《Imagine》




―――――もしも「最後」が訪れるとしたら、誰と一緒にいたい?



「…何だ、それは?」
「っていう話に、友だちとなったことあるんです」
『肉眼で確認できる珍しい天体現象・惑星直列』というニュースの流れていたTVをプチンと切って、泰継さんは顔を向けた。
「『女子高生』というのは、そういったことを考えるような職業なのか?」
「…えーと、違います」
心底不思議そうな泰継さんの様子に、思わず苦笑して私は答えた。


『私のいるべき場所は、お前のいる場所にほかならない』
そう言ってあの戦いの後、私と一緒にこの世界へ来てくれた泰継さん。
龍神さまがしてくれた(らしい)さまざまなフォローのお蔭だけでなく、京で発揮していたもともとの能力や知識もあって、今や泰継さんは理系大学の研究生としてあちこちひっぱりだこの状態だ。
今の環境にすっかり馴染んでいるくせに、やっぱりどこかずれたままの感覚。
そんなところが、本当にこの人らしいと思える。
「では、何故だ? 教えてくれ、花梨」

…感じた疑問をとことん追求しないと気がすまないところも、本当にこの人らしい。


とりあえず、私は説明を試みた。
「えーとね、数年前にも惑星直列って起きたことあるんです。この言葉自体、ちゃんとした天文学の用語じゃないらしいけど。…グランド・クロスって言ったかな?
たくさんの惑星が一列に並ぶから、その影響で災害が起きるかもしれないって考える人がいたんです。『世界が終わる』って予言もあった時期だったから、真剣にそれを心配してる人もいたの」
泰継さんは、以前京でしていたような皮肉な笑いをしてみせた。
「…くだらぬ。言霊で周りの不安を呼ぶだけの輩が、この世界にもいるのだな。
陰陽道も星を読み、未来を読む。だがそれは災厄を防ぐなり、克服するなり、そのための方法を探るためにあるものだ。不安を煽るだけの予見など、何の意味もあるものか」
「んもう、泰継さんたら! 確かにそうだけどねっ、まだ話には続きがあるんだったら!
…それでね、そんな話になったとき『誰の顔を見ていたい?誰と一緒にいたい?』って言われたんです。
私、いろいろな人の顔が頭のなかに浮かんだの。お母さんやお父さんとか、友だちとか、憧れてた従兄弟のお兄ちゃんとか。
でも結局、一緒にいたい誰かって分からなかったの」
泰継さんは私の言葉にほんの少し押し黙ると、やがて口を開いた。

「…今は?」
「え?」
「今はどうなのだ? 今も、そうなのか?…花梨」
不安そうに見つめてくる泰継さん。
私より年上のはずなのに、どうしてこういう時は小さな子供みたいなんだろう。
いじめられた仔猫のような瞳に、責めたてられている気さえして私は慌てて側による。
「も、もちろん、今私が一緒にいたい人は目の前にいますよ! さっきの話は、京へ行く前のことです!」
「そうか。…良かった」
にこ、と嬉しそうに至近距離で笑いかける泰継さんの様子に、急激に心音が上がる。
ときめきすぎて、別の意味で最後を迎えてしまいそうだ。
それから、ふと考えて私は続けた。
「…それにあの頃私、『最後』を考えるのがとても怖かった。だから、よけい突き詰めて考えられなかったんだと思います」
「では、今はもう怖くないのか?」
「はい。だって、泰継さんがいてくれるから」
「…?」
わからない、といった様子で見つめてくる泰継さん。
私はそんな泰継さんの頬に手を差し伸べると、微笑んだ。
「私が一緒にいたいと願うのは、泰継さん以外にいないけど。
…だけど泰継さんが側にいてくれるなら、私は絶対に『最後』だなんて思わない。龍神さまを呼んだあの時だって、そうだったもの。
私は泰継さんがいなくなってしまうことが、いちばん怖いの。…だからそれ以上に怖いものなんて、何もないんです」
泰継さんは虚をつかれたように私を見つめ、やがて破顔した。
「…お前には、敵わない」
その言葉に、私は得意げに笑う。
「ふふっ、そう。泰継さんが側にいてくれる限り、私は無敵なんだもの」
そのまま私たちは額をつきあわせ、どちらともなく笑いあったのだった。



―――――だけど、話はそれで終わらなかった。



「…だが、気に入らぬ」
不意にそうこぼす泰継さんに、今度は私が首をかしげる。
「…? 泰継さん?」
「かつてお前が側にいたいと思い浮かべた人物に、身内や友がいるのは仕方ない。だが…」
いきなり身体が強く抱き寄せられる。
「…!! 泰継さん!?」
「『憧れていた従兄』とは、どうにも気に喰わぬ」
しおたれた仔猫のようだった瞳は、今や強くしなやかな肉食獣を思わせるように煌いて私を見つめ返す。

う゛っ。 私…(また)墓穴を掘った?

