イシトは声を発しなかった。口元をきつく結び、羞恥に目を堅く閉じ、顔を背けている。その手は苦痛から逃れようとするかのようにシーツを握りしめていた。そのくせ、その白い頬は紅潮し、切なげに眉が寄せられ、それがかえってカーシュをそそらないでもなかった。カーシュは意地でも声を上げさせたい衝動に駆られたが、愛撫する手を止め、イシトの顎を掴んで自分の方を向かせた。
「…イヤなのかよ…」
カーシュの赤い瞳が、憤りを秘めてイシトを見据える。イシトは困ったような顔でカーシュを見上げた。カーシュは身を起こし、腕組みして座った。
「おまえ…内心で、ホームの俺と較べてんだろ…。こないだは、ホームの俺とのつもりで、だからあんなに…。」
初めてカーシュに抱かれた夜、イシトは自分から抱いてくれと言った。自分でも訝しいほど、カーシュとの行為に溺れて声を上げた。イシトは赤面しつつ、驚いて身を起こした。
「何を馬鹿な…!」
カーシュが口を尖らせて拗ねたように呟く。
「…あん時、ホームの俺のこと、好きだって言ってたじゃないか…」
「"好きだ"じゃなくて"だった"だ!言葉は正しく認識しろっ!」
イシトが照れ隠しに怒鳴る。だが、カーシュは引き下がらない。
「そんなこと言ったって、結局俺は代わりだろうがっ」
「いい加減にしろっ!」
イシトが大きな声を出し、カーシュは黙って下を向いた。イシトはフーッと溜息をついた。
「…君こそ、アナザーの私に、色目を使ってたんじゃないのか?君は、どっちの私でも良いんだろう…」
カーシュは慌てた。
「な、何言ってんだ!俺はアナザーのおまえが蛇骨館に入った辺りには、小僧を捕まえに遠征してたし…戻ったら戻ったで、すぐ古龍の砦に移ったんだ。ほとんど面識はねぇぞ!」
イシトは目を伏せて、冷たく静かに言った。
「ほとんど…か。まったく会ってないわけではないな?」
「おいおい…」
カーシュが頭を掻く。イシトが畳みかける。
「会ったんだろう?」
「…そりゃあ、兵士たちの間で評判だったし…ちょっと気にはなったけどよぉ…」
「…けど?」
イシトはさすがに特殊部隊隊長らしく、尋問で容赦はしない。
「なんにもしてねぇって!ホントに!」
カーシュが手のひらをパタパタと振る。イシトはあくまでも冷静に問いつめる。
「本当にか?…君は言ったな…ホームもアナザーも同じ"俺"だと」
「言ったけどよぉ…」
カーシュは困惑して汗びっしょりだ。イシトはじっと、その蒼い眼でカーシュを見つめた。それは偽りや言い逃れを許さない強さを持っていた。
「ああ、もう!思ったよ!思いました!美味そうなヤツだって!」
イシトの視線に耐えかねて、カーシュが汗を拭いながら言った。今度困惑したのはイシトの方だ。
「…なんだ?美味そうって…」
カーシュは開き直って口をへの字にして笑った。
「だぁかぁらぁ〜、ちょっと、つついてみてぇなぁって、思っただけだよ…」
それを聞いたイシトがちょっと口を尖らせたのを、カーシュは目ざとく見つけ、ニヤリとしてイシトの顔を覗き込んだ。
「おまえ…妬いてる?」
「…別に」
イシトがそっぽを向く。カーシュは笑ってその先へ回り込んだ。
「なぁ、妬いてるだろ?」
イシトは黙って下を向く。カーシュはまた、その顎を持ち上げ上向かせ、わずかに尖らせたままのイシトのくちびるに、そっと口づけた。
「おまえが好きだ…」
そのままイシトを抱き締め、カーシュが耳元で囁く。耳元へ口づける。イシトが、カーシュの肩にしがみつくように手を掛ける。
「もう…言わないでくれ、言わせないでくれ…こんな事」
かすかに震える声で、イシトが囁く。カーシュがイシトの細い金髪を指で梳く。
「ああ…悪かった…」
イシトもカーシュの、その不思議な色をした長い髪を指に絡ませる。
「君がいて…私がいて…一緒に戦って、時を過ごして…それで…いいだろ?」
カーシュの肩に鼻先をこすり付けるようにしてイシトが呟く。カーシュは答える代わりに、そっとイシトを押し倒した。再びくちびるが重なる。先程とは違って、イシトもその腕をカーシュの背に回し応える。彼なりにカーシュを気遣っているのだろう。イシトはカーシュの愛撫に応えて、そのごつい手を取り、指先に口づけた。
「この手が…好きだ…」
カーシュが堪らず力いっぱい抱き締め、イシトは苦しげに喘いだ。そのくちびるをカーシュが奪う。
「…ん…」
長く、熱い接吻。
熱い嫉妬(ジェラシー)―――。
FINE.
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