《はくりゅうといっしょ―おやすみ篇― 》
『神子と離れるの? ……いやだ』
『ええ? どうしようかな』
『仕方ないんじゃないかしら。白龍にとってはあなただけが頼りなんだから。今日は一緒にいてあげたら?』
『…わかった。白龍、慣れるまでだからね』
『うん!神子、大好き!』
『全く…先輩は甘やかすんだから…』
決意とともにこの世界に戻ってきたあの日。朔たちと初めて…ううん、私にとっては、もう一度出会えた日。
…あの夜以来、だろうか。白龍にとって夜は、私と一緒にいることが当たり前になってしまったようで。
それから半年ほど月日がたった今でも、白龍は私の側以外で眠ろうとしない。…特に戦のあと、いやな気が周りに漂っている、そんな夜には決して私の側を離れようとはしなくて。それどころか、
『私が、神子を守る』
そんなことを震える声で、でもきっぱりと告げながら、ぎゅっと抱きついたままでいようとする。
そうした白龍の行動に、戸惑いを覚えないわけではなかったけれど。白龍が私を守ろうと本当に懸命になっているのが分かるだけに、むげに突き放すわけにもいかなくて。そうこうしているうちとうとう、ひとつお布団で眠ってしまうようにもなったりして。
さすがにこれがみんなにバレたら、うんとからかわれちゃったりするだろうことは予想がついたから、ずっーと気をつけてたんだけど。
長旅の疲れをすっかり癒してくれる温泉の心地よさにすっかりくつろいで、つい寝過ごしてしまった熊野の朝。
「―――おはようございます、先輩。いい朝ですね…?」
…私は、にこやかに微笑む譲くんの、とてつもなくドスのきいたモーニングコールで飛び起きるはめになった…。
そして、数十分後。
「…今日という今日はきっちり言わせてもらいますけどね、先輩。先輩は、白龍を甘やかしすぎです。
大体、いくら相手が小さな男の子だからって、添い寝までするだなんて…そういうことはですね、家族とか恋……その、特別な関係にある者に対してだけするものであって、普通は一切―――俺の話聞いてるんですか、先輩?」と、珍しくも痛烈な口調で叱りつけてくる譲くんを皮切りに。
「あの子をいたわってあげたいっていう望美ちゃんの気持ちはよく分かるんだけどさ。あれでも白龍はれっきとした神様なんだし、そういう存在を小さな子供みたいに扱うのはどうかなって、俺は思うんだよね〜」とか、
「望美さんの世界ではどうか知りませんが、白龍は外見でいってもこちらでは、大人として扱われてもおかしくないくらいの年頃なんですよ。お願いですから、その点をよく考えてみてくれませんか?」とか、
「…分かってるよ、お前にこっちの常識をいくら説いたってむなしいってことは。これまでの付き合いで、もうこれ以上はないってくらいよぉーっく分かってる。―――だけどな! 今度ばかりは俺の言うことを聞け! 仮にも嫁入り前の娘なんだろうが、お前は!」とか
「お子様に添い寝なんかしたって面白くもなんともないだろ、姫君? そんなに人肌が恋しいなら俺に言いなよ。お前になら、いつだって頼まれてやるからさ」とか。
せっかくのスクランブルエッグも冷めゆくままにお預けをくらい、みんなに入れかわり立ちかわり諭され、からかわれる。
―――そんないとも爽やかなる朝を、私は迎えていた(泣)
「もう…兄上、皆さまも、いい加減にしてくださいな。望美たちは、朝から何も口にしていませんのに」
「…確かに、理解の範疇を超えているとは思うが…、白龍は白龍なりにああして神子の側に居ることで、神子を守ろうとしているのだろう。そうした気持ちを一概に我々が責めるのは…」
「………そうだな。怨霊は人の持つ陽の気に渇きを覚え、それを喰らわんとして襲って来るもの。まして神子が持つ強い陽の気となれば、なおのこと。眠りについた神子が無防備な状態にあることを白龍が憂い、気遣った。その結果なのだろう」