「そ…、そんなこと言いましたか?」
私は必死の思いで身を引こうとしながら、何とか誤魔化そうととぼけてみせた。
「言った。前にもいっただろう? 私は『忘れることがない』と。ましてや、お前の言葉を忘れるなどありえない」
私の抵抗を無駄だと嘲笑うかのように、泰継さんの腕はいっこうに揺るがない。
「い、言ったかもしれませんけど、でも! でもあれは京に行く前の話で…!」
「…そんなことは分かっている。だから私は、気に喰わぬと言っているだけだ」
浮かべられた妖しいまでの美しい微笑みに、私の背を冷たい汗が流れ落ちていく。
「ですから、私が好きなのは泰継さんだけで…」
「その言葉はとても嬉しい。…だが今、私が欲しているのは…」
いつのまにか、泰継さんの一方の手が腰へと回っている。
「…は? ……ええっ!?」
私は今まで座っていたソファの上へと、そのまま押し倒された。
そのあまりの素早さに感心する間もなく、彼の手はどんどん私を暴いていく。
「ちょ、ちょっと待…」
「一緒にいたいと思うのは私だけだと、お前は言った。…私も同じだ、いつも…ともにいたい。お前を…感じていたい」
「……!」
…ずるい。あなたのそんな殺し文句に、私が逆らえるはずない。
「……花梨」
耳を滑り落ちてくる、吐息交じりの甘く掠れた声。
「あっ!!」
優しく触れてくる唇。
「……………んんっ………はぁっ………………やっ……」
私を翻弄する、甘い痺れ。
それきり、私の思考はあっという間に霞んでいったのだった。









…闘いすんで、日が暮れて。
「言い訳もさせてくれないなんて、あんまりです」
少し怒った口調で私が口火を開くと、さすがに泰継さんはしゅんとした。
「すまない…」
さっきまでの強引な泰継さんとは、まるで別人だ。
「…だが、お前の口から別の者への想いが洩れたとき、どうにも我慢がならなかったのだ。
この胸の焦げ付きは、お前にしか癒せない。…だから、触れたかった」
「………」
あまりの言葉に私は絶句するしかない。
ようやく引きかけていた熱が、どんどん上がっていくのを感じる。

確信犯の、告白。
それを怒るに怒れない、私。

悔しくてせめてもの腹いせに、私は顔を見せまいと泰継さんから身をそむけた。
「…花梨、怒ったのか? …花梨…」
が、今にも泣き出しそうな泰継さんの声にあえなく陥落した。
「怒ってません…」
ああもう、我ながらなんて甘いんだろう。
「よかった。お前に嫌われたなら、私はどうすればいいのか分からない」
そして、また笑顔。
…もう、重症だ。この人には、勝てない。
私は泰継さんに気付かれないよう、そっと小さなため息をつく。
それから、気を取り直して言った。
「ね、お願いがあるの」
「叶えよう。お前の願いなら、なんなりと」
こらこら、まだ何も言ってないでしょ? まったく、この人ときたら…。
「惑星直列は今度いつ起きるか分からないってさっきニュースで言ってましたよね?
だから連れていってください。見られなくなる前に。
それから…星のほかにも私、いろんなものを見たい。泰継さんと一緒に」
泰継さんは手を伸ばして、柔らかく私を抱きしめる。
「ああ…、そうだな。私も見たい。…この世界にある何もかもを。これからずっと、お前とともに」
私は泰継さんの首に両手を回し、そっと目を閉じた。




私はこの先ずっとこの人に勝てそうにない。
でも、勝てなくてもいいの。
泰継さんは私の弱点。
だけどそれ以外、私は最強無敵でいられるんだから。





タイトルは某ビートルズの曲からでした。全然歌詞と関係ない内容ですが。←コラ。
NHKニュースで「珍しい天体現象、惑星直列」と聞いて、こんなことを思い浮かべた自分の煩悩に乾杯。
一応現代EDのスチルをイメージしてみたのでその画面を見て、ああそうかと思っていただければもっけの幸いです。
ちなみに遙か2初書き。…自分で書いててなんだけど、先代地の玄武さんと区別がつきゃしませんね。はっはっは(自虐的)

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