルフは、少し照れくさそうに私を見つめた。
「おまえを見ていると、ずっと昔、忘れ果ててしまうほど昔、たった一つのことを思い詰めて生きていた俺自身を思い出す…おまえは…真っ直ぐすぎる…」
唇がそっと押し当てられる。ついばむように、アルフの唇が私の唇を弄ぶ。
「おまえは知るだろう…世界は…歪んでいて、くだらなくて、そうして、だからこそこんなにも甘美だ…」




  そう、私は知るだろう。
  この、魔法に掛けられた夜の甘さを―――。




END.

 

言い訳
そりゃ、言い訳無くして、こんなものは出せませんわね(^_^;)
全くの出来心的に書いてしまった、初めてのアルイシです。(最初で最後かも?)
初めてでこんなエロだなんて、カーシュ兄ぃに申し訳が立ちませんよね。
いえ、でも浮気とかじゃなくて、この次元のイシト隊長は清く正しくまっとうに(?)軍人してるのでございます〜。
 実はアルフはゲームでほとんど使ったことがないし、つかみ所のないキャラなんで、どうしようかと思いました。でもそこを逆手にとって、訳もわからず戸惑う隊長を(^^)v
 基本的に愛情がない、中身なしのエロはいやなので、まあ、こういう展開が妥当かしらと。でも、もって行き方が強引ですが(^^ゞ

しかし、先日の「つぼみ」から、私、どうしちゃったのでしょう…。以前なら、こんな濡れ場(文字通り!)恥ずかしくて書けなかったのに。
何かがプチンとしちゃったのでしょうかしらね(笑)?

2001.3.18