「ええ。ちゃんと理由があるのですから、皆さまがそのように目くじらをたてられる必要はないかと思います」
「「「―――朔(殿)!」」」
「しつこい殿方は、嫌われましてよ?」
惚れ惚れするほど綺麗な笑顔を見せた朔の言葉や、先生や敦盛さんのとりなしがなかったら。…私は朝ご飯どころかお昼ご飯すらもロクにとれないままで、一日熊野を歩き回るはめに陥っていたのかもしれない…。
―――というわけで、ちょっぴり反省。
その意をみんなにも示すべく、その夜は白龍と別々の部屋で休むことにした。…のだ、けれど…。
月以外に明かりらしい明かりもなく。遠く響く虫の声のほかには、物音ひとつせず。もちろん、周りには一切人の気配もなくて。そんな、静かすぎる夜。
眠ろうとすればするほどに、かえって意識が冴えてしまうのが自分でも分かる。
…そういえば、ここの夜っていつもこんなふうにしんとしてたんだよね…。こっちに戻ってきて以来、夜はずっと白龍が側にいて、ひとりだったことなんてなかったから気づかなかったけど。
横になったままそんなことをぼんやり思っていると、ぱたぱた、と軽い足音が戸の向こうにしてきて。
「神子…」
聞き覚えのある声に視線を向けた戸の先、立っていたのは案の定の人物で。私は思わずため息をついた。
「…白龍、あのね―――」
「神子がいないと、眠れない。…『寂しい』」
うるうるさせながら、じっとこちらを見上げてくる琥珀色の目。
………これで神様を子供扱いするなって言われてもね………。
ため息をもうひとつついてから、ぽんぽんと上掛けを叩く。
「もう、しょうがないなあ。…おいで」
そのとたん顔をぱっと輝かせ、ぽふりと、小さな身体がいきおいよく胸に飛びこんできて。
「うん! 神子、大好き!!」
嬉しそうに笑う白龍は、もう反則って言っていいほどにかわいらしくて。
「…甘やかすなって言われても、ついつい、お願いをきいてあげたくなっちゃうんだよねえ…」
思わずぼやくと、私に擦り寄っていた白龍がきょとんとなった。
「願いを、叶える? ううん、違うよ。神子の願いを叶えるのは、私だもの」
ありがとう、といいながら髪を撫でていると、徐々に目がとろんとなって。
「…今はまだ、力が足りなくてできないけれど。待ってて、力が強くなったら、きっと―――」
あっという間に、すうすうと寝入ってしまった。
それがあんまりほほえましくて、つい笑ってしまう。
…私に弟がいたら、こんな感じなのかな。
『兄弟なんてそんなにいいもんじゃない』なんて、いつだったか将臣くんと譲くんは口々に言ってたけど(そしてその後しっかり口げんかになったけど)。…やっぱり一人っ子の私としては、兄弟がいるのってすごく羨ましいな。
それにしても、この気持ちよさそうな寝顔ったら…くすくす。神様の寝顔をこんな間近で、ナマで拝めた人間なんて、私くらいのものじゃないかな? 考えてみるとこれって、神子の特権よね?
―――ま、翌朝のことを思うと、ちょっとばかり頭が痛いけど(汗)
寄り添う温かな体温に、やがてこみ上げてくる小さなあくび。
私は頭の中からとりとめのない考えを追い出すと、ゆっくり瞼を閉じた。
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元ネタは宇治川帰りの第二章より。タイトルはNHKの某長寿お子様番組をイメージしてつけましたが、お分かりになられたでしょうか。実はこれ「みこさまといっしょ」のほうが分かりやすいかな、と思い、どちらにしようか結構迷ったのですが…、さすがの白龍も「様」付けでは呼びませんし、なんだか星の一族を彷彿とさせるタイトルになってしまうかな、と思ったのでこちらにしてみました。