囚われ
〜続・魔法に掛けられた夜に〜

 


 「無かったことにして欲しい…」
硬い面もち。言葉を向けるべき相手の足下に視線を向けたまま、抑揚のない声でイシトは言った。
「いきなりやって来て、何を言うかと思えば…」
アルフはクックッと肩を揺らした。イシトは更に顔をこわばらせた。
「…何を怖がっている? 俺が吹聴するとでも思っているのか? …おまえが…俺に抱かれたと…」
イシトはカッと頬を染め、顔を背けた。
「…そうじゃない…」
絞り出すように言う。
「忘れたいんだ…あの時、私はどうかしていた。酔ってたんだ…だから、君も忘れて欲しい…」
苦しそうに顔を歪めるイシトにアルフの手が伸びた。その手はイシトの顎を軽く掴んだ。アルフの仮面の奥の強い眼に見据えられて、イシトはそれだけで動けなくなる。
「それなら素知らぬ顔をしていればいいものを、何故、あえて忘れたいはずのこの部屋へ来た?」
イシトの頬がピクリと動いた。アルフの手に少し力が込められ、イシトの顔をこちらに向かせようとする。
「あの夜、確かにおまえは酔っていた。だが、眼を逸らすな。おまえは自分の意志で俺に抱かれたんだ」
イシトの肩が小刻みに震える。
「…認めてしまえばいい。そうすれば楽になる。俺を否定しようとするな。おまえは…俺を畏れ、そして惹かれている…」
アルフはゆっくりとイシトに顔を近づけ、口づけた。イシトは抗いようのない力に掴まれたように動けなかった。アルフはもう一方の手を伸ばし、イシトの腕を引き寄せ抱き締めた。イシトの震えが伝わる。
「認めたくないのだろう…俺とこうしているのが…それほど怖いか?」
震えはアルフがもう一度軽く触れた唇にも伝わる。苦しげに寄せられた眉、伏せられた長いまつげの震えが痛々しい程だ。だが、アルフは放そうとはしなかった。
「おまえは真実から目を逸らしている。かたくなに、世間の規範とやらに囚われて、目の前にある真実を見ようとしない…前にも言ったな? おまえは真っ直ぐすぎる…真正面の真っ直ぐな道しか見ようとしていない。だが、そこに留まる限り、おまえに真実は見えない」
イシトが、初めてハッとしたように眼を上げ、アルフを見返した。アルフは微笑した。
「そこから足を踏み出して見ろ。視点が変われば、自ずと見えるものも変わる。今の自分を打ち壊せ」
イシトは、アルフの胸に額を押し当てるようにして、再びうつむいた。
「…それは…これまでの自分を否定しろと言うことか…?」
心細げなイシトの声に、アルフは優しくその肩を抱いた。
「すべて否定することはない…怖がることはないさ。俺が居る」
イシトは不思議そうな眼をアルフに向けた。その瞼に、アルフがそっと口づける。
「俺がそばにいる。俺が見ている。おまえは…ここで変わるんだ…そのために、おまえはエルニドへ来なければならなかった…」
イシトはいっそう不思議そうにアルフを見上げた。
「君は……君はいったい何者なんだ…」
アルフは一瞬戸惑ったように黙ったが、すぐに、またクックッと笑った。
「俺か? 俺は…誰でもない…何者でもない…それが、俺は気に入ってる」
アルフはイシトの頭をぐいっと引き寄せ、深く深く口づけた。イシトはもう、震えてはいなかった。その手はいつかアルフの肩を掴み、そのキスを受け入れた。アルフの舌先は先夜と同じに、巧みにイシトを翻弄した。
「…ん……」
イシトの吐息が部屋にかすかに響く。イシトの身体をまさぐるアルフの手がイシトの理性を削ぐ。アルフの唇がイシトの首筋を這うと、イシトは堪らず、しがみつくようにアルフの首に腕を回した。
「あっ…あぁ……ア…ルフ…」
アルフはイシトを支えるように抱き締めてベッドへいざなった。
「俺はおまえを見ている…いつでもおまえを見ている…怖がることはない…」
耳元で囁くアルフの声を聞きながら、イシトの思考は停止した―――。




END.

 

言い訳
アルフさん、うまい!
もう、その一言に尽きますね(笑)言葉巧みに隊長を・・・。
もう足抜け出来ません、我らが隊長!

なんて言って、ファンの皆様のおしかりを受けそうです(^_^;)

そして、カーシュ兄ぃ。ごめんなさい<(_ _)>

2001.3.25